- 2020/03/23 掲載
【新型コロナ】“インフォデミック”の仕組みを解説、情報の真偽を確認し冷静な行動を
インフォデミックとは?
インフォデミック(Infodemic)は「情報の急速な伝染(Information Epidemic)」を短縮した造語で、2003年にSARS(重症急性呼吸器症候群)が流行した際に一部の専門家の間で使われ始めた言葉です。その意味は「正しい情報と不確かな情報が混じり合い、人々の不安や恐怖をあおる形で増幅・拡散され、信頼すべき情報が見つけにくくなるある種の混乱状態」です。情報は言葉や文字の形で瞬時に拡散されます。その拡散力は真偽に関わらず人々の不安や恐怖によって強まり、根拠のない臆測が瞬時に何千何万もの人に伝搬し、社会を混乱させます。インフォデミックという言葉自体は比較的新しいものですが、流言飛語による社会の混乱は古くは古代ローマ時代から観測されており、現象自体は新しいものではありません。
しかし、現代ではインターネットとSNSによって情報そのものの拡散力が高まっており、ささいな情報から重大な情報までが瞬時に拡散されるようになりました。インフォデミックの規模や速度が従来の比ではないのです。
今回の新型コロナの流行では、2月2日のWHOのレポートで「インフォデミック」という単語が使われ、信頼できる情報を伝達するルート構築の重要性が説かれています。この時にインフォデミックという単語が改めて広く知られるようになりましたが、有効な対策が見つからないまま新型コロナのパンデミックよりも先に世界的なインフォデミックが引き起こされることになりました。
インフォデミックで生まれる陰謀論と差別
では、具体的にはどんなインフォデミックが新型コロナの流行で起きたのでしょうか。最初に起きた大きなインフォデミックは「陰謀論」です。人口調整のためにウイルスを人為的に流布したとか、開発中のバイオ兵器が流出したなど、SARSの際にも類似の陰謀論が流布されました。ただ、今回はSARSと違いSNSを通じて瞬時に広範囲に拡散されたという点で大きな違いがあります。根拠が薄いにも関わらず、センセーショナルな話題というだけでSNSの共有機能を通じて1日足らずで数十万人に伝わるのです。
こうした陰謀論はインフォデミックの中でも真偽を確かめることが不可能であることから容易に拡散し、収束せずに長く残ることから、インフォデミックによって引き起こされる深刻な問題の1つとして取り上げられています。
また、新型コロナは中国などのアジア地域で流行していたことから、アジア人がウイルスを拡散しているといううわさが広がり人種差別につながるようになりました。日本人も例外ではなく、各地で差別による被害が報告されています。
「念のため」で品薄になったマスク
インフォデミックで広がるのは陰謀論や差別だけではありません。より生活に身近な情報によってインフォデミックが引き起こされることがあります。分かりやすいのは「マスクの効果」でしょう。コロナ流行当初から中国国内でも日本国内でもマスクの有効性について専門家の間でも議論が繰り広げられ、正しい情報も誤った情報も広く流布される事になりました。特に、新型コロナに関する情報が十分に出そろっていなかった中国ではその影響が大きく、「マスクは効果的」「マスクは効果がない」といったさまざまな情報が瞬時に伝搬し、インフォデミックが引き起こされました。結果的に「効果があるか分からないままマスクを買いあさる国民」という構図が生まれ、中国では深刻なマスク不足が発生することになります。
2月末にはマスクに関してWHOの指針が出され、マスクは感染者と感染者を看護する人間が着用するべきものとしています。
ですが、中国におけるインフォデミックの影響により「マスクが品薄になる」というイメージは日本国内だけではなく、世界規模で見られるようになりました。
インフォデミックの怖いところはこの次に起こる出来事です。実際には必要な人に届くだけの十分な量が生産されていたとしても、不確かな情報が広がっているため自分が本当に必要なのかどうかの判断がつかず「念のために買っておこう」という思考が働きます。
また、マスクが品薄になるかもしれないなら品薄になる前に備えておきたいと思う人もいるでしょう。加えて、需要が高まり品薄になるのであれば転売することで高く売れるため、転売目的で買い占める人も現れます。その結果、本当に品薄になりました。
買い占めや転売を防ぐために、小売店では点数制限をかけるようになり、政府は転売を規制する法律を制定するようになりました。また、オークションサイトはマスク等の出品そのものを禁止するようになり、社会に大きな影響を与えることになりました。
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