- 2006/08/25 掲載
ボーダフォン松本氏の起用の裏に秘められた熾烈な通信規格争い
ソフトバンク、ボーダフォンのCSOにクアルコムの松本氏を招聘
クアルコムという通信業界の巨人
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ボーダフォンCSOに就任する松本撤三氏 |
クアルコムは、現在移動体通信技術のCDMA(Code Division Multiple Access 符号分割多元接続)技術とその携帯向け技術cdmaOneを開発した会社として有名で、現在米国で採用されている3G技術CDMA2000も同社によるもの。
もしかすると一部のユーザーにはメールソフト「Eudora」の開発元としての方が有名かもしれない同社だが、3Gが主流になった現在でも携帯端末メーカーに様々なチップを提供し、3G規格の技術的なバックボーンを支えるリーディングカンパニーである。社員の6割が技術者といわれ、CDMAとWCDMAに関して3000の特許を出願・取得している。この膨大な量の特許を背景にWCDMAおよびCDMA2000で莫大な特許料・ライセンス料を稼ぎ出しており、その独占により欧州のメーカーや韓国のメーカーから訴訟を起されているほどの企業である。
ワンセグの先にある携帯TV戦略
また同社が提唱する携帯向け放送サービス「MediaFLO」は、日本でサービスが開始されている「ワンセグ放送(ISDB-T)」韓国メーカーが主体となっている「DMB」、また欧州での実用化が始まっている「DVB-H」などに対抗する携帯向け放送技術。米国ではクアルコム自身が周波数を買い上げ、2006年10月に試験放送、11月には本放送が開始される予定だ。
「Media FLO」の最大の魅力は省電力化と高画質化。画質QVGAで、フレームレート30fps、350kbpsの高画質を楽しめ、周波数利用効率は他方式に比べて3倍、通常のバッテリーで3.8時間の視聴が可能とあってそのポテンシャルでは他の方式を凌ぐ。日本独自方式のワンセグでは専用のチューナーを搭載する必要があるが「MediaFLO」は小型のRFチップとOFDM復号化チップ、そしてアンテナの三点を組み込めばよく、日本のユーザーが最も気にするTV電話端末の「大きさ」の問題もクリアできる可能性を秘める。
現在日本で実用化されているワンセグ放送は基本的に携帯を放送受信機としてチューナーを埋め込み、地上波を放送しているサービスであり、チャンネル数を細かく増やしたり、たとえば専用の映像コンテンツをオンデマンドて視聴するといったカスタマイズは難しい。このモデルでは既存のTV放送局にとっては視聴者が増えメリットにはなるかもしれないが、通信キャリアにとっては単なる機能拡張以上の付加価値を生み出しづらく、放送を介した新たなビジネス創出につながりにくい。いづれは携帯ユーザーに向けた有料課金番組やオンデマンド放送を本格的にビジネスにしていきたい携帯キャリアにとっては「ワンセグ」の次を見据えた携帯電話戦略が必要となってくる。
新しい規格を巡っての各社の鍔迫り合い
クアルコムは7月にはソフトバンクと、「Media FLO」に関する企画会社「モバイルメディア企画」を立ち上げており、こうした接点と、通信業界での松本氏の経歴が買われての採用となったようだ。クアルコムはcdmaOneの時代からauとも深い関係を持っているが、この「Media FLO」でも共同企画会社「メディアフロージャパン企画株式会社」を立ち上げておりキャリア間での鍔迫り合いが激しくなっている最中だ。またCDMA2000を推進する旗手であるクアルコムは、NTTドコモが旗手をつとめるW-CDMAとも規格争いのライバルという存在。そのクアルコムで米国上級副社長を務める人物をヘッドハンティングした今回の決断は業界内で様々な憶測を呼ぶ。ちなみに松本氏は8月31日付けでクアルコムを退職する予定。
今回のソフトバンクのヘッドハンティングは、こうした「ワンセグの先」を見据えた携帯電話戦略の布石であるともとれる。もちろん携帯電話を巡る通信規格の争いは、4Gそして「WiMAX」等のワイヤレスブロードバンドなど多岐にわたっており、松本氏はそのあらゆる分野での最前線にたってきた人物といえよう。
松本氏はクアルコム時代「(Media FLO)は1セグと競争するつもりはなく、個人的には15chのうち、7chを1セグのサイマル放送にして残りの8chを有料の、スポーツや子供向け放送にすれば良い」と携帯TV放送の将来のビジョンを語っている。こうしたある種オープンなビジョンには「一規格独占ではなく、ユーザーの利便性に応じて使い分ける」という柔軟な思想が現れている。これは氏独自のものというよりも、クアルコムという通信技術のトップランナーが培ってきたものでもある。そしてともすれば「独自規格」にこだわりがちの日本の携帯キャリアには不足している発想であるとも言える。実際、こうしたビジョンはソフトバンクの進むべき方向―そして日本の携帯市場に少なからぬ影響を与えていくであろう。
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