• 2009/10/26 掲載

【インタビュー】 新技術の導入で運用コストのかからないシステムへの変革を

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2009年10月28日、ベルサール神保町にて「ITシステム運用 コスト削減・最適化セミナー」が開催される。基調講演を行うのは、あずさ監査法人 ビジネス・アドバイザリー事業部の熊谷 堅氏だ。監査法人として社外から企業のITシステムにアドバイスを行う立場から、ITシステムのコスト削減のあるべき姿について、話をうかがった。


運用コストの低いシステムへの変革で
システムコストを削減



あずさ監査法人
ビジネス・アドバイザリー事業部
熊谷 堅氏


 2009年、世界的な不況により、多くの企業がコスト削減を命題として真剣に取り組んできた。中でもITにかけられるコストは大幅な縮小が求められている。そもそもITコストは注目されやすく、経営層からもメスを入れられやすいのだと、熊谷氏は言う。

「だからとって、何も手を打たないのは得策ではありません。システムコストの大半は運用コストによって占められているので、より低コストなシステムへの検討を怠り現状を維持するのは、コスト削減には結びつかないからです」

 熊谷氏によれば、システムコストを削減するためには現在のシステムの運用方法をきちんと見直す必要がある。特に注目したいのは、システムの運用コストだ。中でも、人的負荷の軽減とシステム基盤自体の見直しが効果的だと、熊谷氏は言う。

「仮想化やクラウドに代表されるような、新しい概念を取り入れた技術が安定的に利用できるようになっています。こうした技術の導入は、システム運用コスト削減にとても効果的です」

 基盤の見直しは初期コストも必要なので、すべての企業がすぐに取り掛かれることではないかもしれない。特に厳しい企業では、全体的な見直しではなく部分的な取り組みとなるかもしれない。それでも、将来の効率的なシステム運用像を描き出し、その方向に向けて取り組みを続けることは重要だ。一方、コストが厳しい中でシステム基盤のリプレース時期を迎えている企業もあるだろう。そうした企業は、目先のコストだけにとらわれてシステムを選択するのではなく、運用コストを含めた長期的な展望に立って導入するシステムを検討する必要がある。

「日本の企業は新技術の早期導入に消極的な場合が多いのですが、昨今注目されている仮想化等の技術は、すでにかなりの導入実績を作っています。コスト削減効果、実用性ともに実証されていると言っていいでしょう。また、ベンダサービスも拡充され、実際に製品を体験できる機会も増えています。新技術にキャッチアップできていなかった担当者も、情報収集しやすい状況になっていると思います」


効果を見える化する仕組みの導入で
恒常的な取り組みに

 コスト削減を念頭に新たな技術を導入する際、忘れてはならないポイントがあると熊谷氏は指摘する。それは、投資効果を計る仕組みを一緒に導入することだ。

「コスト削減効果だけではなく、セキュリティ、可用性・信頼性などのバランスを考慮しなければなりません。システム対応だけではなく、コスト管理の仕組みも重要です。システムを見える化する仕組みをつくり、コスト管理の態勢を構築してください。また、新たに開発するシステムについては投資効果を測る体制や仕組みを整えることが効果的です。これらを実践すれば、一過性のコスト削減ではなくコストを抑え続ける仕組みを手にすることができるでしょう」

 システムを見える化することで、コスト削減効果だけではなくコンプライアンス対応やセキュリティの向上など、複合的な効果がもたらされる。これらの効果が見える化されることで、コストとコンプライアンス、コストとセキュリティという単純なトレードオフではなく、それぞれの項目を総合的な視点で見渡し、より高い次元でトレードオフのバランスをとることもできるようになる。投資コストに対する効果を最大化するためにも、システムの見える化は生かされるということだ。

「見える化が必要なのは、新たなシステムだけではありません。コスト削減に取り組むためにはまず、IT部門を見える化し、現状を見やすくすることから始めるといいでしょう」

 IT部門の業務内容、運用コストや所有するIT資産をしっかり把握すれば、コスト削減のポイントだけではなくセキュリティやコンプライアンスの要件も浮き彫りになる。自社に本当に必要なシステムの要件が、おのずと見えてくるだろう。


外部サービスの利用は
システムごとに判断すべき



「自社のITシステムを見渡し、
効果的な部分だけを外部化して
いくとよいでしょう」


 ITシステムのコスト削減を考えるうえで、避けては通れない話題が外部サービスの利用だ。特に最近ではSaaSのコスト削減効果が注目を集めている。だが、コスト面だけを見て安易にサービスを選択すべきではないと、熊谷氏は言う。

「アウトソーシングやSaaSは、統制的には外部委託の一形態と言えます。セキュリティやコンプライアンスへの対策はサービス業者にその実施を一部委ねることになりますが、ユーザー企業は管理・監督責任を負っていると考えるべきでしょう。信頼できるサービス業者を選び、適切なモニタリングを行わなくてはなりません」

 SaaSなどの外部サービスでは、セキュリティ対策やコンプライアンスへの取り組みがどの程度行われているのか、その対策強度をはかることは難しい。重要な情報を預ける際は、管理体制や管理方法に関する報告を継続的に求めていくべきだと、熊谷氏は言う。また、こうした外部サービスを利用すべきか、ひいてはITを自社に持つべきか持たざるべきかに悩む企業に向けて、次のようなアドバイスもくれた。

「まず、持つべきか持たざるべきかという二択の議論から離れてください。自社のITシステムを見渡し、外部サービスの利用が効果的なもの、社内で運用すべきものを分類し、効果的な部分だけを外部化していくという考え方を持つといいと思います」

 外部サービスを利用するかどうかの選択は、そのシステムが自社ビジネスのコアにかかわるかどうかで判断するといいと、熊谷氏は教えてくれた。自社の強みを発揮するために必要なシステムであれば、コストを投じてでも社内で運用し、ビジネスをしっかり支えていく必要がある。一方、汎用性が高く可用性がシビアに要求されないものは、外部サービスを利用して所有コストや運用コストの削減へとつなげていくといいだろう。

 個別のシステムがどのように使われ、自社ビジネスにどのような効果をもたらしているのかを考える際、どうしても必要なのが、システムを利用するユーザー部門からの意見だ。IT部門はより積極的に、ユーザー部門を巻き込んでITシステムの運用に取り組まなくてはならない。これまでのようにユーザー部門からの依頼に応えて個別のシステムを構築するだけではなく、IT部門がリーダーシップを執る姿勢を見せるべきだと、熊谷氏は語っている。

「コスト削減や運用効率の向上を考えると、IT基盤は統合していく方向に進むでしょう。そうなればなるほど、案件ごとに個別の仕様でシステムを構築できなくなります。IT部門がリーダーシップを発揮し、ユーザー部門を巻き込んだ議論の中で全体の要求、仕様をまとめていかなければなりません」

 コンプライアンス対応についてもITシステム全体を見渡し、改善していく必要がある。コスト削減を含めたパフォーマンスの向上、さらにリスク管理、ビジネス継続性の向上など、達成すべき項目が増えるに従い、IT部門のリーダーシップが問われるシーンも増えている。


コスト削減に直結する技術が
目の前にある

 インタビューの最後に、興味を持っている技術キーワードについてうかがったところ、仮想化によるサーバ統合や、SaaS、クラウドといったワードが並べられた。

「いずれもここ数年で急速に進化した技術で、コスト削減に直結しやすいものです。特に仮想化やSaaSは導入実績も多くなってきました。積極的に検討してもよい状況にあると考えています。」

 10月28日に開催される「ITシステム運用 コスト削減・最適化セミナー」の基調講演では、より具体的な例も盛り込んでコスト削減につながる技術の導入について語る予定だという。事前登録制で参加は無料なので、興味を持っている担当者は足を運んでみてはいかがだろうか。少しでも早くコスト削減への道を歩み始めるために、情報収集を行ういい機会になるだろう。


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