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- 2020/05/19 掲載
小林弘人氏が語る「アフターコロナ」、 “GAFA後”の世界をどう生きるか
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前編はこちら(※この記事は中編です)
日本企業からGAFAが生まれない理由
現在、多くの日本企業にとって、GAFAは怒りの対象ではなく、目指すべき目標だ。デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みでも、GAFA発のノウハウや考え方が参考にされている。また、「オープンイノベーション」や「デザインシンキング」などは、DXに取り組む企業の定番メニューだろう。小林氏は、こうした日本企業の取り組みをどう見ているのだろうか。「もちろん、オープンイノベーションはよいことです。しかし、古い体質のままやっても意味はありません。デザインシンキングのワークショップを開いて、『これは面白い』と盛り上がって提案したのに予算が付かない。担当者は、現業と兼務で土日返上でがんばっているのに、上長からは『何を遊んでいるんだ』と言われる。外部パートナーと組んでも、『それは部長の決裁が……』となって、決済だけに1カ月かかる。こんな会社が、オープンイノベーションと言ってもうまくいくはずがありません」(小林氏)
本気でやるなら、年間予算を確保して担当者を専任にする。さらに、担当者が不利にならないように人事の評価制度も変える。さらには現業も大事だが、成長エンジンのポートフォリオ化におけるビジョンとその共有が大切であり、そのための制度と仕組み化、さらには役員のみならず中堅層のメンタリティが最も重要だと、小林氏は指摘する。
ただし、こうした指摘が、これまでも何度も繰り返されてきたのも確かだ。にもかかわらず、いまだに日本からGAFAに伍する企業は現れていない。
「自社の収益構造を支えている枠組みがあると、やはり人はそれを保持したいのです。『明日からこの枠組みを壊し、違うやり方でやるぞ』となると、人はみな不安になります。この不安に対しては、恐れを知らない猛者が必要なのですが、そういう人は排除される傾向にある。懲罰的な人事評価もそれを補完するため、誰も先陣を切りたくないでしょう」(小林氏)
新たな思想戦争、経済戦争が始まっている
小林氏は、北米を中心に起きたGAFA的な世界は、思想戦争、経済戦争の結果であると指摘する。たとえば、ハリウッド映画は世界中で受け入れられている。文化や言語が違っても、まったく理解できないという人はいない。このように、全世界が受け入れたくなる思想を提供できるかどうかが重要であり、それを小林氏は「思想戦争」と呼ぶ。そして、こうした思想を提供することに成功すれば、莫大な経済的なメリットがもたらされる。
「日本も、80年代にはそれができていました。『安くて品質がよくて壊れないモノ』という思想を世界中に提供し、経済的なメリットを享受していたのです。それまでは、『安かろう、悪かろう』という考え方でしたが、日本が提示した『安かろう、良かろう』は破壊的イノベーションでした。故・クリステンセン教授によれば無消費破壊(これまで高すぎたり、使い勝手が悪くて消費されていないもの)は、「カイゼン」のような持続的イノベーションに比べて大きな需要を喚起し、雇用の拡大を促します」(小林氏)
そしていま、GAFAの思想はインターネットの進化とともに世界に広がり、全世界の人々がそれを受け入れ、GAFAは膨大な経済的メリットを享受している。
ただし、その思想にストップをかける動きが生まれていることは、前回の記事で説明した通りだ。小林氏も「潮目が変わりつつある」といい、ヨーロッパは「SDGs」「ESG」(注1)にスイッチしようとしていると指摘する。
「同じ思想で、永遠に覇権が続くことはありません。もちろん、これからもGAFAは残ると思いますが、いまは1つの時代が過去のものになり、新しい思想戦争、経済戦争が始まろうとしているのです。ところが、日本企業は『どうやったらGAFAみたいになれるのか』と考えているように見えます。おそらく、同じ思想で勝負しても、ソフトがまったく違うため、永遠に敵わないと思います。つまり、日本人が得意な文脈で、国民性が活かせるやり方に持ち込むしかない」(小林氏)
【次ページ】いまの日本企業の取り組みは「王様のアイデア」
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