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この6月に、新たな「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」が閣議決定された。「世界最先端IT国家創造宣言」から名称が変更され、この宣言部分の記述も大きな変更があった。日本政府はどのような「デジタル国家」を目指すのか。
2018年の「大きな変化」とは
この6月、日本国のIT戦略である「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」が閣議決定された。
毎年この時期になると新たなバージョンが閣議決定されてきたため、この決定自体は特別なことではないが、本年は「世界最先端IT国家創造宣言」から「世界最先端デジタル国家創造宣言」へと名称が変更され、この宣言部分の記述も大きな変更が加えられた点で例年とは一線を画するものとなっている。
内容を確認すると、直ぐに大きな変更が加えられたことが分かる。というのも、目次が大きく変更されているからだ。
2017年までは、「第1部 総論」「第2部 官民データ活用推進基本計画」から構成されていたところ、本年のものは「第1部 世界最先端デジタル国家創造宣言」「第2部 官民データ活用推進基本計画」から構成されている。
第1部が宣言部分であることが明確となり、なおかつ第1部について、その内容が大きな変更がなされている点が本年の特徴である。
「これまで」と何が違うのか
「第1部 世界最先端デジタル国家創造宣言」は、前年度の対応する部分と大きく異なる内容になっている。その変更を一言で表現すると、「実行すべきことが明確にされた」ということに尽きる。
2017年までの「世界最先端IT国家創造宣言」は、ともすると問題の背景や現状の認識を説明する文章が中心となり、具体的に政府として着手すべき事柄や目標といったことが分かり難いものであった。
さまざまな政策や施策の根拠としてこの宣言を活用するという意味では、そのような書きぶりになるのも仕方がないものだったのかもしれないが、焦点が不明確であり、これまでのものには少々問題があったのも事実である。
対して、本年の変更では、実行すべきこと、そして、その目標がこれまでよりも明確なものとなった。実行すべきことと目標が目次に示されるという、退路を断ったかのような大胆な変更を行ってきた点で、デジタル国家創造にあらためて踏み出すという強い決意が見て取れる。
実際に、目次の一部を示すと、以下のとおり。
II. ITを活用した社会システムの抜本改革
1 デジタル技術を徹底的に活用した行政サービス改革の断行
(1) 行政サービスの100%デジタル化
(2) 行政保有データの100%オープン化
(3) デジタル改革の基盤整備
2 地方のデジタル改革
(1) IT戦略の成果の地方展開
(2) 地方公共団体におけるクラウド導入の促進
(3) オープンデータの推進
(4) シェアリングエコノミーの推進
(5) 地域生活の利便性向上のための「地方デジタル化総合パッケージ」
「I.」で基本的な考え方が示された後、この「
II. ITを活用した社会システムの抜本改革」の部分で実行する事柄が示されている。
たとえば、「
1 デジタル技術を徹底的に活用した行政サービス改革の断行」と実行すべきことが示され、「
(1) 行政サービスの100%デジタル化」と目標が明確化されている。
「
(1) 行政サービスの100%デジタル化」では、実際にどのようなことが施策として展開されることになるのかというと、以下のような項目が並ぶ。
① デジタルファーストの実現
② 企業が行う従業員の社会保険・税手続のワンストップ化・ワンスオンリー化の推進
③ 死亡・相続、引越し等のワンストップ化の推進
④ マイナンバーカードの普及と利便性向上
⑤ 土地情報連携の高度化
これらの個別の事項を見ると、既視感があるものも並んでおり、これまでの日本政府における電子政府政策の積み残しをあらためてここで解消しようとしていると読むことも可能だろう。
とりわけ、「ワンストップサービス」の実現はこれまでの電子行政の取り組みにおいて何度も繰り返し謳(うた)われてきた事項である。
たとえば、④でも言及されているマイナンバー制度が導入される際にも、マイナポータルの構築と合わせてワンストップサービスの実現が目標として挙げられていた。
実現していない事柄につき、あらためて実現へ向けて力を入れることを表明しているということである。
あらためて見直すと、「
2 地方のデジタル改革」の「
(2) 地方公共団体におけるクラウド導入の促進」や「
(3) オープンデータの推進」も既に取り組まれてきた事柄の促進を謳っているに過ぎない。
「
(4) シェアリングエコノミーの推進」のように新たに重点化された事項もあるが、それよりも既に着手している事柄につき、その取り組みを加速しようというのが今回の変更であったように思われる。
これまでの取り組みで実現できていなかったことを明確にし、それにつき今度こそ実現しようと表明する。本年の「世界最先端デジタル国家創造宣言」はそういう性格を有するものとなっていると評することができるだろう。
民間事業者へ何を配慮したのか
前年度の宣言部分には、「Ⅴ 事業者等との連携・協力」という項目があった。ただ、その記述は一通りのもので、付け足し程度の扱いであったというのが実情である。
対して、本年の変更では、「
II. ITを活用した社会システムの抜本改革」の中に「
3 民間部門のデジタル改革」という項目が設けられ、その記述も厚みを増した。
「
3 民間部門のデジタル改革」の中身は以下のとおり。
(1) 官民協働による手続コスト削減
(2) データ流通環境の整備
(3) 協調領域の明確化と民間データの共有
(4) デジタル化と働き方改革
あくまで個人的な感想だが、この部分は従来の包括的な記述とあまり変わるところがない。
データ流通に関する部分など、おそらく民間事業者にとってみると、非常に気になる部分だと思うが、全体的に具体性に乏しい記述となっている。
今後検討すべき事項が多い分野であることは誰もが承知するところだと思うが、「行政サービスの100%デジタル化」といった明確な目標を見た後では、どうしても物足りなさを感じてしまう。
【次ページ】AI、IoTなどの技術と官民データから何が生まれるのか
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