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デジタル・ビジネス・トランスフォーメーションに伴って、ITサービス管理(ITSM:IT Service Management)にも変化が求められている。たとえば、業務で必要なものを買うのに書類やExcelファイルに書き込む今の状態より、自身のスマートフォンから直接購入できたほうが圧倒的に楽だろう。ガートナーの主席アナリスト、クリス・マチェット氏は、ITSMをめぐる7つの課題とその解決策、さらにはその中で人工知能(AI)、あるいは「AIOps」が果たす役割を解説した。
ITサービス管理はビジネスとの関係性をもっと深めるべき
ITサービス管理とは、ビジネス部門が必要とするITサービスの提供とその改善を管理するための仕組みのこと。「今日は大局的な話になる」。「ITインフラストラクチャ、オペレーション・マネジメント&データセンター サミット 2018」に登壇したマチェット氏はそう断った上で話し始めた。今、ITサービス管理(ITSM)の世界で起こっていることは、15年~20年以上前に起こっていることと同じだ。つまりI&O(Infrastructure&Operation)のリーダーはずっと同じ課題を抱えているということになる。
ただ、課題は同じでも、その解決策は大きく変わってきている。またユーザーであるビジネス・コンシューマーの要求も変わってきた。
その中でI&Oリーダーは、ビジネスのパフォーマンスや価値から切り離されたIT中心のITSMに重点を置いていては、デジタル・ビジネスのニーズに対応できなくなる。よりビジネスサイドとの関係性を深めなければならないということだ。
高度化するビジネス・ニーズを満たすには、それに合わせてITSMのプロセスおよびサービスの提供を成熟させる必要があるが、実際はどうすればよいのだろうか。
マチェット氏によると「ガートナーでは、I&Oの成熟度をIT成熟レベル1~5の段階に分けている」ということだ。
IT成熟レベル1は、機材やサービスの資産管理ができている。レベル2は、CMDBなどでITILに準拠した運用プロセスができている状態。レベル3になると、ITサービス・カタログが運用プロセスと結びついてユーザに示されているという水準。レベル4になると、それらサービスがビジネス上の価値を生み始め、レベル5はITがビジネスを真にサポートしている状態だ。
元々はバックオフィス・IT中心の考えから、レベルが上がるにつれて、フロントオフィス、ビジネス中心の考え方へとシフトしていく。
マチェット氏によると、現状ではI&O組織の90%はレベル3未満であり、未来に向けた準備が整っていない状況だという。
「ただ、レベルを一足飛びに上がっていくことはできない。まず基礎固めをし、そこから一段ずつ上がっていかなければ、サービスの改善はできない」(マチェット氏)
ITSMでもデータと評価指標をビジネスに寄せるべき理由
効果的なITサービスの運用にはどのような情報が必要で、どの指標で管理・評価すればよいのだろうか。インフラやプロセス中心の考え方からビジネス中心の考え方にシフトするためには、データと評価指標を変える必要がある。
ありがちなのは、IT部門が「仕事をしている」と見せたいがために、データをそのままビジネス部門に渡してしまうケースだ。
たとえば、「ITサービスデスクが今月はとても頑張り、3000人のお客さまに対応しました」とレポートする。これは忙しそうに見えるし、生産性が上がっているように聞こえる。しかし、ITサービスデスクへの問い合わせが多い状況は、それだけ問題が起こったということであり、ビジネス的に望ましい状況といえるだろうか。本来のビジネス・ニーズは何なのかを考える必要がある。
「そして、ビジネス部門とコミュニケーションする時には、話す“言葉”を変えないといけない」とマチェット氏は話す。
これは、IT側の“言葉”ではなく、ITがミッションやビジネスのゴールにいかに寄与するかを示す“言葉”を使わなければならないということだ。たとえば、売上が上がったのか、コスト削減して利益率が上がったのか、監査部門からの指摘事項やリスクが削減できたのか、そういったことを指標にしなくてはならない。
「IT部門とビジネス部門ではフォーカスしている点が違うため、ビジネス的な言葉・表現を心がけるべきである。語り方を変えて、ビジネス上のパートナーという位置づけにならなければならない」(マチェット氏)
すべてがモード2のアジャイルなDevOpsに移行するわけではない
今は変化の時代で、その変化のスピードも割合も大きくなってきている。
I&O組織の多くはこれまでのモード1の考え方に慣れ親しんでいる。ITILやCOBIT、既存のシステムやテクノロジーは、すべてモード1だ。システム構築には慎重な計画とスケジュール管理が必要だと考えている。
しかし、そのシステムがイノベーションのためのシステムだった場合、従来のやり方では遅すぎることになってしまう。
たとえば、12月の小売店で、クリスマス商戦に向けて新しいプロモーションサイトが必要となった場合、「適切に計画を立てて、4月に完成します」といってもビジネス的価値はゼロだ。こうしたことを避けるために、モード1とモード2をつなぐ“通訳者”が必要になる。
「ガートナーでは、2020年までにITサポートに対するビジネス部門の満足度は35%低下すると予測している。理由は、ITサービスデスクでは、アジャイルなリリースを迅速かつ効果的にサポートできないからだ」(マチェット氏)
ただ、すべてがモード2のアジャイルなDevOpsに移行するわけではない。モード1のITILができなくなる、チェンジマネジメントのプロセスが必要なくなるのかというと、そうではない。このモード1とモード2の間のバランスをとることが重要になる。
そのシステムが、システム・オブ・イノベーション(革新システム/SoI)なのか、システム・オブ・レコード(記録システム/SoR)なのかによって、モード1・モード2を使い分ける必要があるということだ。
【次ページ】業務用品を買うのに書類やExcelに書き込む状態はいつまで続く?
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