- 2007/10/01 掲載
【連載】NGNとは何か(最終回):NGNの真価
月間連載
第1章にてご紹介したように、NGNアーキテクチャではネットワーク機能やサービス提供機能などが分離されている。今後検討が進めば、さらに細かく中の機能まで分けられていくことになる。なぜこのようなことを検討する必要があるのだろうか? その答えの1つは、ネットワーク上のノード(装置)の機能と、その配置を再検討したいという要望によるものだ。これは主にネットワーク提供者側から上がってきたものである。1 ユーザーから見れば、時々遅いことはあっても今のままでも使えているからいいではないかと思われるかもしれない。しかし、ネットワーク提供者側からすれば、このことはもはや単なる要望の域を超えた「危機感」なのである。
これを具体的にいうと、たとえば現状のIPネットワークを使って、現状の電話と同等の品質の保証はできない、という危機感である。電話網であれば、ネットワークの構成(経由するノードの数、距離など)をしっかりとデザインすることにより、その品質の確保は保証できる。一方、インターネットの場合、パケットがどの経路を通るかは流してみなければ分からない。これでは、品質を確保しようがない。現状では、MPLS 技術の導入などにより経路やトラフィックの制御が可能なため、品質の保証がまったくできないという状況ではない。とはいえ、あくまで最善を尽くす( ベストエフォート)手段がいくつか増えたに過ぎない。
そこで、IP 網の中に呼制御の考え方を導入し、折しも携帯電話の呼制御として導入が決まったSIP/IMS技術をベースに、固定電話のIP 化を進めることとなったのがNGN のフェーズ1である。よって、SIP機能を明示的にあらわし、IP 網を制御できるようにするため、サービス機能をサポートする部分( サービスストラタム)と情報を転送する部分(トランスポートストラタム)とを分離し、呼制御を行うサービスストラタムとパケットの転送を行うトランスポートストラタムとの役割分担を明確にしようとしたのである。つまり、IP網の管理・制御機能を明確にする機能ブロックを定義したのがNGN アーキテクチャなのである。これは、電話品質の確保を大義名分とし、通信事業者がIP 網アーキテクチャを再定義しようとするインターネットへの挑戦とも見てとれる。
SIPを活用し、携帯と固定電話の連携を図り、さらには、TV 放送をIP ストリーミングとして管理・制御することによって、通信と放送との連携を図る方向は、ユーザーにとっても事業者にとっても有益であるはずだ。しかし、単にTV が通信回線を使って観ることができるというだけでは、ユーザーにとってのメリットがあると言いにくい。やはり、通信と放送とが融合することによる付加価値が提供されてはじめてそのメリットが見出されるものといえる。
その意味においても、NGNのフェーズ2では、映像やエンターテイメントへの適用が主題となっており、現在すでにIPTV に関心が高まっている。今後は、このIPTV 提供に伴う新たな機能ブロックがNGN アーキテクチャに追加されていくものと思われる。NGNアーキテクチャの持つ意味は、携帯と固定、通信と放送などの融合を図っていくために必要となるネットワーク内の機能ブロックと、その機能間の連携も明らかにすることにある。これにより、ネットワーク上での機能配分の最適化が可能となる。「最適化」にまで至らずとも、ネットワーク上のノード( 装置)が実装すべき機能群は分かりやすくなるであろうし、さらに言えば、事業者の事業形態のあり方も再定義するきっかけとなる。ネットワーク上の機能ブロックが明確になれば、その機能ブロックの提供に特化する事業者が現れても不思議ではないからである。たとえば、ユーザープロファイルDB(たとえばユーザーの位置情報)とのインターフェイスが取れれば、複数のネットワーク提供事業者からその情報を得て、1つのネットワーク提供者が提供する以上のサービスをユーザーに提供できるサービスプロバイダーが出現するはずである。また、ネットワークリソース管理・制御とインターフェイスが取れれば、ネットワークを持たずともそのリソースを再販する業者が現れるかもしれない。これこそが、NGN アーキテクチャの持つ本当の意味であると考えられるのではないだろうか。既存事業者にとっては、パンドラの箱が開け放たれてしまったことを意味している。
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