- 2024/03/13 掲載
高水準の賃上げ回答相次ぐ、最終的に4%超えも 日鉄は要求上回る
[東京 13日 ロイター] - 13日に集中回答日を迎えた2024年の春季労使交渉(春闘)は、けん引役のトヨタ自動車が4年連続の満額、日本製鉄が組合要求を上回るなど大手による高水準の回答が相次いだ。物価高が続く中、中小や非正規への広がりが今後の焦点だが、企業全体の最終的な賃上げ率は前年超えの4%台に乗せるとの見方が出ている。
<前年以上の賃上げ>
トヨタの賃上げ幅は、比較可能な1999年以降で過去最高。定期昇給分とベースアップ(ベア)に相当する賃金改善分を含む総額で1人当たり月7940円―2万8440円増額し、年間一時金(賞与)は7.6カ月分とした。東崇徳総務・人事本部長は「物価上昇の影響をしっかりカバーし、その影響の大きい家族世帯は家族手当(の引き上げ)でサポートする。若手には処遇水準も見直していく」と述べた。関係先企業にも波及することに期待を示した。
日本製鉄は組合要求の月3万円に対し、3万5000円で回答した。増額率は11.8%。定期昇給なども含めるとプラス14.2%になる。防衛予算の増額で業績が好調な三菱重工業も満額回答。賃金改善は05年以降で過去最高の水準となり、一時金と合わせた年収増率は約8.3%と前年の約7.0%を上回った。
日立製作所やパナソニックホールディングスなどの電機大手、日産自動車やジーエス・ユアサコーポレーションなども満額回答となった。
今年の春闘は、政府が旗を振る中で昨年以上に賃上げ機運が高まり、ホンダやマツダなどは集中回答日を待たず早期に満額で回答。大手企業の多くが組合要求に回答した13日は、労組のホワイトボードに軒並み強い数字が並んだ。
岸田文雄首相は同日夕に開いた経済界、労働界との政労使会議であいさつし、「昨年を上回る力強い賃上げの流れができていること力強く思う」と語った。「デフレ完全脱却のチャンスをつかみとるためこれからが正念場だ」と述べた。
15日には連合が1次集計結果を発表し、全雇用者の約7割を占める中小企業の多くで交渉が本格化する。
経団連の十倉雅和会長は、政労使会議後に記者団に対し「少なくとも今時点で去年3月(の賃上げ率)を上回ることはほぼ確実」と述べた。「これを中小企業、残りの大企業、とくに中小企業の賃上げを実現しないとだめ」と語った。
労働経済を専門とする日本総研の山田久客員研究員は、最終的な賃上げ率は4%を上回る可能性があると分析。「4.2%から4.3%になってもおかしくはない」と話す。第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏も「最終的に、昨年を上回る4%超の賃上げ率を実現できる」と語る。
<コスト転嫁進むか>
連合が7日に公表した今年の春闘の要求集計(4日時点)によると、「平均賃金方式」で賃金引き上げを要求した傘下の3102組合の賃上げ率は加重平均で5.85%で、前年の要求集計の4.49%を上回った。1994年春闘の最終回答集計(5.40%)以来、30年ぶりに5%を超えた。
前年の賃上げ率は、集中回答日から2日後に発表した1次集計が3.80%。7月に発表した最終集計は3.58%で、比較可能な2013年以降で最も高かった。
しかし厚生労働省によると、物価上昇分を除いた実質賃金は今年1月まで22カ月マイナスが続いている。特に中小・零細企業はコスト転嫁が思うように進まず、十分に賃上げができないところも少なくない。連合の最終集計によると、前年の賃上げ率は従業員300人以上の企業が3.64%だったのに対し、300人未満の企業は3.23%だった。
下請けへの支払いを不当に減額していたとして公正取引委員会から今月勧告を受けた日産の内田誠社長は13日、労使交渉妥結後に会見して陳謝した。仕入先に対しては今後、販売台数の下方修正に伴う負担増の軽減、労務費の価格転嫁受け入れなどを視野に、信頼関係の再構築に向けて「真摯(しんし)に対応していく」と語った。
デフレからの脱却を目指してきた政府は、賃上げが消費を促して再び賃金を押し上げる「経済の好循環」につなげたい考え。岸田政権は、所得減税などによって今夏には国民所得の伸びが物価上昇を上回る状態を目指している。金融政策の正常化を視野に入れる日銀も、今年の春闘を重要な判断材料にする意向を示している。
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