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  • 2009/05/22 掲載

【市場志向型経営の構図 第9回】ザ・リッツ・カールトンのマーケティング・リテラシー

武蔵大学経済学部 准教授 黒岩健一郎氏

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各種ホテルランキングで常に上位にランクインしているザ・リッツ・カールトン(以下「TRC」)。ホスピタリティの高いホテルとして有名であるが、実はマーケティング・リテラシーの高い組織でもある。今回は、TRCのビジネスシステムを市場志向型経営の観点から見てみよう。

ヨーロッパ生まれの伝統あるホテル



 TRCは、有名なホテルチェーンなので、いまさら会社概要を記すまでもないが、あまりご存じない方のために簡単に触れておこう。

 TRCは、1898年パリ生まれのリッツ・ホテルと、1899年ロンドン生まれのザ・カールトン・ホテルとが提携してできた100年以上の歴史を持つヨーロッパ発のホテルである。アメリカへの進出は1910年で、その後は北米で積極的なチェーン展開を進める。そして、1998年にマリオット・インターナショナル社が株式を取得し、現在24カ国で73のホテルを運営している。日本は、大阪と東京の2か所にある。

 スーパー・ラグジュアリーと呼ばれる超高級ホテルで、平均客室単価は25,000円前後。ターゲットは、ビジネスエグゼクティブである。評価の厳しい顧客が多いにもかかわらず、顧客満足度の高いホテルとして定評がある。

情報生成力

 TRCの情報生成力の基本は、顧客との会話である。フロント係もベルマンも積極的に顧客に話しかける。例えば、ベルマンが顧客をフロントから客室まで誘導するときには、館内にあるスポーツジムの案内をきっかけに、普段スポーツをしているかとか、翌日は京都で仕事があるといった情報を入手する。このような何気ないやりとりから、顧客が何を求めているかを把握するのである。そして、例にあげた顧客には、京都の地図をお持ちするといった一歩踏み込んだ対応が可能になる。

 顧客との会話からは、「このお客さまは毎日ジョギングをしている」といった情報も把握できる。このような情報は、「プリファレンス・パッド」というカードに書き込み、ゲスト・ヒストリー・コーディネーターに提出する。そして、顧客データベースに蓄積されていく。

 情報生成力のもう一つの源は、観察である。顧客の表情やしぐさからも、顧客が何を求めているかを理解しようとしている。TRCでは、顧客が言葉にする前にニーズを察知することを「ニーズの先読み」と呼んでいるが、それには顧客の注意深い観察が不可欠である。

 観察するのは顧客だけではない。顧客が後にした客室の状態も観察する。その顧客の客室利用の癖が理解できるからである。例えば、バスタオルがバスマット代わりに利用されていると、複数回シャワーを浴びて1枚のバスマットでは足りなかったのではなかと推測できる。次回の宿泊の際には、あらかじめバスマットを2枚用意するといったことができる。もちろん、このような情報も顧客データベースに蓄積されている。

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