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- 2016/12/28 掲載
「AR」と「IoT」が融合すると、企業は何を実現できるのか
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拡大するAR/VR市場、2020年には1620億ドル規模に
2016年は、エンタープライズ市場における「AR/VR(仮想現実)元年」だと言われた。米国IDCが2016年4月に公開したAR/VRに関する市場調査によると、2016年は40万台と見込まれていたAR用ハードウェアの出荷台数は、2020年には4560万台に達する。さらに、AR/VR市場は年平均成長率(CAGR)181.3%で拡大し、2020年には1620億ドル規模になると予測している。PTCの年次イベント「PTC Forum Japan 2016 ~IoT時代のモノの新しい見方がわかる!~」に登壇した米PTC ThingWorx Studio製品管理部門 バイスプレジデント ビクター・ガーデス氏は、ビジネスの現場における「AR活用」の状況について次のように語る。
「ARはマーケティングや設計/設計レビュー、メンテナンス業務の最適化といった分野で活用されている。今後、ARは企業のあらゆる部門で導入が進むだろう。特に製造業では既存のビジネスプロセスを大きく変革する要因になる」
ARは、コンピュータにある画像データを現実の風景に重ね合わせて表示する技術だ。タブレットやスマートフォン、ヘッドマウントディスプレイなどを通じて、建物の内部構造や機械の設計構造データなどを実際の“もの”と一体化させて表示する。
ほかにも、物理的な製品の上にカスタマイズ・オプションの機能を表示させ、設計段階からデザインを把握してもらったり、家具やインテリア用品の売り場では「部屋に家具を配置するとどうなるか」を顧客に見せたりといった使い方をしている。
またメンテナンスなどのサービス分野では、顧客先に設置された機器が故障した場合のセルフメンテナンスに役立てられている。たとえば医療機器を販売する米国シスメックスは、自社の血液検査装置のメンテナンス方法をARで表示させ、顧客が自身でメンテナンスできるサービスを提供している。
ガーデス氏は「顧客は自分達でメンテナンス/修理できることで(製品に対する)満足度が上がる。故障してからメーカーの担当者を呼ぶのでは装置のダウンタイムが発生し、ビジネスにダメージを与えてしまう。ARを活用すれば、故障を事前に回避できる。一方、サービス提供者は出張費用や従業員にメンテナンスを習得させるための研修コストも大幅に低減できる」と説明する。
AR活用のメリットは「トレーニング」と「ナレッジ蓄積」
ガーデス氏はAR活用のメリットとして「トレーニングツール」としての価値の高さを強調する。これまでドキュメントで継承していたトレーニング内容は、ARによって実際にシミュレーションをしながら習得可能になる。これは教育研修の時短や、質の向上といった観点からにも有用だ。同氏は「今後はトレーニング現場での印刷物のテキストは、すべてARに置き換わることも考えられる」と指摘する。特に期待されているユースケースは作業指示だ。その背景には、製品の精度や品質保証が担保できることが挙げられる。ARによって製品が正しい手順で正確に製造されているか、決められたツールを利用して作業しているかを確認できれば「高品質な製品」としてのブランドになる。
もう1つ期待されているのが、知識や技術のデータベース化による「ナレッジ蓄積」だ。熟練者の作業手順を映像としてデジタル化することで、より正確にナレッジを引き継げる。また、マニュアルでは伝えられない暗黙知や“コツ”なども、ARであれば記録できるメリットがある。
「デジタルネイティブ世代は、紙よりもデジタルデバイス(で提供される情報)に慣れ親しんでいる。労働人口が減少することを考えても、ARは(デジタルネイティブ世代に対する)リクルーティングのアピールツールにもなる」(ガーデス氏)
CADデータでARコンテンツを作成する「ThingWorx Studio」
ただし、ARがエンタープライズ環境に浸透するためには克服すべき課題もある。それがアプリケーションの管理だ。製品ごとに対応するアプリケーションを作成することは現実的ではない。また、ARのためだけに新たなデータを取得し直すことも困難だ。ガーデス氏は「ARで成功するためには既存のデータ活用し、簡単に(AR用の)コンテンツが開発できる環境が不可欠だ。こうしたコンテンツは統一されたUI(User Interface)でなければならない。もちろん、IoTデータとの連携も求められる」と説明する。
こうした中でPTCは、ARの開発ツールである「ThingWorx Studio(旧Vuforia Studio Enterprise)」を提供している。同ツールは2015年10月に買収した米QUALCOMM子会社であるVuforiaの製品が基盤となっており、2016年11月に「ThingWorxブランド」として統合された。
ThingWorx Studioは、PTCの「Creo」をはじめとする一般的な3D CADソフトで生成されたデータを取り込み、プログラミングをすることなくARコンテンツを作成するツールだ。具体的にはCreoで作成した3DデータをThingWorx Studioで再利用し、AR用イラストレーションに変換する。エンジニアリングデータを利用すれば、1分以内にARコンテンツの作成が完了する。PTCのIoTプラットフォームである「ThingWorx Foundation」とも連携し、企業が持つIoTデータもARコンテンツに活用できるのが特徴だ。
「製造業にとって、既存の3D CADデータを再利用できるメリットは大きい。またThingWorx Studioにはアクセス制御機能が備わっているため、IP(知的財産)管理の課題も解決できる」(ガーデス氏)
ThingWorx Studioで作成したコンテンツはクラウドベースで公開され、スマートフォンやiPad、マイクロソフトの「HoloLens」など、さまざまなデバイスから閲覧できる。対応アプリの「ThingWorx View」は、各APPストアから無償でダウンロードが可能。ガーデス氏は、「1つのアプリで(ThingWorx Studioで作成した)すべてのARコンテンツを閲覧できることも大きなアドバンテージだ」と語る。
もう1つ、ThingWorx Studioで特徴的なのが「ThingMark」である。これはPTCが独自開発した二次元コードで、さまざまなデザインやロゴと一体化させて利用できる。使い方は簡単だ。ThingWorx ViewアプリでThingMarkをスキャンするだけで、ThingWorx Studioで作成したARコンテンツや関連情報が、スマートフォンやiPadに表示される。
IoTとARの融合によって何が実現できるのか
近年、PTCはThingWorx Foundationを中核としたIoTプラットフォームの機能拡充に注力している。ガーデス氏は、「IoTはモノ(製品)をモニタリング/制御するために必要なデータを収集/分析し、適切な形式にするものだ。一方、ARはモノとデジタルとを重ね合わせ、(モノの)デジタル属性を可視化/体験する技術だ。両者を融合させれば、製造から販売、アフターサービスに至るまでの過程において、最新の情報を的確なタイミングで取得できる」と説明する。
また、AR技術でビジュアルによるデータ共有が可能になれば、企業の組織編成にも変化が起こると同氏は指摘する。これまで部門単位でサイロ化していた企業が、部門横断的にチームを結成してデジタルプロトタイプを素早く作成することで、市場投入期間を短縮したり、ポートフォリオの最適化を図ったりといったことが期待される。プロトタイプを用いた品質保証で欠陥を減少できれば、手戻りも軽減できる。結果的に、業務全体の効率化と競争力の強化にも貢献するというわけだ。
現在、PTCではThingWorx Studioのパイロットプログラムを実施しており、500社以上の企業が参加した。4万2000以上のARコンテンツが利用されている。今後もさまざまな業種、事業部門でARが活用されることだろう。
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