［東京　１５日　ロイター］ - ３月期決算企業の定時株主総会が６月下旬に開催ラッシュを迎える。増配など株主還元を求める提案に加え、改革を進めるための経営陣交代や資本効率の改善、脱炭素への取り組みなど株主の要求は幅広くなっている。株主提案が可決される例は少ないが、企業価値改善にもつながる動きは政府も歓迎しており、否決となっても、経営陣への改革圧力が収まることはなさそうだ。

＜過去最多の株主提案、取締役選任も１７議案＞

２０２３年の株主総会では、過去最高となる株主提案が行われている。三菱ＵＦＪ信託銀行によると、６月９日時点で９０社、３４４議案で、過去最高だった２２年の７７社２９２議案を大きく上回る。環境関連や取締役会についてなどの定款変更が１８４議案から２３１議案へと大きく増加しているほか、取締役選任も１０議案から１７議案へと増加した。

１４日に株主総会を終えたトヨタ自動車など大企業への株主提案も目立っており、提出先企業の時価総額は合計で約８１兆円と昨年の３３兆円から２．５倍となっている。同行法人コンサルティング部部付部長の中川雅博氏は「アクティビスト以外にもＮＧＯなど新しい株主提案の主体が出てきている。象徴的な銘柄に活動を行うことに意味があるため、大きな会社に提案する動きが出てきている」と分析する。

三井住友ＤＳアセットマネジメント責任投資オフィサーの坂口淳一氏は「東証がＰＢＲ（株価純資産倍率）１倍割れ企業に説明を求めたりしたこともあり、あらためて企業価値向上の観点から資本収益性の向上、それを可能にするガバナンスに株主提案がシフトしている」と話す。

＜求められる行動変容＞

激しい委任状争奪戦が繰り広げられたセブン＆アイ・ホールディングスの株主総会では、井阪隆一社長を含む会社側の役員選任案が可決され、社内は安堵の空気に包まれた。井阪社長再任の賛成比率は前年の９４．７３％から７６．３６％に大きく低下したものの、議決権行使助言会社が反対を推奨する中で、社内では十分とも受け止められた。ただ、株主提案を行った米投資ファンドのバリューアクト・キャピタルがすぐに「総会の結果は変化への明確な欲求を示している」との書簡を株主に送ったように、改革を求める手を緩める気配はない。業界関係者は「井阪社長は今後３年間で改革を行うと言っているが、悠長なことは許されない状況。株主の目はより厳しくなり、半年、１年ごとの成果が求められる」と話している。

株主総会で資本効率やガバナンス改革を求める株主提案が増えていることは、コーポレートガバナンス改革を推進する政府の動きもひとつの要因になっている。ある政府関係者は、社外取締役を活用して、取締役会が経営陣を監督し、企業が中長期的な企業価値向上を図るという枠組みはできたという。ただ、必ずしも企業価値向上につながっていないという問題意識が、低ＰＢＲの改善や資本コストを意識した経営の要請につながっており、こうした総会での動きは歓迎できるとみている。

三井住友ＤＳアセットマネジメントの坂口氏も「反対比率を高めようとしているわけではないが、適当ではない議案に対して反対することで企業の行動変容を促す」と述べており、総会で会社提案が通ったとしても、一般株主も含めて改革を求める機運は強まり、企業への改革圧力となってきそうだ。

６月開催の主な株主総会（日付、株主提案・要求、提案者）

２１日　フジテック　取締役８人の選任　内山前会長

２２日　コスモエネルギーホールディングス　取締役１人の選任　旧村上ファンド系（会社提案の買収防衛策には反対）

２２日　日本証券金融　執行役会長の廃止のための定款変更など　 ストラテジックキャピタル

２３日　みずほフィナンシャルグループ　定款の一部変更　環境団体

２７日　東洋建設　取締役９人の選任　任天堂創業家の資産運用会社

２８日　大林組　特別配当の実施　 英シルチェスター

２９日　北越コーポレーション　岸本社長の再任反対　オアシス

２９日　熊谷組 定款の一部変更（戦略検討委員会設置）・桜野社長再任反対　オアシス

２９日　三井住友フィナンシャルグループ　 定款の一部変更　環境団体

２９日　三菱ＵＦＪフィナンシャル・グループ 定款の一部変更　環境団体