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  • 2010/03/10 掲載

キャッシュ・フロー経営とは何か?:CIOへのステップアップ財務・戦略講座(7)

キヤノンのキャッシュ・フロー計算書を例に分析

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かつて、財務諸表といえば、貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)が中心でした。しかし、利益や費用の動きとキャッシュの動きは必ずしも一致しないため、P/L上では利益が出ているにもかかわらず、資金繰りがショートして倒産してしまうケースもあり、P/LとB/Sだけでは経営状態を正しく把握できない問題がありました。そこで登場したのがキャッシュ・フロー計算書(C/F)です。米国では“キャッシュ・フロー経営”という考え方が広く普及しており、企業の業績の善し悪しを「自由に使えるキャッシュ(フリーキャッシュ・フロー)をどのくらい生んだのか」という視点でみています。今回は、この「キャッシュ・フロー経営」について、キヤノンを例にご紹介しましょう。

キャッシュ・フロー経営とは何か

 なぜ、キャッシュ・フロー経営が注目されるのでしょうか。その背景には、損益計算書(P/L)の純利益だけでは、企業の経営状態を説明できない点にあります。

 その典型例は黒字倒産です。黒字倒産とは、「勘定合って銭足らず」と言われるように、P/L上の純利益が黒字にもかかわらず、支払う現金がショートして倒産することを指します。損益計算書と現金の流れが一致していれば、黒字倒産は発生しません。

 一方、キャッシュ・フロー経営では、損益計算書の純利益ではなく、現金の出し入れ(以後、キャッシュ・フローと呼びます)に着目し、このキャッシュ・フローを最大化することを考えます。企業の経営目的は数多くありますが、営利法人として利益を追求するという視点に限れば、「利益の本質とは“自由に使えるキャッシュ”をいかに稼ぐかということ」とするのがキャッシュ・フロー経営の基本的な考え方だと言えるでしょう。

キヤノンがキャッシュ・フロー経営を導入した理由


 それでは今回は、カメラや複写機、インクジェットプリンタで世界的にもシェアを持つキヤノンをもとに解説していきましょう。

 キヤノンにキャッシュ・フロー経営を導入した御手洗富士夫会長(当時は社長)は、その導入の動機を次のように指摘しています。

「経営を安定させるためには、自己資金の範囲内で投資する仕組みを作らなければならなかった。自己資本を増やし、借金を減らす必要もあった。ただ、キヤノンは技術者が多いこともあり、お金の流れにはやや無頓着なところがあった。どうすれば社員に“利益マインド”を植えつけられるのか。考えた末、私は米国で一般化していたキャッシュ・フロー経営を導入することにした。」(「やさしい経営学」日本経済新聞社編 p68より)

 このように、現代の財務論においては、キャッシュ・フローを把握することが、今会社がどういう状態にあるのかを教えてくれる指標だといっても過言ではないのです。

 では、実際の企業の財務諸表をもとにキャッシュ・フローを把握してみましょう。キャッシュ・フローは、キャッシュ・フロー計算書にまとめられています。キャッシュ・フロー計算書(C/F)の位置付けは、これまで何度か触れた損益計算書(P/L)および貸借対照表(B/S)とならんで、財務3諸表の1つとして数えられています。

 C/Fの説明を行うために、まずはB/Sの動きに注目してみましょう。B/S中の資産である現金は当然ながら増えたり、減ったりします。たとえば、ある事業年度の現金が10億円で翌年度の現金が12億円だったとします。2億円の増加の理由は何でしょうか? 実はB/Sだけではこれを読み解くことができません。きちんと本業が儲かって現金が増えたのかもしれませんし、あるいは銀行から借り入れをして現金が増えたのかもしれません。1年の間に現金がどのように増減したか、この詳細を明らかにするのがキャッシュ・フロー計算書なのです。

>>キヤノンのキャッシュ・フロー計算書から“強み”を読み解く
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