- 2021/03/05 掲載
アングル:統合地銀への補助金、厳格運用求める声 問われる監督姿勢
[東京 5日 ロイター] - 政府は5日、統合地銀への補助金創設を盛り込んだ金融機能強化法改正案を閣議決定した。ただ、合併・経営統合に伴うシステム統合費用を国が負担する枠組みは、公的資金の付け回しにすぎないとの疑念も根強い。地方創生に向けた本来の趣旨に沿った厳格な運用を求める声も多く、所管する金融庁の監督姿勢が改めて問われる。
「壮大なマッチポンプになりかねない」――。ある銀行アナリストは資金交付制度が預金保険機構の利益剰余金を活用したものであることに疑問を抱く。
念頭にあるのは福井県を営業地盤とする福井銀行と福邦銀行の資本提携。今年1月、両行は資本提携を発表、福邦銀が2009年に注入を受けた公的資金60億円を先行で返済した上で、福邦銀が実施する50億円の第三者割当を福井銀が引き受け、将来的には、福井銀が福邦銀を子会社とすることを想定する。
福井銀は、福邦銀とのシステム統合についても「可能性を検討する」という。福邦銀が返済する公的資金と交付金としての公的資金は趣旨が異なるとし、システム統合する場合は資金交付制度の適用を申請する方針だが、「公的資金を注入された地銀が公的資金を返済した上で他の地銀と経営統合し、その先でシステムを統合すれば公的資金が今度は返済の必要のない資金として戻ってくることになる」と、先のアナリストは首をかしげる。
資金交付制度の財源となる金融機能強化勘定の利益剰余金は、公的資金を注入した金融機関からの配当収入を積み上げたもので、本来は国庫に返納されるものだ。
政府は預金保険機構の利益剰余金350億円を財源に、1件あたり30億円を上限とする費用負担を想定するが、専門家の間では厳格な制度運用を求める声も根強い。
経営共創基盤の村岡隆史代表取締役CEOは「公的支援を使ってやるということだから、その本質的な意味合いが相当問われることが前提になる」とし、地銀を含めた金融機関の経営のためだけでなく「その先にいる顧客である地域の企業、あるいは地域経済の活性化や再生に資するということが明確になって初めて国民的な理解が得られるのではないか」と言う。
マネックス証券の大槻奈那チーフ・アナリストは「交付金が入るからと言って、コスト管理が甘くなってはいけない」と指摘する。交付金を最終的に受け取るのは地銀ではなく、システム統合を請け負う国内外のシステム会社になるが、地銀はシステム会社に言われるままに高値を払ってはならず、適正価格に向けて交渉すべきだとくぎを刺す。
政府は、人材派遣業や高齢者の見守りサービスなどを念頭に、銀行グループの業務範囲を広げる銀行法改正案も併せて提出し、早期成立を目指す。金融庁は、補助金を受ける地銀には経営強化計画を提出させ、5年間モニタリングする。「地方創生に資するビジネスを展開しているか、厳しく監督していく」(幹部)という。
大和総研の内野逸勢主席研究員は「地銀が『装置産業』から早期に脱却し、地方創生の要の役割を担う上で今回の資金交付制度は重要」と評価する一方、収益構造の是正に向けて「銀行本体から地域のためのビジネスへの人材のシフトを優先すべきだ」と語る。
(和田崇彦 編集:山口貴也、内田慎一)
関連コンテンツ
PR
PR
PR