0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
コロナ禍以降、消費者行動や消費者ニーズが多様化しており、企業は事業環境の変化への対応に迫られている。そうした中で注目されているのが「マーケティングDX」だ。マーケティングDXとは、データとデジタル技術を使ってマーケティングプロセスを変革し、競争力を高めていくことである。だが、専門人材の不足や専門組織の未整備など課題が山積し、成果を出せていない企業も多く見られる。そこで本稿では、マーケティングDXを基礎から解説するとともに、成功への秘訣、成功事例などを紹介し、マーケティングDX実現のヒントを提示する。
マーケティングDXとは?デジタルマーケティングとの違いは?
マーケティングDXとは、データとデジタル技術を最大限に活用し、マーケティングプロセスを変革して企業競争力を強化することである。
ECサイトの構築やSNSによる情報発信、メールマガジン作成・配信など、ITツールによって個別のマーケティング業務をデジタル化する「デジタルマーケティング」とは異なり、デジタル以外のマーケティング活動もデジタルやデータで管理・効率化する対象になる。
そもそもマーケティングとは「商品が売れる仕組みづくり」のことを指すが、日本企業は欧米企業に比べ「マーケティングが下手」と言われ続けてきた。これは「良いモノであれば必ず売れるはずだ」と考える職人的発想の企業が多かったためであると考える。
しかし、良い商品は「良い売り方」で売れるのであって、労せずに勝手に売れていくことはまれである。そこで、マーケターは市場調査を行って顧客ニーズを探り、商品の知名度向上や見込み顧客の掘り起こしを狙い、販売促進(プロモーション)、ブランド化(ブランディング)を展開する。そのプロセスを通じて購買意欲の高い見込み顧客(ホットリード)を把握・育成し、商談や来店につなげる。
昨今は顧客ニーズの専門化が進んでおり、市場が細分化されてきたことに加え、急速なデジタルシフトによってダイレクトメール(DM)や折り込みチラシ、電話営業、新聞・雑誌広告、テレビCMなど、従来のアナログなマーケティング手法が通用しにくくなってきた。
購買チャネルの変化(Webサイト、アプリ)や情報の多様化(SNS、ブログ、掲示板、口コミサイト)も進み、消費者はオンラインで24時間いつでもどこでも情報を取得し、商品を選んで購入できるようになった。これに伴い企業は「一律・一斉・一方向」の情報提供ではなく、「多種・個々・双方向」のコミュニケーションをスピーディーに行うことが求められている。
そこで登場したのがデジタルマーケティングである。具体的には、自社サイトを検索結果の上位に表示させるSEO(検索エンジン最適化)、アフィリエイト(成果報酬型広告)、メールマガジン、オウンドメディア(自社保有メディア)、MA(マーケティングオートメーションツール)、SNSインフルエンサー(世間や人々の考え・行動に大きな影響を与える人)の起用などがある。
「デジタルマーケティング」から「マーケティングDX」へ
従来のマーケティングは費用対効果の計測が難しいため、これまで大企業を中心に行われていた。だが、デジタルマーケティングは比較的手軽に低予算で実施が可能なため、中小企業でも活用しやすいことが特長である。
反面、デジタルマーケティングは得てして部分最適に陥りやすい。たとえば以下である。
- 特定の商品で散発的に効果が得られるものの、それだけで満足してしまい、ほかの商品への波及効果が見られないケース
- 複数の事業部がそれぞれ独自に取り組み、同じターゲット層に向けて同じ施策を別々のアプローチで重複して展開するケース
- Webサイト、SNS、オウンドメディア、アプリ、動画、メールマガジンなどの企画・制作・配信、SEO対策、ネット広告運用など、それぞれの専門事業者に丸投げし、会社最適のマーケティング活動になっていないケース
こうした例は枚挙にいとまがない。
マーケティングはデジタル化が進むほど、自社が未経験のさまざまな機能不全や不具合が起き始める。そこでマーケティングプロセスを変革するマーケティングDXの必要性に多くの企業が迫られているのだ。
マーケティングDXの「3つのメリット」
■データに基づいた意思決定
マーケティングDXでは、マーケティングの全工程をデジタル化させつつ、データを集約・活用できる環境を整えることが求められる。そうして得たデータを分析することで、客観的かつスピーディーに経営判断や意思決定を下すことができる。
■業務効率化
デジタルツールを活用する際に、マーケティングプロセスを見直し、再構築することが求められる。それを行うことで、デジタルによる効率化の効果を得るだけでなく、最適化されたプロセスによる業務効率化も得ることができる。
■個別最適化された顧客体験の提供
多様化する顧客ニーズや購買行動を理解し、それに基づいた個別最適化された商品の提供が求められている。マーケティングDXを進めることで、顧客との接点や関与を強化することができ、顧客ごとにパーソナライズされた商品の開発・提供につなげることができる。
企業が抱える「マーケティングDXの課題」
マーケティングDXに対し、組織・人材面で課題を抱える企業が目立つ。タナベコンサルティングが2023年1月~2月に全国の企業266社を対象に実施したアンケート調査によると、マーケティングDXの課題について42.5%の企業が「専門的に行う部署・チームがない」と回答。次いで多いのが「DX人材がいない」(35.0%)という結果であった(図)。
そのほか、「具体的な成果が出ない/見えない」、および「ビジョン・経営計画にマーケティング戦略orDX戦略がない」が32.3%で並び、「社内の教育体制がない」が28.2%と続いた。
マーケティング投資が増加傾向にある中、マーケティングに関するデジタルツールへの関心が高まる一方、それらを専門的に手掛ける組織・チームが社内になく、人材もいないというギャップが広がっている。
専門性と推進力がバランス良く備わる人材を社内で育成するのか、新たに採用するのか。どちらも難しい企業は外部の事業者に業務委託することになるが、その場合は「いつまで外注するのか」という問題も残る。いずれにせよマーケティングDXにおいては、戦略の構築と併せて組織体制・人的資本の整備が急務と言える。
マーケティングDXで企業が目指すべきことは「顧客中心のデータドリブン組織」の構築である。顧客ニーズや購買行動を深く考え、それに基づいてパーソナライズされた商品を提供する。そのためにデータ活用とデジタルマインドセットの共有、新しいテクノロジーへの適応を企業全体で進める必要がある。
【次ページ】マーケティングDXの「成功の秘訣」と「成功事例」
関連タグ