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- 2006/12/19 掲載
政府システム最適化の実現に向けて【第4回】情報戦略ガバナンス
情報戦略ガバナンス/第4回 【ビジネスインパクト連載中】
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ボストン コンサルティング グループ ヴァイス・プレジデント 井上潤吾 Inoue Jungo ペンシルバニア大学経営学修士(MBA)、 東京大学大学院工学系修士。 ボストン コンサルティング グループの アムステルダムオフィスを経て、現在、 東京オフィスに所属。国内外のIT関連会社 や情報システム子会社を擁する金融サービ ス会社、産業財メーカー、電力会社に対し て、事業戦略、組織、グループマネジメン ト、IT診断と私活用、営業ケイパビリティ 構築などを中心としたプロジェクトに従事 している。 |
(1)政府の大規模システム調達は、品質/納期、透明性、コストの三位一体構造になっているため、システム最適化を図るには、特に品質/納期の担保を考慮して検討すべき、
(2)三位一体構造の呪縛から早く脱して投資対効果の向上に着手すべき、の2点であった。
この2つの方向性に関して、政府関連の多くの方々に賛同いただけたと思う。しかし、議論の中で、2つの大きな論点が浮き彫りになった。一つは、(1)に関するもので、政府のシステム調達は、将来どのような状態になっていることが理想なのか、という論点である。もう一つは、(2)に関するもので、投資対効果といってもどのように指標を設定し、測定し、そして改善していったらよいのか、という論点である。
前者の論点は、わかりやすく言うと、毎回細かい単位で競争入札を繰り返すことで供給者間の競争を促進しコストを低減する完全競争入札方式と、最初は入札で決めるが一旦供給者を決めれば長期的に付き合うことで品質を担保しながら持続的にコストを低減する長期安定発注方式、のどちらを選ぶかということである。一方、後者の論点には、「効果といっても結局は公務員の削減(人件費の削減)につながるだろうから、各省庁の原局では抵抗感が否めない」という懸念をどう払拭するか、という実現に向けた課題が存在する。
完全競争入札方式と長期安定発注方式には、それぞれ長所短所がある。前者(完全競争入札方式)は、いつでも新規参入者が入れるオープンな環境であること、品質/納期さえ担保できれば常に最安値の価格で調達できることが長所であるが、発注単位間の整合性や統合が必要な場合は品質のリスクが増大すること、システム要件が将来大きく変わりうる新規システムの場合、変化する要件を供給者が認めないリスクが増大することが短所である。
一方、後者(長期安定発注方式)は、発注者と供給者の信頼関係が築けていれば、品質や変化するシステム要件に追随できる。また、同じ内容の案件を数年にかけて発注する場合は、供給者側に累積経験がたまることを利用して、持続的にコストを低減する仕組みを取り入れることができる。しかし、この方式を実現する条件として、発注者と供給者の適度な緊張関係を保つために、発注者の発注能力が高いことが必要である。発注能力が低いと、持続的なコスト低減の機会を逃しやすいからである。
政府システム調達の理想状態はどちらであろうか。筆者は、コモディティシステムの調達は前者で、ミッションクリティカルなシステム調達は後者をめざすべきであると考える。コモディティシステムとは、例えば、パソコンやOSであり、ミッションクリティカルなシステムとは、大規模システムの設計・開発である。保守運用や維持開発は、状況に依る。ミッションクリティカルとは、もしそのシステムが機能を停止/低下した場合に、重大な影響を社会や個人に与える状況である。昨今で言えば、証券取引所のシステムがその典型例である。
それでは、現状からどうやってその理想状態に近づければよいのだろうか。まず、コモディティシステムは、競争入札にすればよい。ミッションクリティカルなシステムは、政府のシステム発注能力を向上させることである。しかし、業務ローテーションが頻繁かつ確実に行われる政府でシステムの発注能力を高めることは難しい。供給側は常に同じ業界に属して経験を蓄積させているが、ユーザ側は、数年に一度のシステム更改のときしか実体験は得られないためである。民間であれば、業界内他社や類似システムを導入している他業界ユーザにその経験を聞きに行ける。しかし、政府システムの場合、多くのシステムが唯一無二のシステムである場合が多いため類似経験は得られにくい。
米国政府の場合は、政府と民間、政府(発注者)と供給者のそれぞれの間で頻繁に人事交流を行っている。そうすることで、政府に数百名のPMを擁してPMO(Project/Program Management Office)を組成し、民間、および供給者のノウハウを政府(発注者)に取り入れているのだ。日本でも同様のことを目指すのであれば、現在の少数のCIO補佐官だけでなく、多くの外部人材を登用する仕組みを考える必要がある。
残念ながら一朝一夕には、発注能力は上がらない。しかし、長い道のりだからといって、ミッションクリティカルなシステムを一時的にでもコモディティシステムのように完全入札方式で切り刻んで発注してはいけない。変化するシステム要件を取り込めないばかりか、品質リスクが増大することになりかねず、一旦その悪循環に嵌ってしまうと、元に戻るまでに多大なコストと期間を要する事態に陥ってしまう危険性が高い。BCGの調査では、米、英、豪どの政府でもミッションクリティカルな大規模システムを切り刻んで発注している例は稀有であることがわかっている。
向上に向けて
政府システムは、これまで費用(コスト)低減を主な目標としてきた。しかし、今年初頭にIT戦略本部が発表したIT新改革戦略では、「費用対効果」を明確化することが明記されている。これは、これまでのシステム利活用がコストとして見られてきた流れから、投資対効果として見られるようになりつつある変化点であると言える。しかし、惜しいかな、依然「費用」対効果になっている。「費用」は使うことに主眼が置かれがちである。
本来は、「投資」対効果であって、効果を少しでも多く刈取ることに主眼を置くべきなのである。(図参照)投資対効果を上げるためには、効果を最大化するとともに、適正な価格で投資することが必要である。
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(図)システム利活用の新たなアプローチ
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これは民間では当たり前のことである。例えば、原局の懸念である「効果を突き詰めると公務員の削減につながる」という点は、民間でも、業務の見直しを突き詰めると人員削減につながる、という懸念に似ている。こういう場合のアプローチは、必要とされる新しい業務を探索し、その業務が生み出す価値を明示して、人員の再配置を行うことを検討することである。
業務の見直しを図る場合、民間では、現行の業務プロセスを調査し、経営の意思、顧客ニーズ及び競合環境により、あるべき業務プロセスを設計して、その姿に向けて改善していく。政府の場合でも、同様に現行のプロセスを調査し、政策課題から目標を設定し、それをKPI(Key Performance Indicator)に分解して対策を検討すれば、改善可能であろう。政府システムの投資対効果向上に向けて、民間の知恵を導入し、日本政府の行政改革能力を上げて、国力を増加していって欲しいものである。
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