- 2025/04/08 掲載
アングル:新興国中銀、トランプ関税で厳しい選択 景気下支えか通貨安定か
インドやインドネシアなどの新興国の中銀はこれまで、過去数十年間に自国経済を混乱させたような市場のメルトダウンを避けたいと考え、利下げに慎重なスタンスを取ってきた。
しかし、それらの中銀の政策立案者の一部が経済のファンダメンタルズに対する懸念を強めているため、市場の安定に対する不安は優先度合いが低下しつつある。アナリストらによると、このことは新興国の中銀の一部が米連邦準備理事会(FRB)よりも積極的な利下げを進める可能性があることを意味する。
インベスコのアジア太平洋地域担当グローバル・マーケット・ストラテジスト、デビッド・チャオ氏は「このような経済の優先順位の組み換えは、中銀が金融緩和を通じて成長を補うため、今年は各国の通貨がより大きな逆風に直面する可能性があることを意味する可能性が高いと思う」と言及。このことは、アジアの中銀がFRBに先駆けて金融緩和を実施する初めての機会になる可能性があることを意味すると指摘した。
新興国は歴史的に見て、米国との政策金利の乖離に極めて脆弱で、こうした乖離が引き起こす資本逃避は政治および経済で不安定な結果をもたらしてきた。
世界の金融市場が急落しているにもかかわらずFRBのパウエル議長が先週、追加利下げを急がないことを示唆する発言をしたことが傷ついた投資家心理をさらに悪化させた。
この「様子見」のアプローチは、FRBが年内に0.25%ポイントの利下げを5回近く実施すると織り込んでいる相場とは対照的だ。
多くの新興国は過去数十年間にわたって外貨準備高の積み増し、市場監視の強化、財政規律の強化によって金融システムをより強靭にしてきた。
インド準備銀行(中銀)は2月に約5年ぶりとなる利下げを実施したが、ここ数カ月は利下げよりも流動性を高めることで銀行システムの資金不足を緩和しようとしている。
しかし、トランプ関税がその流れを変えた。インド中銀が今週の会合で少なくとも0.25%ポイントの利下げを決めるとの見方が大勢を占めているが、米国の関税引き上げによってさらに大幅な利下げが実施され、年内にさらに0.50%ポイントの利下げを実施するとの見方が強まっている。
<地域ごとの違い>
新興市場の課題は、地域ごとに大きく異なる。東南アジア最大の経済大国であるインドネシアの通貨ルピアの相場は1998年のアジア通貨危機以来の安値に近づいており、政府の支出計画に対する投資家の懸念もあって利下げの大きな制約に直面している。
今月8日に11連休明けの市場再開の際、政府はルピアを防衛するために大規模な為替介入を実施すると予想されている。
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のシニア為替アナリスト、マイケル・ワン氏は「ルピアが急激に下落すれば、たとえ長期的に利下げする方向に傾いていたとしても政策金利の据え置きがはるかに長期化する可能性が高い」との見方を示した。
輸出関税が比較的抑えられていた中南米諸国の多くの中銀は、ここ数カ月から数年にわたってFRBの動きを先取りしていた。しかし、トランプ関税のような事態が発生すれば、その余地はさらに狭まるだろう。
ブラジルでは、昨年の歳出計画が財政を悪化させるとの懸念から通貨ブラジルレアルが史上最安値を更新後、中銀はつなぎ留められていないインフレ期待を管理しようとしている。それだけに、特に困難な状況に陥る可能性がある。
ブラジル中銀は3月の前回金融政策委員会(COPOM)で、3会合連続となる1.0%ポイントの利上げを決めた。
一方、メキシコ中銀は3月の前回金融政策会合で利下げを決定し、経済が低迷している中で貿易摩擦による不確実性が高まっていると警告した。トランプ氏が今月2日に発表した一連の関税措置の対象にメキシコは含まれなかったものの、メキシコからの幅広い輸入品に25%の関税を課すと既に発表している。
資産運用会社ナインティーワンのオーレリー・マーティン氏は「経済成長が低下した場合、中銀が他のことを気にするかどうかにもよるが、利下げをするはずだ。しかし、それは為替相場に彼らが望まない影響を与えるかもしれない」とし、最も大きな影響を受けるのはアジアとメキシコになるとの見解を示した。その上で「多くの国々は利下げをしたがるのか、それとも景気後退を覚悟で利上げするのかというジレンマに再び直面する公算が大きい」と語った。
しかし、トランプ関税による新たなリスクは、多くの国々にとって以前よりもさらに不利なトレードオフを生み出している。
通貨危機を経験した韓国も、財政と金融の蛇口をより早く開くように圧力にさらされることが予想されている。だが、高度にレバレッジの効いた経済で金融緩和を進めることのリスクを痛感している。
韓国銀行(中銀)の李昌ヨン総裁は先週、トランプ関税が発表された後に「景気刺激策について議論されており、確かに必要性はあるものの、過去2、3年に達成した家計負債を巡る成果を損なわないようにする必要がある」と述べた。
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