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- 2016/07/08 掲載
日本はなぜイノベーションの「ルール形成」ができないのか
寺島 実郎氏らが指摘
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イノベーションを起こすための「ルール形成戦略」の重要性
多摩大学は6月1日、同大学の研究開発機構内に「ルール形成戦略研究所」を創設した。この研究所は、これまで国内で専門分野としての認識が必ずしも高くなかった「ルール形成戦略」に関して、日本企業および国家のルール形成戦略機能の抜本的な強化と、それに基づく国際競争力の持続的な向上に寄与することを目指すものだ。多摩大学では、ルール形成戦略に関わるコンサルティングを主導してきたデロイト トーマツ コンサルティング 執行役員の國分 俊史氏を所長に迎え、ルール形成分野で存在感を高められるノウハウ蓄積、人材育成、人脈形成。ルール形成戦略修士号を学べる日本初のコースを設置して人材を育てていく。
6月29日、ルール形成戦略研究所の創立記念セミナーが開催された。日本はイノベーションに関して世界に遅れを取っていると指摘するのが、多摩大学大学院の教授で、ルール形成戦略研究所の副所長を務める徳岡 晃一郎氏だ。
「また、イノベーションの向かう先は単に新しいというものではなく『社会の共通善、よりよい地球をどう作るか』に行き着く。アメリカは漠然と社会貢献をしようということではなく、社会の共通善とビジネスの成功が結びついており、市場として捉えている」(徳岡氏)
徳岡氏が指摘するのが、「イノベーションを起こすためのルールや枠組み作りの重要性」だ。日本の企業は、既存のルールにいかに合わせていくかを考えてばかりで、ルールをどう作っていけばよいかに目が向いていない。「モノづくりだけの社会からコトづくりへ、これはよく言われることだが、さらに『ワクづくり』が必要になる」と徳岡氏は警鐘を鳴らす。
「(あらゆる産業において)日本が手間取っているあいだに、欧米がルールを作っている。日本がそのルールに合わせるだけという状況をかえるには、単に発想をかえるだけでなく、ノウハウ、スキル、実績が必要であり、それを実現できる人材が必要になる」(徳岡氏)
イギリスのEU離脱にも「ルール形成」の問題がある
同氏が例として挙げたのが「国際連帯税構想」だ。これは国境を越えた課題を解決するための税制で、日本を含む60カ国以上が参画して国際的に議論されている。
「この構想は、国境を超えた為替取引に広く薄く税金をかけて国際機関が徴税し、例えば南極や北極のような、どの国が責任を持てばいいか見えない国際社会の課題に立ち向かうというものだ」(寺島氏)
国際連帯税のひとつとして、フランスには航空券連帯税という税制がある。国境を超えて動き回る人に対して、クラス別に異なる税金を徴収し、それを感染症対策に使うというような形で機能している。韓国やチリそしてアフリカ諸国などでもすでに導入済だ。
また、イギリスのEU離脱にも関連があるとして寺島氏が挙げるのが、金融取引税(FTT)だ。「独仏を含むユーロ圏10か国がこの導入に大筋合意したが、(イギリスの金融中心街である)ロンドンのシティがこうした縛りに拒絶反応を示したことが離脱の要因のひとつだ」(寺島氏)。
国際社会を制御する上で、新しいルールが日々生まれている。日本は今、こうした動きをウォッチし、自らが積極的にルール形成に関わっていかねばならない。寺島氏は「要するに、国際社会を制御するルールに立ち向かえなくなることが問題」だと指摘した。
日本が広い意味でルール形成をしていく上では、多摩大学に限らず、より多くの大学や企業との連携が重要だ。寺島氏は「深いエクスパディーズ(専門知識、専門技術)を持つデロイト、そして(所長である)國分さんをキーパーソンとして作業を進めていきたい」と期待を込めて語った。
【次ページ】国連が定めた「SDGs」をめぐる2000兆円のマネーゲーム
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