- 2025/03/06 掲載
アングル:長期金利16年ぶり1.5%超、悪い金利上昇警戒 「防衛費」急浮上
[東京 6日 ロイター] - 日本の長期金利の上昇に弾みがついている。米国のインフレや日銀の利上げ継続への警戒感に加えて、新たに防衛費の大幅拡大に伴う財政支出への懸念が急浮上した。ドイツでも金利上昇が顕著で、国防費を巡るトランプ米政権の要求の強まりが債券市場を直撃した格好だ。節目とみられていた水準でも買い手は乏しく、市場関係者はさらなる金利上昇に身構えている。
<シナリオ一転、市場に驚き>
6日の円債市場では長期金利の指標である新発10年国債利回りが大幅上昇し、2009年以来約16年ぶりの高水準となる1.515%をつけた。欧州市場で国防支出拡大や財政懸念からドイツの国債が売り込まれ、金利が急騰した流れが波及した。
日銀の利上げ継続がコンセンサスとなる中、欧米の金利急騰が円金利上昇の直接的なきっかけとなった。
関西みらい銀行の石田武ストラテジストは「欧州の景気悪化懸念や欧州中央銀行(ECB)の利下げを背景に欧州債金利は低下するという今までのストーリーが大きく覆り、かなりのサプライズとなった」と述べた。
<10年1.5%でも買い見送り>
アクサ・インベストメント・マネージャーズの木村龍太郎債券ストラテジストは、都銀を含めて利回り1.5%がこれまで10年国債購入の目線であったことは間違いないとしながら、それはあくまで日銀の利上げのペースや到達点がある程度明らかになっているとの前提だったと話す。
その上で「今回は日銀の利上げパスがまだ不透明な状況で防衛費関連での財政懸念という新たな要因が出てきたため、1.5%で安心して購入を始められるかといえば難しい。聞いている限りでは、国内の機関投資家はまだ状況を精査して見守っている」と明かした。
三井住友トラスト・アセットマネジメントの稲留克俊シニアストラテジストは「きょうは全体的に板の薄さ、つまり売買高の少なさが金利上昇幅の大きさにつながった面もある」と指摘した。
新発20年債(191回債)利回りは午後5時時点で2.200%と前営業日比9.5ベーシスポイント(bp)急上昇したが、出来高はわずか100億円にとどまっている。
海外発の金利上昇ということで、円債市場参加者はひとまず、震源地となったドイツの今後の金利動向に注目している。
アクサIMの木村氏は「きのうの欧州市場の引け味は悪く、金利上昇が終わったとは判断できない。少なくとも今晩のドイツ金利を見て、上げ止まりを確認できるまでは投資家はなかなか円債を買えないだろう」との見方を示した。
<円金利に上昇圧力続く>
経済成長や株価上昇を伴う金利上昇を「良い金利上昇」、国の財政悪化が織り込まれる形で金利が上昇することを「悪い金利上昇」と呼ぶが、円債市場では後者のリスクを連想する向きもある。
岡三証券の長谷川直也チーフ債券ストラテジストは「ドイツで財政懸念からの金利上昇となると、日本も他人事ではないとの連想も働いている」と話す。
トランプ米大統領は同盟国による防衛費の大幅増額を求めており、大統領が国防総省の政策担当次官に指名したコルビー元国防副次官補も5日、日本は早期に防衛費を国内総生産(GDP)比で3%以上に引き上げるべきとの考えを表明している。
円債市場では、長期金利の上昇は1.5%で止まらず、金利には当面上昇圧力がかかりやすいとの見方が多い。
岡三の長谷川氏は「少なくとも期末(3月末)までは投資家が買いに動くとは考えづらく、長期金利は今月中に1.6%に上昇することも考えられる」という。
アクサIMの木村氏は「海外発の金利上昇の展開次第だが、これが日本の防衛費増大懸念に本格的に飛び火すれば1.6─1.7%を目指す展開となる」とする一方、「日本がトランプ政権の矛先から逃れられるとなれば金利は落ち着く可能性がある」との見方を示した。
金利上昇を日銀が止めに動くかについては懐疑的な声が聞かれる。三井住友TAMの稲留氏は「金利上昇ペースの速さや行き過ぎがあれば、国会答弁などを使って口先介入的な発信があるのではないか。ただ国債買い入れの増額といった『実弾介入』は長期金利が2%程度に上昇しない限り見込まない」と予想している。
(植竹知子 取材協力:坂口茉莉子 編集:橋本浩)
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