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CDN(コンテンツデリバリネットワーク)という言葉が登場したのは、ブロードバンドの黎明期であった90年代後半だ。当初、ビデオや音声などを、インターネット上で効率的に配信するために考えられたCDNは、今やクラウドサービスとして、Amazonの「Cloud Front」や、マイクロソフトの「Windows Azure」上でも展開されている。さらに昨今では、映像/音声コンテンツの配信やソフトウェアの販売のみならず、世界中に構築されたCDNネットワークを活かし、Webアプリケーションの高速化を実現するADN(アプリケーションデリバリネットワーク)の提供も行われている。今回は、CDN/ADNの基本的な仕組みと現状、さらに今後のWebアプリケーション業界の動向について解説する。
ブロードバンドとともに登場したCDN
1999年から2000年初頭にかけて登場したADSL、そして、2001年に登場したFTTHという高速なブロードバンドは、ホームユーザーに高速インターネット回線を提供するだけではなく、企業のWANの概念をも根本的に変えた。
その頃、ブロードバンドユーザーの拡大のためのキラーコンテンツと考えられたのがビデオコンテンツの配信であった。通信事業者やコンテンツ事業者はブロードバンドの呼び水として、こぞってビデオのオンデマンド配信や、ストリーミング放送のサービスを開始したことは未だ記憶に新しい。
しかし、このような大容量、かつ連続したデータの配信は非常に難しい。たとえば、コンテンツを配信するサーバを1ヵ所に設置すると、そこにアクセスが集中してしまい、サーバへの負荷がかかりすぎてダウンしたり繋がりにくくなる可能性がある。
また、ユーザー(受け手)とサーバとの物理的な距離も問題となる。ネットワークは距離が伸びるほど遅延時間が大きくなり、パフォーマンスが落ちる。たとえば、日本国内へのアクセスの遅延時間は平均して数10ms程度だが、アメリカやヨーロッパなどのサーバにアクセスした場合の遅延時間は数100msになることもしばしばだ。
CDNは、このような大容量のファイルサイズを持つビデオ配信やストリーミング配信を高速なバックボーンと分散処理で世界中に安定して提供するために考えられたネットワークの仕組みだ。
この先駆的な事業者として1998年に設立された米Akamai Technologies社は、世界のCDN市場の50%以上のシェアを持つ最大手企業だ。この他、CDN事業者には米EdgeCast Networksや米Limelight Networksなどがあり、いずれも日本法人を持っている。
CDNの基本的な仕組みとは?
CDNは、1ヵ所に設置した配信用のサーバのデータを各拠点に設置した複数のサーバへ複製(キャッシュ)し、分散的に提供できるようにする。また、ユーザーが特定のコンテンツへアクセスした時に、自動的に最適なサーバを選択して配信することができる仕組みのことだ。
具体的なCDNの構築方法は事業者によって大きく異なる。Akamai Technologiesの場合は、世界70ヵ国、660都市に及ぶ拠点に設置した、6万台以上のサーバを使ってコンテンツを分散的に配信している。同社では世界中の主要ISPにエッジサーバ(キャッシュサーバ)を設置しているため、ユーザーはISP内のサーバにアクセスするだけでコンテンツを利用できる。
Limelight Networksの場合は、世界各国にサーバを設置して分散処理を行う点ではAkamai Technologiesと同じだが、主要国の首都級都市へ大量のキャッシュサーバを集中的に配置して、末端のISPとピアリング(接続)している点が異なる。配信用のサーバとキャッシュサーバ間は大容量のバックボーンで結ばれている。
もっとも、ユーザー側から見れば、アクセス先がCDN網か否かは意識する必要はない。いずれの方式も直接コンテンツが格納されるサーバへアクセスするのと同じだからである。たとえば、日本からアメリカにあるサーバへアクセスを行った場合、同じデータがISP内のキャッシュサーバにあればアメリカへ通信は行わず、キャッシュサーバを参照してデータを受信する。
コンテンツを提供する事業者は、DNSサーバにCDN事業者のドメイン名(CNAME)を記述しており、そこからCDN事業者の保有するDNSサーバに問い合わせが行われ、CDN事業者が最適と考えるキャッシュサーバにリクエストが転送される。
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