- 2007/08/27 掲載
【経営革新2回】有能者のノウハウを見える化する方法
ノウハウ・マネジメントによる経営革新 <第2回>
≫ノウハウを企業の第5のリソースとしてマネジメントする方法
業務革新・IT化を推進する-外資系生命保険会社の場合
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外資系生命保険会社の事例を示そう。この会社で、有能営業マンのノウハウをえぐり出すと、たとえば「実験顧客」というノウハウが明らかになった。外資系生命保険会社の場合、営業マンは男性が多い。歩合制の給料で、家族を養わなければならない。この場合、クロージングの「恐怖心」を克服する必要がある。クロージングとは、顧客に保険の契約を行ってもらう、営業の最終段階のことである。クロージングを早めなければ、何回も顧客に会うことになる。すると、営業効率が低下し、給料が下がる。かといって、クロージングを早めると、顧客が性急なクロージングを嫌い、商談が失敗することもある。
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このノウハウは、「見える化」できる。上述の説明を、実践事例を交えて整理し「ノウハウ記述書」を作り、他者に説明できる。業務プロセスに展開することもできる。まず、
(1)手持ち顧客を特性ごとに分類
(2)分類ごとに代表的な顧客を選び実験顧客とする (3)実験顧客に対するクロージング早期化施策の仮説を準備
(4)これを実践検証する (5)顧客特性別のクロージング早期化施策を蓄積 (6)一般の顧客に適用する。
というプロセスだ。また、「顧客満足度を高めながらクロージングを早める施策」のデーターベース化も可能である。効果の大きなノウハウは、1 人の有能者から、通常3 ~ 5 個得られる。これらを業務プロセスやシステムに展開することで、組織のケーパビリティーを、一気に高めることが出来るのである。
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ハイテクメーカーのPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)で、顧客のシステムを開発するPM (プロジェクト・マネージャー)の、ノウハウを抽出・マニュアル化する活動が行われた。本活動では、秀でた成果を上げたPM から、成功のコツ、コツを具体的に実践する方法をヒヤリングし、これをマニュアルに展開した。しかし、折角作ったマニュアルは、活用されなかった。たとえば有能PM をヒヤリングすると、成功のコツは「営業段階から顧客と会い、プロジェクトの段取りを早めに議論することだ」と言っ た。そこでPMO では、営業段階で顧客と会い、何を決めるべきか詳細なチェックリストを作った。出来上 がったマニュアルは、たしかに営業段階でここまで突っ込んだ議論ができれば、やらないよりもましだろう。
しかし、時間もかかるし、そもそも営業の責任だ。やって、どれほどの効果が得られるのか分からないとの評価を受け、使われなかった。本活動の問題は、ノウハウ抽出において、「成果を得るロジック」を 明確化せず、プロセスや技術を作ったことである。ここで「成果を得るロジック」とは、当該ノウハウに よってなぜ成果が得られるか、論理的に説明したものである。
(1)一般の人間はどのように行っているか
(2)その結果どのようなロスがあるか
(3)有能者はどのように行っているか
(4)その結果どのようなリターンが得られるか、
を明確化することによって示す。たとえば先の有能PM の場合、「成果を得るロジック」は、プロジェク トに顧客のしかるべき人材をアサインすることで、検討や意志決定を的確に行うことであった。表2 に、ロジックを示す。ロジックが明確にえぐり出せれば、それを見たものは、確かな成果が上がることを理解し、このノウハウを使おうとする。ロジックが明確になれば、このロジックを実現する、必要最小限のマニュアルが書ける。またロジックが明らかになれば、「あれは○○さんのノウハウだ。私とは考え方が違う」などという議論が起きない。成果があがることが理路整然と説明でき、事例がセットで示されれば、正しいか正しくないかは判断できる。正しいものは実践すればいい。そこに、好き嫌いは存在しなくなる。
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企業の業務革新、IT 化は、多くの場合、現場の問題解決や、先進企業とのベンチマークを基に検討され る。しかし、灯台下暗しで、社内に、有能者ノウハウという業務革新、IT 化のニューフロンティアがある。これを活用しない手はない。ノウハウえぐり出しの訓練を積んだスタッフを養成し、このニューフロンティアに切り込むことができた企業は、大きな成果をあげることができる。
<著者プロフィール> 野間彰氏(Noma Akira) 1958 年生まれ。大手コンサルティング会社を経て現職。 製造業、情報サービス産業などを中心に、経営戦略、事業戦略、業務革新に関わるコンサルティングを行っている。主な著書に、「システム提案で勝つための19のポイント」(翔泳社)、「調達革新」(日刊工業新聞社)、「落とし所に落とすプロの力」(リックテレコム)、「団塊世代のノウハウを会社に残す31のステップ」(日刊工業新聞社)などがある。 |
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