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  • 2008/08/21 掲載

SaaS/ASP市場の現状と今後(2)数字で見るSaaSのメリット--9割以上コスト削減できるモデルも

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第1回では、広範囲に渡って提供されているSaaS/ASPサービスを体系的に分類し、提供ベンダー側の視点から、現状の市場傾向や今後のマーケット規模の推移などについて述べてきた。第2回では、提供者側および利用者側双方の視点から、SaaS/ASPを利用するメリットについて、実際の導入モデルで金額なども加味しながら、従来型のパッケージ型ソフトウェアとの比較を考えていく。

【連載一覧】SaaS特設サイト

執筆:イーシーリサーチ ITコンサルティンググループ
SaaS/ASPサービスに求められているもの

 パッケージソフトを導入し、自社システムを構築する場合と比較したSaaS/ASPサービス利用のメリットとしてよくあげられるものに、下記のようなものがある。

・導入コストの削減が可能
・導入が容易で運用までの期間短縮が可能
・管理や運用作業のアウトソーシングによるコスト削減が可能
・個別のビジネススタイルに合わせた細やかなカスタマイズが可能
・バージョンアップが短いサイクルで行われ最新のテクノロジーが利用可能
・業務の標準化

 SaaS/ASPサービスをカスタマイズしない場合は、初期導入コストが非常に低価格で短期間で導入できるため、中小企業での利用が進むとみられる。さらに、これまで中小企業では導入が困難だったCRMやERPのようなグローバル企業が採用する世界標準のアプリケーションでも、SaaSでは利用することができるようになり、企業の競争力の強化を図ることができる。

 最近の傾向としては、中小企業に留まらず大企業でも、短期間で導入する必要性のあるものや、最新のテクノロジーを追求しなければならない業務においては、SaaS/ASPの利用が期待されている。

 過去のASPサービスと比較すると、SaaSの場合、複雑なカスタマイズは別として、画面上の操作体系や、データベースの構造などは、ユーザー企業側や提供パートナー側で、パラメーターの設定変更だけでできるサービスも増加している。

 運用コストの面でも、SaaS/ASPの活用メリットは大きく、これまで情報システム部門やサポート・メンテナンス会社が行っていた作業の大半を削減することができる。このように、ユーザー企業側では、採用するメリットが非常に大きく、今後の急速な利用拡大が見込まれる。

 一方、SaaSという形態はベンダー側にとってもメリットがある。開発サイドでのメリットとしては、アプリケーションが自社もしくはホスティングベンダーのサーバー上で稼働しているため、適宜バージョンアップが行える。一般に、パッケージソフトのバージョンアップは3~4年に1回程度のサイクルで行われている。

 それに対してSaaSの場合は、年間で2~3回のバージョンアップが主流である。言い換えれば頻繁にバージョンアップしやすいのである。バージョンアップの敷居の低さは、常にユーザーにより進化した使いやすさやパフォーマンスの向上を提供することができることにつながる。

 ユーザー企業側にはバージョンアップのたびにシステムを再構築する負担を課すこともない。さらに、ユーザーの利用状況を常に把握できるので、ユーザー企業がいま抱える課題や問題点(たとえば利用頻度)の状況をつかみ、即製品の改良につなげていくことができる。つまり、数多くのユーザー企業にいち早く利用してもらうことができれば、それ自体がSaaSベンダーとしての他社との差別化につながっていくとみられる。

 純粋なSaaSベンダーでは、マルチテナント方式をサーバー上で採用しており、1台のサーバーで多くのユーザー企業が利用できるため、SaaSベンダーの開発から運用・サポートまでのコストを大幅に低減できる。このコストダウンが、実際にはSaaS利用料の低価格化につながり、価格競争力となっている。

 このように、SaaSはユーザー側、提供側のいずれにおいてもメリットは大きいが、変革を要する部分もある。特に、売上げの形態と販売方式である。

SaaS/ASPでの提供による問題点を払拭するポイント

 逆にSaaS/ASPで提供するデメリットとして挙げられるのが下記のポイントである。

・ベンダーのキャッシュフローが一時的に悪化
・システムインテグレータやパートナーの軋轢
・既存システムとの連携

 パッケージソフトウェアの場合は、販売すると一括で売上金額が計上されるが、SaaSの場合は、従量課金制となる。そのため、パッケージベンダーからSaaSベンダーに転換した場合、長期的に見ると収益性が悪くなくとも、一時的にキャッシュフローが変化し、資金力を要する場合がある。

 もう1つのポイントは、パートナーインテグレーションとの住み分けである。SaaSではこれまでSIerやディーラーが行ってきたカスタマイズやシステムインテグレーション、サポートなどの部分がカットされるため、ユーザーニーズがあったとしても、収益性の点から一気に踏み込めないパートナー企業も存在する。そのため、パートナー企業とのビジネスを中心に行ってきたパッケージソフトベンダーでは、SaaSを販売していくために、直販の強化とパートナー販売の強化の双方で戦略的な工夫が求められる。

 米国のSaaSベンダーでは、直販で特に自社Webからの販売で成功している企業が多い。この成功モデルでは、自社Webへのユーザー企業の誘導を強化して、ホームページでの詳しい説明(Webセミナーなど)やトライアルサービスの提供などを行っている。

 パートナー販売の強化策として考えられる施策としては、たとえばマージンやリベートの方法を変更して、販売にさらなる魅力を持たせる方法もあるだろう。たとえば、IBMやマイクロソフトでは、利用期間中継続的にユーザーの利用料金の10%をパートナー企業に提供するといったことを実施している。こうすることでパートナー企業側で、従来の運用収益のような安定的な収入源となる。

 また、自社のSaaSサービスにAPIを提供して、パートナーが保有するアプリケーションやソフトウェアの組み込みやユーザー向けインタフェースの開発、データベースの構造カスタマイズなどをパートナー企業で行えるようにして、パートナー側でSaaSにさらに付加価値を提供する余地を作ることも考えられる。

 このように、リスクやデメリットもないわけではないが、今後ソフトウェアベンダーとして生き残っていくためには、大半のベンダーがすべてまたは一部においてSaaSをそのひとつの提供形態として取り組んでいかざるを得ない状況にあるといえる。

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