- 2024/04/04 掲載
焦点:「トランプメディア」株が投機筋の標的に 濡れ手に粟の投資家も
[2日 ロイター] - アラブ首長国連邦(UAE)の新卒データアナリスト、モハメド・シャロウディさん(21)は、トランプ前米大統領が立ち上げた新興メディア企業トランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループ(TMTG)に投資したが、トランプ氏の政治的な支持者とはほとんど共通点がない。
TMTG株を買ったのは同社が運営するSNS(交流サイト)「トゥルース・ソーシャル」に強い確信を持っているからでも、トランプ氏の熱狂的支持者だからでもなく、手っ取り早く儲かる取引を物色する投機筋の一員だったからに過ぎない。
そしてTMTGはこうした投機目的の投資家から狙われたことで、米株式市場で最も割高で最も活発に取引されている銘柄の一つになっている。
シャロウディさんはTMTG株を1株当たり37ドルで購入し、先週末に65ドルで売却した。4000ドルを投資し、わずか数日間で76%のリターンを手に入れた計算になる。「頭を使う必要はまったくなかった。TMTG株を買い、トランプ氏のファンたちにそのことが伝わるのを待てば利益が転がり込んでくるという寸法だ」という。
ロイターがレディットやX(旧ツイッター)などのソーシャルメディアに自分のポジションについて投稿した10人余りに取材したところ、ほとんどがたやすく利益を得ようとする目的の投資家であることが分かった。
こうした投資家は、TMTG株がトランプ氏の支持者を引き寄せ、ビジネス面のファンダメンタルズ(基礎的諸条件)とかけ離れた値動きをすると見込んで資金を投じていた。
LSEGのデータによると、赤字状態であるTMTGの足元の評価額は約66億ドル。これは同社の2023年の売上高(410万ドル)の約1600倍に相当する。
LSEGのデータによれば、時価総額がTMTGと同程度で、売上高に対する倍率がこれほど高い米企業は他にない。TMTGは当局への提出書類で財務状況について、営業損失が経常的に発生しており、事業継続能力に「疑義がある」と警告しているが、それにもかかわらず市場でこれほど高い評価を得ていることになる。
トレード・アラートのデータに基づくと、TMTGは取引が最も活発な銘柄群にも属している。ソーシャルメディアへの投稿を見ると、一部のトランプ氏支持者がTMTG株を購入しているもようだが、取引量の大半は、すぐに手放して利益を確保しようとする投機筋が占めている。
米ペンシルベニア出身のソフトウエア開発者のサラさん(21)は「3月26日に1万ドルを投資したのは、MAGA(トランプ氏の熱狂的支持者)が夢中になり、株価を吊り上げると予想したからだ」と話す。MAGAとは、トランプ氏の選挙スローガン「Make America Great Again(アメリカを再び偉大に)」の略だ。
TMTGの株価は、投機筋がこの銘柄に惹きつけられたのが一因となって乱高下。株価がこの2カ月で一時5倍に上昇した後、4月1日には2割余りも下落した。ヘッジファンドや他の米金融機関がこれほどのリスクを引き受け、TMTGを巡る投機に果たして加わるのかどうかは、まだ分からない。大手投資会社は数週間以内に四半期報告書の提出を求められるため、もしTMTG株を買っていれば、そこで3月末時点の保有状況が明らかになる。
ゲーム販売のゲームストップや映画館運営のAMCエンターテインメントなど、個人投資家の間で交わされるうわさで取引される、いわゆる「ミーム株(はやりの株)」のほとんどは、株価の値上がりが数週間ないし数カ月で霧散する。トランプ氏は6カ月間、TMTG株を売却することも、TMTG株を担保に借り入れをすることもできないため、トランプ氏が株式売却による利益確保を目指すなら、TMTG株は上昇基調が少なくともそれくらいの期間は続かなければならない。
<ミーム株の母>
ジョージタウン大学マクドノー・スクール・オブ・ビジネスのジェームズ・エンジェル准教授は、TMTG株がいつ値下がりし、事業見通しをより正確に反映するようになるかを予測するのは危険だと話した。
「最終的には、このミーム株を巡る大騒ぎは消え去るだろう(中略)しかし、市場の調整にかかる時間は非常に長いかもしれないし、極めて短いかもしれない」と慎重だ。
上場投資信託(ETF)の運用会社アクセラレートのジュリアン・クライモチコ最高経営責任者(CEO)は、TMTGを「全ミーム株の母」と呼び、長期投資家を惹きつけるとは考えにくいと見ている。「TMTG株に資金を投じている投資家は投機筋か、ボラティリティーの高い銘柄で手軽に儲けようとする素人だ。ファンダメンタルズ面の基盤は全く見当たらない」と手厳しく指摘した。
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