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クラウド・サービスの導入について、アイ・ティ・アール(以下、ITR)シニア・アナリストの冨永裕子氏は「企業は、エンタープライズITベンダーに加え、プレゼンスの高まるコンシューマーITベンダーの活用も本格的に検討する時期に来ている」と指摘する。冨永氏にオンプレミスとクラウドの違い、プライベート・クラウドとパブリック・クラウドの違いについてそれぞれ解説いただいた。
クラウドサービスの導入済み、導入予定は合わせて5%にとどまる
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アイ・ティ・アール
シニア・アナリスト
冨永 裕子氏
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──海外市場でのクラウドサービス導入の現状について教えてください。
冨永 ITRと提携している米調査会社Forrester Researchが、北米・欧州の2,700社を対象として行った調査によると「クラウドサービスを導入済み」の企業はまだ3%で、「12ヵ月以内に導入予定企業」を合わせても5%にとどまっています。また、「導入済み」、「導入予定あり」、「関心がある」と回答した“積極派”を対象に、「どのような分野にクラウドサービスを利用したいか」を尋ねたところ、データベース、Webサーバ、Webベース・アプリケーション、メールなどが指摘されています。
図1 北米・欧州市場に見るクラウドサービス導入の現状
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──日本の企業はどうでしょうか?
冨永 ITRの「IT投資動向調査2009」(調査対象410社)からみると、「クラウド・コンピューティングの利用」そのものの重要度は最下位になっています。ただし、関連する「仮想化技術の導入」「ASPサービス・SaaSの利用」と合わせると、重要度は第2グループとなり、実施率も高く、今後伸びていくと予想されます。
図2 「IT投資動向調査2009」に見るクラウド関連技術の現状
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クラウドサービスの価値は「コア業務に集中できる」こと
──現在、経済環境は厳しい状況が続いており、ユーザー各社は新規投資に極めて慎重な姿勢をとっています。その中でクラウド・コンピューティングに経営層が求めるものは何でしょうか
冨永 最大の関心事はコスト削減です。ユーザー単位で毎月の利用実績に基づき課金されるという経済性が、クラウドサービスの価値です。また、短時間で技術導入が可能な点、高度な基盤をユーザー自身が管理する必要がないこと、自社の経営に応じて柔軟な契約形態が選べることなどをクラウドサービスの価値として挙げることができます。これらをまとめて一言で言うと、クラドサービスのユーザーにとっての価値は「コア業務に集中できる」ことでしょう。
クラウドサービスとはIT分野の管理を外部に委託するアウトソーシングの一種だと考えることができます。クラウドサービス・モデルと従来からあるオンプレミス(社内所有)・モデルが財務に与える影響の比較を下表に示しましたが、“持たない”クラウドサービスをうまく使えば、ROA(総資産利益率)の改善も見込めます。
| オンプレミス・モデル | クラウドサービス・モデル |
支出タイプ | 資産計上の対象となる支出と費用処理する支出の両方 | 費用処理する支出 |
キャッシュフロー | サーバソフトウェアの事前購入が必要 | サービス提供開始時点から支払いが発生 |
財務リスク | 投資に見合うリターンが不確実な場合でも、開発完了後に支払いが発生 | 毎月の支払い時に、利用実績相当分の支出が発生 |
P/L(損益計算書)への影響 | システム資産の減価償却費の計上と毎年の保守費の計上 | 保守費の計上 |
B/S(貸借対照表)への影響 | 多年度にわたり、ハードウェア資産とソフトウェア資産を計上 | (資産を持たないため)影響なし |
出典:ITR,2009 |
──オンプレミスとクラウドを比較すると、コストの点では具体的にどのような違いが出てきますか
冨永 クラウドサービスではセットアップやカスタマイズの初期費用をかなり安価に抑えることができます。また、使用料金が変動的で、ユーザー数、トランザクション量に応じて費用が決まるため、これまでのオンプレミスの利用状況を精査してコストメリットが出る支出計画を決めることができます。
ただし、クラウドサービスには課題も残されています。まず、セキュリティに対するユーザー企業の心理的な不安があり、これを払拭することが課題です。そのほか、ユーザー企業が期待しているサービスレベルが保証されないこと、クラウドの“向こう側”にあるデータの安全性やベンダーの選択肢が限られていること、社内のIT部門が効果的な統制を効かすことができない資産が存在することなどの課題があります。また、簡単にスタートできる反面、IT部門に関係なくユーザー部門で始めてしまうこともあり得ます。クラウドサービスはアウトソーシングの一形態と言え、ユーザー側でサービス品質をコントロールできないという根本的な問題も残ります。
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