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  • 2009/07/30 掲載

【日本型コーポレートガバナンスを求めて】顧客満足とコーポレート・ガバナンス(2/2)

顧客の支持を得られない“品質”には、何の意味もない

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語り続けるリーダーシップと顧客満足を本当に重視した評価システム

法政大学大学院<br>イノベーション・マネジメント研究科教授 嶋口充輝氏
法政大学大学院
イノベーション・マネジメント研究科
教授 嶋口充輝氏
─そうしたガバナンスを実行するためには、どのような方法論があるのでしょうか。
嶋口●
顧客志向、市場志向の組織体制をつくるには、大きく三つの方向性があると思っています。

 一つは、組織として顧客重視の取り組みを継続させるリーダーシップです。もう一つは、実効性を高めるための制度、そして三番目がプロセスの重視です。

 組織として顧客重視の取り組みを継続させるためには、常にリーダーが熱く語り続けることが必要です。理念を掲げるだけでは、それはいつしか形骸化し、お題目になってしまうものです。ですから、経営トップの決意として、くりかえし語り続けることが大切です。

 IBM のガースナーもそうですし、GE 社のジャック・ウエルチもそうでした。あるいはゼロックス社は、創業者であるジョー・ウイルソンの意思を受け継ぎ、常に顧客満足と社会に対して責任ある行動が最も重要であると強調し続けています。

 こうした経営者は、実は日本には、多いようで意外に少ないのです。技術優先、ハード重視、そして利潤追求型の経営手法がいまだに主流で、とくにモノづくりにこだわる製造業にはこうしたタイプの経営者は少ないように思います。

─制度というのは評価制度を指していますか?
嶋口●
たしかに、一番重要なのが評価システムだと思います。青梅慶友病院の全員評価システムについては何度か説明していますが、査定につながる評価に顧客満足を巻き込むシステムが内包されており効果的です。

 あるいはノードストロームは、返品を無条件で受け付けるなど「絶対にノーと言わない百貨店」として有名になりましたが、販売担当者は歩合制なのです。歩合制でありながら高い顧客満足度を達成する最大の要因は、その評価基準にあるといわれます。売上生産性、顧客サービス、チームプレイという三つの基準が重視され、しかもそれらはすべて同じウエイト付けがされているのです。

 また、ゼロックスの顧客満足度調査による評価制度も有名です。ゼロックスの場合、顧客満足度調査において、顧客満足度(商品およびサービス)とカスタマー・ロイヤルティの関係について分析し、顧客満足度を5 段階評価で測定した場合、5 の非常に満足と4 の満足とでは、カスタマー・ロイヤルティに6 倍の開きがある。つまり、5 と評価した人は、4 と評価した人の6 倍も商品を再購入していることを突き止めたことは有名です。

 そこでゼロックスは、「品質とは、潜在的また、顕在的顧客の満足を満たすこと」だと規定しました。そのため、たとえハードの故障率が少なくとも、つまりハードのクオリティがどんなに高くても、もし顧客満足が低ければ、高品質であるとは評価されないのです。

 購入してもらえる、そして非常に満足してもらえる、さらに再購入や紹介につながることで、品質は評価されます。だから、顧客満足度が高くなければだめだという理屈です。

─つまり開発部の仕事の品質が高くとも、営業部やサービス部門などの品質が低ければ、全体としての品質は低いゆえに共同責任になるという見方なわけですね。
嶋口●
そうです。日本の大メーカーでは、営業部と開発部の仲が悪いとか、品質管理部門と生産本部の仲が悪いなどという話をよく聞きますが、こうしたロジックに従うならば、チームとして全体満足をあげるしか方法はないので、そんなセクショナリズムは意味をなくします。広い意味での組織融合が必要とされるわけで、こうした制度、仕組みや風土と言ってもいいでしょうが、これを確立することによって、全部署が協力していい商品を開発し、販売し、アフターサービスを行っていくというサイクルが回り始めるのです。その結果、より売れる商品が開発されるでしょうし、その商品を最高のサービスで販売し、フォローする体制ができあがると考えられます。まさにサービス中心の経済へのパラダイムチェンジが加速されるわけです。

─評価制度以外の制度面はどうでしょうか。
嶋口●
たとえばディズニーの徹底したマニュアル主義なども挙げられます。従業員はキャストと呼ばれますが、その理由は、各職場に用意されたマニュアルによって各従業員がいわばシナリオどおりに動いているからです。キャストの動きもすべてショーの一部なのです。動作も、トークも、サービスの仕方もすべて規定されています。

 もう一つ、コンプライアンスという側面からの事例でモトローラの話は参考になります。大分昔に聞いた話ですが、モトローラは、世界的に見て政府関係との取引が多いこともあり、談合はもちろん、あらゆる贈り物を禁じています。日本の場合、そのためお中元やお歳暮を贈ることもできないのです。そこで、一つの方法としてお中元やお歳暮の時期に、クライアントに手紙を出します。何が書かれているかというと、「本来ならば御社にお中元をお贈りしたいところですが、コンプライアンス・ルールで禁止になっているため私たちは、その分の金額を盲導犬協会に寄付させていただいています」といった内容です。

 コンプライアンスの姿勢を、顧客満足につなげる好例ではないでしょうか。

ゴールデンルールを明文化したマニュアルと神話による従業員の動機付け

─プロセス重視とはどういう意味でしょうか。評価制度において、結果だけでなく、いかに行動したかというプロセスを大切にすることで、長期的な視野、すなわち顧客の獲得を重視するという方法論があると思いますが。
嶋口●
その点も重要ですが、私がここで指摘したかった点はそれとは違います。実行プロセスのなかに、効率追求型というより顧客志向型のマニュアルとルールを重視するという意味です。従来のマニュアルというものは、ひたすら効率性を追求するための作業規範が中心でした。そうしたマニュアルやルールを変更し、顧客満足追求型マニュアルをつくり、従業員などには、それらを愚直に実践してもらうのです。

 たとえばある中堅スーパーマーケットの場合は、鮮度を非常に重視しています。ところが現場の職人というものは、効率を求めがちです。そこで売れ残った刺身を焼き魚にしたりしていたそうです。しかし、それでは焼き魚は鮮度が悪いという評判になってしまいます。そこで同社ではマニュアルを変更し、「仕入れの際に迷ったら高いほうを買え」「新鮮なサシミと同じ魚をすぐその場で焼き魚にする」という項目を付け加えたのです。マニュアルによってそうしたルールを定め、それを現場に守らせさえすれば、顧客満足にとって一番いい方法が実践できるはずです。ただし、マニュアルそのものが顧客視点で作られていなければ意味がありません。

 また、日常プロセスのなかで、常に顧客志向の理念を浸透させる仕組みも考えられます。

 たとえばリッツ・カールトンでは、毎日クレドーを唱和し、何項目かのゴールデンルールの一つ一つに対し、世界各地で同社が行ったさまざまな顧客満足や感動体験のエピソードを紹介し価値の共有化を図っています。ディズニーはさまざまな手法で従業員に夢と感動の大事さと笑顔の意味を強調していますが、こうしたことはマニュアルよりも効果的です。ただ、そのための従業員教育を徹底しなければならないという難しさがあります。

─リッツ・カールトンなどでは、顧客の生涯価値の重要性を説いていますね。
嶋口●
そうですね。ただ、顧客生涯価値というのは、本当のところは誰にもわからない。しかし、そうした逸話を神聖化することは重要です。リッツ・カールトンは、従業員に1 日につき2 0 0 0 米ドルまでの決裁権を認めていますが、それもある意味でのシンボルだと思います。ただ、そうすることで、顧客満足への企業姿勢の本気度を従業員に植え付けることができます。全体としてのレベルを高めることが可能なわけです。

 昔、話題になった例ですが、米国のスーパーマーケットであるスチューレオナードの店頭には、OUR POLICYと題された2 つのルールが、大きな御影石に掘り込まれています。それは、以下のようなものです。

●ルール1 お客様は常に正しい。
●ルール2 お客様がもし間違っていたら、ルール1 を読み直しなさい。

 これもシンボルです。しかし、大変効果的なシンボルです。お題目ではありません。

 こうしたさまざまな工夫や努力によって、サービス・ドミナント・ロジックを実践し、より良きコーポレート・ガバナンスを実践していくことが可能になるのです。

〈執筆:赤城 稔、写真:郡川正次〉

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