- 2006/06/30 掲載
【世界のビジネス事情】経済でも変化を遂げるラテンアメリカ諸国】
こうした状況の中で試される日本企業の対応
以上のような欧米諸国や中国の攻勢に対し、日本のラテンアメリカにおけるプレゼンスは残念ながら低下の一途をたどっている。図5が示すように、日本から見たラテンアメリカの重要性は、貿易のシェアで4%前後、直接投資は変動があるもののこの期間の平均は3.6%に過ぎない。

図5 日本の貿易と直接投資におけるラテンアメリカのシェア(%)
他方、ラテンアメリカにおける日本のシェアは、より明確な低下傾向を示している。たとえば、ブラジルでの日本の直接投資のシェアは、'95年までの累計で6.3%であったが、図6に見るように'96年以降は2.6%にまで低下している。かつて、日本企業はウジミナス製鉄、イシブラス造船、ツバロン製鉄など、ブラジルで重要な位置を占めており、70年代のシェアが11%を超えていたことを考えるとかなりの後退だといえる。

図6 ブラジルへの直接投資残高の国別シェア
こうした数字は、グローバリゼーションのもとでサービス産業も急激に国際化する時代において、日本企業にとって不得意な分野である金融、通信、商業、インフラなどが直接投資の主要分野となったことを示している。また、M&Aによる進出が主体となっており、日本企業がM&Aに不慣れであることもその一因といえよう。
ラテンアメリカでは、今後のダイナミックな成長を視野に入れ、世界の企業が熾烈な競争を繰り広げている。今後、日本企業は、これまでのように製造業を主体とするにせよ、サービス・インフラ部門にも進出するにせよ、ラテンアメリカにおいてもプレゼンスを高めることが期待される。
ただし、ラテンアメリカへの企業進出を成功させるためには、いくつかの留意点がある。まず、経済改革後もマクロ的不安定が再発する可能性を否定できないし、グローバリゼーションが社会的緊張をもたらしており、依然として政治的にも安定しているとはいえないことに注視しておく必要がある。
他方、日本企業のマネジメント自体に関わる問題もある。ラテンアメリカ諸国は変化しつつあるが、そのビジネス環境には独特のものがあり、必ずしも日本企業にとって有利に働くものではない。また、一般的に日本企業は投資規模が欧米企業より小さく、長期的視野に欠けるなどの傾向があり、競争上不利なことも多い。
しかし、ラテンアメリカで成功している日系企業も少なくはなく、そうした企業は多かれ少なかれ以下の特徴を有している。長期的なタイムスパンを持ち、現地の商慣行を熟知し、徹底した現地化を行い、借り入れに依存しないために十分な自己資本を有し、適切なパートナーとの関係を構築し、経済政策・法制度の変更や景気の変動などのリスクに十分な対応ができる能力と情報網を持っていることである。また、極めて現地志向で、現地での採算を重視した戦略をとっており、円で換算した利益ではなく現地通貨での利益を重要視している。投資先国における政治的・経済的危機に対して、十分な危機管理能力を有することも重要な要素である。
したがって、ダイナミックな変貌を遂げているラテンアメリカが日本企業にとってのビジネス・チャンスであるか否かは、日本企業が再びチャレンジ精神を持つかどうかにかかっている。ラテンアメリカで日本のプレゼンスを高めようとするかどうかは、ひいては日本企業が真に国際的企業となる一つの試金石となるのではなかろうか。
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