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ビジネス環境の変化が激しい昨今、どの企業にも新規事業やイノベーションの創出が求められる。開発力を強化することに加え、RPA、AIなどを活用して、「デジタル変革」することが必要である。一方、メンテナンスに苦慮する「レガシーシステム」から脱却できていない企業も多いのが現状だ。本稿ではレガシーマイグレーションの最前線を紹介。さらに最新テクノロジーによりビジネス変革に取り組んでいる事例に迫る。
「AIがデータ入力する時代」に至るまで
「メインフレームへのデータのパンチ入力からスタートし、その後は入力作業だけでなくデータの処理や出力、つまりシステム開発も手掛けるようになり、現在ではロボットやAIが人に代わってデータ入力する時代になりました」ーー。「イノベーションフォーラム2018」に登壇した東京システムハウス 代表取締役社長の林 知之氏は、「IT進化の歴史」が1976年の同社創業から現在に至るまでの道のりを示すことを示唆した。
そしてそれはシステムのメインフレームからオンプレミス、クラウドというITインフラ移行の歴史ともいえる。マイグレーション(システム移行)に関して高い技術力を持つSIerとして知られる東京システムハウスは、技術の進歩とともにビジネスの範囲を広げていく過程で、大手企業を中心にレガシーシステムの移行案件を多く手掛けてきた。
また近年ではIoTやAIなどの先進技術を使ったソリューションにも力を入れており、KDDI総合研究所との協業を通じてIoT社会の実現に向けた革新的な事業モデルの開発に取り組んでいる。
「今後、無線通信は5G規格の実用化でさらに高速化するほか、準天頂衛星によりGPSの精度は誤差わずか数センチになると言われています。そこにさらにAIやIoTといった技術が組み合わさるのです。かつて夢に見た鉄腕アトムやドラえもんの世界が実現するのではないかと、今からわくわくしています」(林氏)
レガシーシステムの刷新は「2025年まで」
キーノートセッションには、東京システムハウス ビジネスイノベーション事業部 取締役 事業部長 兼 アライズイノベーション 取締役COO 清水真氏が登壇し、「AI×RPA×超高速開発」について語った。
「『2025年の崖』という言葉をご存知でしょうか?」ーー。清水氏は冒頭、参加者にこう問い掛けた。「2025年の崖」とは、経済産業省が2018年9月7日に発表した「DXレポート」で利用された用語である。
現在ブラックボックス化し、メンテナンスに多くの人手とコストが強いられているレガシーシステムの刷新を2025年までに終えないと、それ以降、日本経済全体で毎年12兆円の損失が生じると同レポートでは警告している。
いつまでもレガシーシステムに予算と人手が掛かっていては、日本企業はデジタルトランスフォーメーションにリソースを投入できず、さらに海外企業から遅れをとってしまう。ましてや、COBOLに精通したレガシー技術者の数は今後減る一方であることから、早急に手を打つべきだと同レポートは提唱する。
事実、レガシーシステムのマイグレーション需要は減るどころか、ますます増えていると清水氏は述べる。
「まだまだメインフレームやオフコンなどのレガシーシステムは数多く稼働していて、弊社に寄せられるマイグレーションの相談も増えています。今後、元号対応や消費税対応など大掛かりな改修が発生することからも、レガシーシステムの運用コストに課題を抱える企業はますます増えることが予想されます」(清水氏)
しかし、重厚長大で複雑な基幹システムを刷新するとなると、現行システムと同等の安定性が担保できるプラットフォームが確保できなかったり、刷新のために多くのコストと時間がかかったり、あるいはマイグレーションのノウハウを持つ技術者が不足したりと、さまざまな課題に直面する。
そうした課題を抱える企業に対して東京システムハウスでは長らく、レガシーシステムをオープン系プラットフォームに移行させる「MMS(メインフレーム・マイグレーション・サービス)」というサービスを提供してきた。
豊富な実績に加え、近年では超高速開発を組み合わせた「MMS for RAD」、AIを活用した「MMS+Enterprise AI」といったサービスも提供しており、さらにマイグレーションの豊富なノウハウを有するパートナー企業との協業を通じて、マイグレーション技術者不足の課題にも対応するという。
山梨中央銀行の「働き方改革」
2016年に東京システムハウスと紙専門商社 国内最大手の日本紙パルプ商事との合弁会社として設立されたアライズイノベーションは、少子高齢社会で深刻化する「労働力不足」の問題解決へ「企業向けAI(Enterprise AI)」、システム開発の生産性向上を図るための「超高速開発」、そしてこれらサービスの基盤となる「クラウド」の3本柱でビジネスを展開している。
同社が現在取り組んでいる重要テーマの1つに「働き方改革」があり、企業における働き方改革の実践を支援するためにAIと超高速開発、クラウド、さらにはRPAを組み合わせた独自の製品やサービスを展開しているという。その導入事例の1つが、山梨中央銀行でのAI-OCR『AIRead』導入・活用の取り組みだ。
事例紹介のために登壇した山梨中央銀行 融資審査部 副部長 渡邊正雄氏によれば、「金融機関を取り巻く環境が大きく変化する中、地方銀行が生き残っていくためには業務改革による行員の生産性向上が不可欠です。そのためには業務のペーパーレス化が必須でしたが、従来の人手による書類のスキャンではどうしても限界がありました」という。
そこで同社は、アライズイノベーションが提供するAI-OCRソリューション「AIRead」を試験的に導入し、概念実証(PoC)を実施した。その結果、AIの学習により十分実用に耐える認識精度を達成できることが分かり、紙書類の電子化作業を自動化できる目途が立ったという。
なおAIReadは、利用規模別に「AIRead Trial」「AIRead Light」「AIRead Standard」「AIRead Enterprise」の4種類のエディションが用意されており、さらに2019年春には従量課金型で利用可能なクラウド型AI-OCRサービス「AIRead on Cloud(仮称)」の提供も予定しているという。
加えて同社では現在、NTTアドバンステクノロジ(NTT-AT)が提供するRPA製品「WinActor」を使ったRPAソリューションにも力を入れている。RPA製品といえば、これまでは海外製の大規模向け製品が大半を占めていたが、純国産のクライアントPC型RPA製品として登場したWinActorは瞬く間にユーザーの支持を集め、現在急速に導入企業が増えている。が増えている。
登壇したNTT-AT ソリューション第二事業本部 担当部長 山本顕範氏は、近年のRPAのニーズについて次のように語った。
「人手不足に悩み、RPAを必要とするはずの中小企業には届いていないのが現状です。またRPAのほとんどの需要は常時稼働ではなく、必要な時に都度利用があるという状況です。そこでこうしたニーズに応えるために、従量課金のクラウドサービスとしてWinActorを利用できる『WinActor Cast on Call』の提供を2018年度中に予定しています。また将来的には、これをAIRead on Cloudと連携させることも検討しています」(山本氏)
AIに既存の技術を組み合わせてデジタル変革を
こうしたAI技術に、東京システムハウスが従来から得意としてきた超高速開発やクラウド、システム連携などの技術を組み合わせることで、デジタルトランスフォーメーションやエコシステム構築が実現できるという。
たとえば、前出のAIReadにETL(抽出、変換、ロード)を組み合わせた「AIRead ETL Option」を使うと、AIReadによって自動的に読み取った書類のデータを、自動的にデータベースに格納できるようになる。これにより、紙書類の電子化と同時にデータの正規化が行えるようになり、より効率的なデータ読み取りや、その結果の確認・修正が可能になるという。
またAIReadのクラウド版であるAIRead on Cloud(仮称)は、実はAIRead本体にはさほど手は加えておらず、超高速開発ツール「Wagby」を使ってAIReadの外側にREST APIのインタフェースをかぶせることでクラウド化を実現している。これと同じ仕組みは、ユーザーが開発したアプリケーションに対しても適用でき、たとえば既存アプリケーションにWagby REST APIインタフェースをかぶせることで、容易にWeb APIを外部に公開できるようになる。
「今後は自社が保有するデータをAPI経由で外部に公開し、APIマーケットを通じて流通させることでマネタイズするビジネスモデルが一般的になるでしょう。その際、一からWeb APIを実装するのではなく、Wagby REST APIインタフェースを活用することで、コストと時間をかけずにWeb APIを公開できるようになります」(清水氏)
またWagbyはどちらかというとWebアプリケーションのロジック部分の高速開発を得意とするが、これにプレゼンテーション層の高速開発ツール「nexacro platform」を組み合わせてUI/UXに優れたシステムを素早く開発できるツール「Wagby+」も提供している。
さらには、東京システムハウスがもともと得意とするCOBOL関連ソリューションのノウハウを生かし、Wagbyで開発したJavaアプリケーションとCOBOLプログラムの連携ソリューションも実現しているとした。
「レガシーシステムをオープン系プラットフォームにマイグレーションした後も、何らかの形で既存のCOBOL資産を活用し続ける企業は少なくありません。そうしたユーザーに対して、WagbyとCOBOLの連携インタフェースを提供します」(清水氏)
さらに、既存のCOBOL資産を有効活用しながらデジタルトランスフォーメーションを進めていけるようなエコシステムを提供していきたいという清水氏。企業のビジネス変革のニーズが拡大するとともに、東京システムハウスとアライズイノベーションが果たす役割はますます大きくなりそうだ。
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