0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
「日本のTVアニメは、NetflixやAmazonに移ってしまったほうが、幸せなのではないか」ーー。日本のTVアニメの制作現場にカネが回っていない現状を考えるとその手もあるのではないかと考える筆者。構造上なかなか現場のアニメーターまで資金が回らない現状は変わりそうもない。では、予算が大きくなれば「幸せ」なのだろうか。
TVアニメは全部配信に移ればいいじゃないか!
日本のTVアニメは、Netflix(ネットフリックス)かAmazon Prime Video(アマゾン・プライムビデオ)に移ってしまったほうが、幸せなのではないか? むしろ、なぜ皆そうしないのだろう?
筆者がそう考える理由は、日本のTVアニメの制作現場に、カネが十分に回っていないからだ。
2017年6月7日に放送された『クローズアップ現代+』(NHK)によれば、動画担当アニメーターの平均年収は約110万円、業界全体の平均年収は約333万円と、全産業の平均を大きく下回っている。
にもかかわらず、1日の平均労働時間は11時間、月間の休日は平均たった4日しかない(日本アニメーター・演出協会「アニメーション制作者 実態調査 報告書2015」による)。
アニメは日本が国を挙げて諸外国にその文化的価値をアピールし続けているクールジャパンの急先鋒であり、産業規模は年々拡大している。にもかかわらず、この状況は長年改善されていないのだ。
この「ねじれ」はもはや、日本のアニメ産業が構造的に抱える問題だ。理由はいくつかあるが、そのひとつが、作品の一定クオリティを維持するために必要な予算の慢性的な不足。
しかも、作品の権利は製作費を出資した企業群(製作委員会)が保有するため、どれだけヒットしても下請けのスタジオには利益が還元されない。これらは一朝一夕に解決することはできないのである。
Netflixの潤沢な資金に頼る?
国内の産業構造が変えられないのなら、潤沢な資金を持っている外資に頼ればよいのではないか。そこで登場するのが、定額制動画配信サービスの2強、NetflixとAmazon Prime Videoである(NetflixとAmazon Prime Videoの概要や戦略は下記記事を参照)。
実際Netflixは今年1月、日本人スタッフによる純国産アニメ『DEVILMAN crybaby(デビルマン・クライベイビー)』(全10話)の独占配信権(TV放映せず、Netflixのみで視聴可能)の購入を作品完成前にコミットすることで、事実上の製作出資を行っている。
「TV放映を伴わない、完全独占配信」に限らなければ、同作以外にもNetflixオリジナルの日本製アニメはいくつも製作されている。また、同社は国内アニメ制作スタジオ大手のプロダクション・アイジー、およびボンズとアニメ作品における包括的業務提携を結んでおり、日本市場でのアニメ注力に積極的な姿勢を見せている。
なによりNetflixは“金持ち”だ。この10月のニューヨーク・タイムズによると、Netflixのコンテンツへの投資計画は18.6億ドル=約2.1兆円を用意しているという。これはDisneyなど米メディアの巨人らの投資を大きく上回る規模だ。
ゴールドマン・サックス社のレポートではNetflixの2018年度のコンテンツ予算は、120~130億ドル(約1.4兆円)だったので憶測ではない可能性が高い。たった1社でこの数字である。2018年度の予算のうち85%はオリジナルTVシリーズや映画製作にあてられているというから、オリジナルコンテンツへの投資にいかに注力しているかがわかる。
ネット配信なら放映地域は「全世界」
つまり、筆者の考えはこういうことだ。資金調達手段としての製作委員会を組成することなく、現場の制作スタジオが自ら作品を企画し、直接NetflixやAmazonと契約して独占配信権を販売――という形で制作資金を得、ネット配信のみで放映すればいい。無料のTV放映に比べて国内での視聴機会は減るが、それと引き換えに世界中の視聴者を相手にできる。商機は一気に広がりそうだ。
製作委員会がないので、作品の権利はスタジオが保有できる。(ブルーレイソフトなど)ビデオグラム売り上げやグッズなどの二次収入もスタジオが得られれば、現場にもっとカネが回るのではないか?
配信に移ったほうがいいと思われる理由は、資金調達面以外にもある。今の日本ではTVアニメの放映本数が多すぎるのだ。2016年に放映されたTVアニメタイトル数は356本で過去最高。2010年は195本、2013年は271本だったことを考えると、文字通りうなぎ登りである(日本動画協会「アニメ産業リポート2017」より)。
しかも、キー局以外の放送局は放映地域が限られるため、すべての作品が日本全国津々浦々で視聴できるわけではない。しかも当然ながら、TV放映するためにはTV局に「電波料」という名の場所代を支払う必要がある。
要は、どっちみち全国放映されない深夜帯放映枠の取り合いと電波料支払いに消耗するくらいなら、いっそネット配信オンリーにすればよいのでは、ということだ。
Netflixは日本のTVアニメを全カバーできない
ところが現状、大半のTVアニメは依然として軸足を地上波TV放映に置いている。多くの作品はネットメディアでの配信はあくまで補完的な扱いだ。これは一体、なぜだろうか。
この点について国内外のアニメーション産業に詳しいジャーナリストの数土直志さんに聞くと、すべてのTVアニメが『DEVILMAN crybaby(デビルマン・クライベイビー)』のような状態――海外資本で作り、配信オンリー――とならないのには、大きく3つの理由があるという。
1つ目は、Netflixが少数精鋭主義だから。同社はクオリティの高いものを、数を絞って作る方針なので、週に100本以上が放映されている日本のTVアニメを全部カバーすることはできません。
2つ目は、Netflixが世界市場で需要のあるジャンルのアニメしか手がけたがらないから。具体的にはファンタジー、SF、バイオレンス、アクション、コメディ。日本の深夜帯アニメに多い“萌え”や“美少女”はアジアがメインの市場ですし、ファミリー・キッズについては既にラインナップを持っているので、現状はあえて日本に制作を求めていません。
3つ目は、ネット配信はまだまだTV放映ほど、国内での視聴可能世帯数や作品知名度の浸透の点で及ばないから。その分海外で補完すればいいと言いますが、日本のTVアニメの多くは、ビデオグラムや配信といった映像そのものの売り上げだけでなく、主題歌などのアニソン・声優ビジネス・イベント売り上げも頼みにしているのです。それらは基本的に国内でしか商売ができない。TV放映によって国内で知名度を上げないことには、ビジネスが成立しないのです。(数土氏)
特に中小スタジオの場合はこの他にも、「国際的な権利販売ビジネスに長けている人材が乏しい」「配信権売買である以上、その支払いは全話納品後となるゆえに、スタジオ側のキャッシュフローが悪化する」といった要因が、スタジオが配信各社と直接契約できない理由として挙げられる。
【次ページ】NetflixとAmazonの目的の違い
関連タグ