- 2024/06/18 掲載
アングル:日銀国債買入れ減額、「相応の規模」巡り思案に暮れる債券市場
[東京 18日 ロイター] - 日銀が国債買い入れ減額の具体的計画を7月末の決定会合に先送りしたことで、債券市場関係者は思案に暮れる日々を余儀なくされている。減額規模について植田和男総裁が記者会見で発した「相応の規模」の解釈を巡っても手がかりは乏しく、見方が交錯。日銀が市場の意見を確認するために開く「市場参加者会合」の意味合いも解釈は一様ではない。
日銀は14日の決定会合で、長期国債買い入れを減額する方針を決め、今後1─2年程度の具体的な計画を7月の次回会合で決定することにした。植田総裁は足元で月5兆7000億円の買い入れに関し「減額する以上は相応の規模になる」と述べた。
<「相応」の真意探る市場>
植田総裁は18日、参議院財政金融委員会に出席して半期報告を行ったが、委員からの質疑では「相応」が大規模な減額を意図したものかなど、その真意を問われる場面があった。
これに対し、総裁は「相応の、という言葉はコンテクストによって意味を持ち得る」と認めつつ、その規模はこれから金融市場局が債券市場参加者会合を開いて市場参加者の意見を確認し、1カ月間の検討の結果決まってくることだと説明。「国債買いオペの減額の『相応』がどれくらいか、具体的な姿は7月(会合)をお待ちいただきたい」と答えるにとどめた。
みずほ証券の丹治倫敦チーフ債券ストラテジストは「ニュアンスとしては多めの減額規模を連想させる表現だが、いかようにも解釈できる曖昧な表現。例えば月間1兆円などの比較的小幅な減額にとどめる『逃げ道』を残す表現でもある」と指摘した。
その上で「問題はこの表現が実際に大幅な減額を実施しようとしてその地ならしをする意図なのか、それとも次回会合まで市場の期待感をつなぎとめるための一種の『ブラフ』なのかだが、(私は)ブラフの可能性が相応に高いと考えている」として、月間購入額5兆円程度への減額にとどまるとの従来見通しを維持した。
一方、ドイツ証券の小山賢太郎チーフエコノミストは「月間5兆円への減額であれば、市場参加者の意見を聞く必要もないだろう」として、日銀が市場の想定よりも積極的な減額を予定している可能性があると解釈。同時に「債券市場参加者会合においても、日銀による国債買い入れの積極的な減額を支持する声が多いと考えている」との見方も示し、月間購入額3兆円への減額を当面の目安としている。
野村証券の宍戸知暁シニア金利ストラテジストは「少なくともこれ以上というイメージはあると思うが、現時点では日銀自身が減額幅を決めきれていないだろう」と話す。また減少幅の市場コンセンサスについては、債券市場参加者会合に出席した人の声を通じて形成されていくものと考えられ、会合前に市場のコンセンサスができることはなさそうだ、との見方を示した。
<日銀もQTの局面に>
日銀による国債買い入れ額は足元で月5兆7000億円(5月13日のサプライズ減額の前までは月6兆円)、年間では約68兆円となり、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の鶴田啓介シニア債券ストラテジストによると、今後1年の保有国債の償還額68兆とおおむね一致する。
このため、日銀が現行の買い入れ水準から「相応の規模」で減額することは、日銀が保有する長期国債の残高を圧縮する「量的引き締め(QT)」の局面に入ることを意味する。買い入れの減額規模が大きいほど、日銀保有残高の減少スピードが速まる計算だ。
鶴田氏は「減額計画については、債券市場参加者会合の限られた参加者の中だけで知れ渡るというのは良くないだろうし、おそらく7月会合後にふたを開けてみないと分からない」とみている。
野村の宍戸氏も「減額幅が非常に大きくなるとの見方が7月会合当日より前に高まり、それが原因で会合前に長期金利が大きく上昇することは考えにくい」として、日銀の政策を材料に会合前のタイミングで国内要因で長期金利に上昇圧力がかかる可能性は低く、7月の日銀会合までは低下圧力がかかると予想する。ただ8月以降は、実際に買い入れ減額が始まることで、金利に上昇圧力がかかりやすいという。
長期金利の指標となる新発10年債利回りは0.9%台前半と、日銀会合通過後は節目の1%を下回って推移。また政策金利の見通しを反映しやすい2年債利回りは、国債買い入れ減額と利上げを同時実施するのは難しいとの見方から7月の追加利上げ観測が後退し、節目の0.3%を下回る水準に低下している。
岡三証券の長谷川直也チーフ債券ストラテジストも「5月のように不確実性の高さを理由に金利が大きく上昇する展開は回避されるのではないか。米金利上昇懸念が後退していることも円金利上昇の可能性を低下させるだろう」との見方を示した。
(植竹知子 編集:平田紀之)
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