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  • WAN最適化とは 第1回/全3回:ネットワーク「改築」講座

  • 2006/06/07 掲載

WAN最適化とは 第1回/全3回:ネットワーク「改築」講座

~コスト効率化を実現する~

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IT投資への制限が厳しい中、システム更新/変更やオフィス移転時においてコスト効率化を 実現するには、ネットワークの「改築」が必要となる。本連載では、多様な「改築」ニーズに ついて、背景からプランニング、技術解説、導入・設定プロセス、コスト効率化のポイント を解説する。ここでは「WAN最適化」をテーマに、具体的に何をどうすべきか検討する。
   
     

 

岸部貞治 Kishibe Sadaharu
ネットマークス
品質基盤本部 
テクニカルソリューションセンター
研究開発グループ マネージャー
-----------------------------------------------
次世代ネットワークソリューションの研究開発に従事。国内外の学会やカンファレンスに出没し、将来有望となりそうなネットワーク関連技術などの調査などを行っている。




footnote------------------------------------
[*1 ] SLA
 Service Level Agreement。通信事業者が、回線の最低通信速度や網内の平均遅延時間、利用不能時間の上限など、利用者に対するサービスの品質を保証する制度。

[*2 ] ISMS
 Information Security Management Systems。情報セキュリティマネジメントシステム。情報セキュリティを継続して改善する仕組みであり、ISMS認証取得=セキュリティレベルが高い、ということではなく、セキュリティを継続して改善する仕組みが一定レベル以上にある、ということである。

[*3 ] サーバ統合
VMwareなどの仮想サーバ技術や、ブレードサーバの採用などにより、数多くに分散していたサーバを1台もしくは数台に統合すること。管理コスト低減のほか、待機用リソースの削減などにも効果がある。

[*4 ] NetWare やAppleTalk
ノベルやアップルが提供した、ファイルサーバやプリントサーバの機能を実現するネットワークOS、またはプロトコル群を指す。

[*5 ] そのほとんどがTCP
例外的なものとして、名前解決のDNSのほか、IP電話の音声トラフィックもRTPと呼ばれるUDPプロトコルを用いる。

[*6 ] ACK
Acknowledgement。TCPにおいて、データ送信完了時に応答するパケットを指す。

[*7 ] RTT
Round Trip Time。ネットワーク上でデータが送信先に到達し、応答が返ってくるまでの時間であり、ネットワークの遅延時間を示す値としても用いられる。Pingコマンドで簡単に確認できる。

[*8 ] CIFS
Common Internet File System。Windows系OSで利用されるファイル共有プロトコル。NASなどで標準的に用いられる。  

 
 企業が拠点間を結ぶためのWAN回線は、この10年ほどで恐るべき進化を遂げている。以前は高速デジタル回線など、物理層(レイヤ1)レベルで専用の回線を結ぶ回線占有型のサービスが中心であり、高い信頼性が約束される一方で、非常に高価であった。

 1990年代後半から、IP-VPNや広域イーサネットなど、新しい専用線サービスが提供され始めた。これらはMPLSやVLAN技術によりレイヤ2/3で仮想的な専用ネットワークを形成するもので、明らかに従来の専用線と比較してより安価で高速であった。当初はベストエフォートでの提供など、従来型専用線と比較して信頼性が劣るイメージがあったが、今では一定以上のSLA[*1]が提供されるなど、その品質も十分といえる。さらにはより安価な専用線として、インターネットVPN採用する企業が増えている。この流れ(変化)は、奇しくも従来の電話からIP電話へ、さらにSkypeへと、電話の世界でも繰り返されているのは、単なる偶然ではないだろう。

 一方で、今年4月からの個人情報保護法施行などをきっかけに、取引先からISMS[*2]認証取得を求められるなど、企業での情報管理・統制が重要になっている。その有効な対策の1つとして、企業内に分散されたサーバを1カ所に統合するサーバ統合[*3]が挙げられる。サーバ統合によって、これまで部門ごとにまかされていたセキュリティポリシーの均一化や、一括管理によってサーバのバックアップなどに伴う管理コストの低減などの効果が期待できる。統合するサーバの種類は企業によって異なるだろうが、Webサーバやファイルサーバなどが中心と思われる。

 サーバ統合は、当然ながら企業でのWANの利用に変化をもたらす。統合されたサーバファームへアクセスが集中することが予想される。従来のアプローチでは、サーバファームへつながるWAN回線を増速すればよかった。数年前にはWANの利用効率を上げるために、QoSやデータ圧縮を実現する専用機器なども登場したが、これらは回線の低価格化の効果に必ずしも勝てなかった。しかしWANが高速化するにつれて、必ずしも「増速=パフォーマンス改善」につながらないケースが出てくる。これが今回取り上げる「WAN最適化」だ。

 ここでWAN最適化とは、WAN回線自体は基本的に変更せずに、WAN上で利用するアプリケーションやプロトコルを念頭に置いたパフォーマンス改善の手法のことを指すこととする。ここでは特に後述する「WAFS」と「TCP最適化」に焦点を当てる。パフォーマンスを決定する要因には、サーバやクライアントに起因するものもあるが、ここでは対象外とする。

 ここでは、なぜWAN最適化が必要なのか簡単に触れた後、適用できる製品や技術について解説し、具体的な導入方法やコスト低減効果などについて、順を追って説明していく。


   過去10年間におけるインターネットの爆発的な普及の結果として、企業で用いられるプロトコルは今やインターネットプロトコル、つまりIPが中心となった。いや、それ以前にNetWare(IPX)やAppleTalk[*4]など、ほかのプロトコルが利用されていたことさえ知らない人も多いかもしれない。IPにはTCPとUDPがあるが、企業で用いられるプロトコルとしては、WebのHTTP、メール用のSMTP/POP/IMAP、ファイル共有のCIFSなど、そのほとんどがTCP[*5]である。

 TCPは、通信開始時にセッションを確立し、データ転送後に確認のための送達確認(ACK[*6])を返し、終了時にも開始時同様の手順を踏むため、「コネクション型」通信といわれている。一方UDPは、セッション確立や終了、データ送受の際に確認などを一切行わないことから、「コネクションレス型」通信といわれる。TCPでは、前述の手順を踏むことにより、UDPより信頼性の高い通信を実現することができる。

TCP通信手順
TCP通信手順


 TCPの通信手順の詳細を上図に示す。TCPでは、クライアントが一定量(ウィンドウサイズ)のデータ受信を完了すると、サーバに対してACKを返す。このとき、ウィンドウサイズと通信帯域およびサーバ・クライアント間の往復遅延時間(RTT[*7])との間には、以下の計算式が成り立つ。

[ウィンドウサイズ(ビット)]=[通信帯域(bps)]×[RTT(秒)]

 よりわかりやすくするため、ウィンドウサイズをバイト、データ帯域をMbps、RTTをms単位に 置き換えると、以下のようになる。

[ウィンドウサイズ(バイト)]=[通信帯域(Mbps)]×[RTT(ms)]×125

 Windows 2000/XPでのウィンドウサイズはデフォルトで16KBだが、RTTを80msとすると、どんなに回線帯域が広くても、実際の通信帯域は1.6Mbpsとなり、回線帯域に関係なく、データ通信速度が決まってしまう。もしパケットロスなどが発生すると、さらにパフォーマンスは悪化する。つまりTCP通信においては、回線帯域を広くすることは必ずしも有効でないとわかる。

 ブロードバンドの普及により、もう1つ忘れてはならないのが、プロトコルごとの特性である。たとえばWindowsファイル共有プロトコルであるCIFS[*8]は、非常におしゃべりなことで有名である。ファイルサーバを開き、ファイルの一覧を表示させるだけでも、クライアントとサーバの間で多くのやり取りを必要とする。元来遅延時間が十分小さいLAN環境での利用を意識して作られたためだと思われるが、WANを介してWindowsファイルサーバにアクセスした際、想像以上に時間がかかることを経験した人も多いだろう。

 このように、TCP通信や各プロトコルごとの特性を考えると、WAN回線の増速だけでは解決できない問題が存在し、それを解決するためにWAN最適化が必要だということがわかると思う。

>>>WAN最適化を実現する製品とは?
   
           

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