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  • 2019/08/30 掲載

GAFAは「イノベーション」なんて目指してない、日本企業の現状認識は間違いだらけ

元アップル日本法人代表 前刀 禎明氏インタビュー

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「デジタル変革(DX)」「働き方改革」「イノベーション」。そんな言葉がビジネス紙の紙上を埋めるようになって久しい。しかし、ソニーやディズニーなどを経て、かつてアップル米国本社副社長と日本法人代表を兼任した前刀 禎明氏は「イノベーションを目指している時点で問題外」と一蹴する。61歳を迎えた現在も「若いやつらに負けたくない」「今が一番頭の回転が速い」と語り現在も新たなサービスに取り組む同氏に、日本の本質的な問題点、そして進化を止めない方法を聞いた。
執筆:ビジネス+IT編集部 渡邉 聡一郎

執筆:ビジネス+IT編集部 渡邉 聡一郎

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元 アップル日本法人社長
リアルディア 代表取締役社長
前刀 禎明氏
ソニー、ベイン・アンド・カンパニー、ウォルト・ディズニー、AOLなどを経て、アップル米国本社副社長 兼 日本法人代表取締役に就任。独自のマーケティング手法で「iPod mini」を大ヒットに導き、スティーブ・ジョブズ氏に託された日本市場でアップルを復活させた。リアルディアを設立し、セルフ・イノベーション事業を展開している。最新アプリ「DEARWONDER」は、創造的知性を磨く革新的なプラットフォーム。著書に『僕は、だれの真似もしない』(アスコム)などがある



GAFAの戦略、AI分野でリードしている企業は?

──GAFAの戦略についてどう見ていますか。

 僕も在籍していたアップルは今後、人工知能(AI)という領域ではGAFAのほかの3社、特にグーグルとアマゾンにはもう追いつけないと見ています。

 なぜなら、ディープラーニングのための学習データ蓄積量がまったく違うからです。すでにアマゾン、グーグルに人々は依存しきっている。

 グーグルは言わずもがな、日本では「Google先生」なんて呼ばれていますが、検索プラットフォームとして多くのデータを収集しており、またGoogle Drive経由で画像データも取得しています。さらに、「YouTube」の膨大な動画データもありますしね。同社のスマホ端末「Pixel 3」はAIを利用して最適な状態で撮影できますが、あれができるのは、人がどういう写真を好むのか、どう補正するのか、というデータを持っているからです。それを基に、Pixel 3が人の感性をまねして補正をかけているのです。

 アマゾンの生活密着型の全方位戦略には非常に感心しています。気がついたら人々はアマゾンなしでは生きていけなくなっている。同社がホールフーズ(米スーパー大手)を買収した動きには、人間にとって不可欠な「食」を押さえようという意思が見えますね。

 フェイスブックも「Facebook」という生活に密着するプラットフォームを持っていてテキストデータを収集してはいますが、現時点でAIは文脈を読み取るのがあまり得意ではありません。実際、AIによる文章の要約はまだ途上段階です。インスタグラムがあるので画像データは取得できているかもしれませんが、グーグル・アマゾンの2社と比べるとやや劣ります。

 これら3社に比べてアップルは明らかに保有するデータ量に差があります。プラットフォーマーではありますが、彼らが考え出した代表的なサービスはここ数年ありません。アマゾンみたいに、人々の想像をはるかに超えた、実現可能性も意味もわからない新サービスの発表を突然したりしないでしょう?

 比較して、中国企業もAI分野には積極的に投資しているとは思いますが、ワールドワイドでは通用しないでしょう。まだ世界を席巻しているプラットフォームがないためです。たしかに中国国内で膨大な人数のデータは取れますが、それが世界で通じるとは限りません。まあ、国内だけでも十分ビジネスになるところがすごいんですがね。

「イノベーション」を目指している時点で問題外

 ──日本企業についてはいかがですか。

 GAFAと比べると、圧倒的にダメです。

 一例ですが、AI expoなどに行ってスタートアップ企業の出展を見ると、機械学習のためのOCR(光学文字認識)サービスなどをやっていてその認識率の高さを競っています。僕は「OCRなんてまだあったのか」と衝撃を受けました。ドキュメントを読み込む技術自体なんて何十年も前からあります。こんな調子でやっていては、「Google Assistant」や「Amazon Alexa」に張り合えるはずがない。

 今日本で流行しているRPAにしても、「自分たちが前からやっている自動化と何が違うのかな?」って富士通の友人から聞かれましたよ。僕は「呼び名が変わっただけ」と答えました。

 日本のスタートアップのメンバーがシリコンバレーの視察に参加したりしますが、そんなことをしても向こうのモノマネに走るだけです。「MaaS(Mobility as a Service)」に「サブスク(サブスクリプション)」に「RPA」、言葉が優先してしまって、それをみんなが追いかけている。しかもそれに対してなぜか意味不明にお金が集まる。これが今の日本の構造です。

 トヨタも「MaaS」を始めていますが、それも自分たちで考えたのではなく、世界の潮流がMaaSに向かっているから取り組んでいるだけ。それに、トヨタは“ものづくり”という視点では素晴らしい企業ですが、サービス開発や導入は企業カルチャーとして備えていません。

 企業カルチャーは、特にメーカーにおいては重要です。世界の企業も、このカルチャーの壁によくぶつかっています。たとえばアップルはハードウェアに強い一方でサービスを世に出すことには長けていませんし、マイクロソフトはゲーム機「Xbox」シリーズを出したりもしましたが、BtoC領域は得意ではないように見えます。

──多くの日本企業は現在イノベーションやDX(デジタル変革)を掲げていますが、結実しないでしょうか。

 そもそも、イノベーションを起こしている企業は「イノベーションを起こすこと」を目指していません。

 ラリー・ペイジもジェフ・ベゾスもイーロン・マスクも、イノベーションを掲げてはいないでしょう。革新的なプロダクトを作るというのは、大前提の話です。

 しかし日本の企業では、「GAFAがイノベーションを起こせる理由はシステム思考だ」なんて言って、集まって勉強会をやる。そんなことをやっているから……と呆れますね。

 それから、日本はイノベーションに関わると、できない理由から探します。難しさを先に語るのです。誰かが提案したときに「できない理由」を探させたら日本人以上にうまい人はいないんじゃないでしょうか。会議でも「それは◯◯だから難しい」とよく聞くでしょう。トップマネジメントからすると、そんなことが聞きたいわけじゃない。どうすればできるかが知りたいのです。

 下からのボトムアップだと、中間に意味のわからない管理職がいてつぶされてしまうので、トップダウンの方が速いかもしれません。以前、ソニーに井深(大)さんたちがいたとき、エンジニアには「こんな新製品を作ってくれ」とトップダウンで命令が落ちてきていました。彼らは井深さん、盛田(昭夫)さんを崇拝しているから燃えるのです。「そんなことできませんよ」ではなくて「またむちゃなことを言って来ているけど、やってやろうじゃないか」と。

 よく話に出されますが、この30年で「時価総額世界トップ50」から多くの日本企業が消えました。高度成長期のときは上昇気流がすごかったので、仮に大したことができなくてもどの企業もそれなりに大きくなれました。でも、そのまま思考を止めてボーッとしてしまっていた。その結果が現在の姿だと思います。

【次ページ】進化しない人間、なぜディープラーニングしないのか
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