- 2024/06/10 掲載
アングル:ザラが欧米で「ライブコマース」導入へ、中国での成功に続けるか
[ロンドン 3日 ロイター] - スペインのファッションブランド「ZARA(ザラ)」は今年、ライブ配信と販売活動を融合させたライブコマースを英国や欧州大陸、米国で導入する。中国では人気の販売方法が、まだ馴染みのない西側諸国の消費者に受け入れられるか注目される。
アナリストらは、同ブランドの売り上げは新型コロナ後の好調がひと段落して伸び悩むとみており、親会社のインディテックスは顧客を魅了する新たな方法を模索している。
同社は、中国では短編動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の姉妹サイト「抖音(ドウイン)」上で週5時間に及ぶショッピング番組を生配信している。小売販売分析会社エディテッドによると、昨年11月の放送開始以降、この配信がザラの売り上げ促進につながっているという。
ザラの広報担当者は8ー10月に予定される導入に先駆け、「配信にあまり馴染みのない欧米諸国でも普及させたいと考えている。エンターテインメントの観点から言えば、これは進化のようなものだ」と述べた。
娯楽としての買い物体験自体は新しいものではない。テレビのショッピングチャンネルで商品を紹介し、視聴者が電話で購入するといった手法は数十年続けられてきた。ただ、ソーシャルメディアや電子商取引(EC)の普及により、こうした販売形態は「配信の時代」へと突入。先頭を行く中国では、インフルエンサーたちがライブ配信で化粧品からスナック菓子まであらゆる商品を猛烈な速さで売りさばいている。
「特別感」を追求するブランドは、従来とは異なるやり方での配信を試みている。
抖音上で行われたザラの配信では、中国人モデルがザラのワンピースや靴、アクセサリーなどを試着している様子が流れ、モデルがランウェイを歩き、舞台裏でメイク施すシーンなども取り上げられた。「口紅王」と呼ばれる中国の著名美容インフルエンサー、李佳キ(Li Jiaqi)氏に代表される商品を強く売り込むライブコマースとは対照的に、会話中心のゆったりとした雰囲気だ。
上海にある1000平方メートルのスタジオで7台のカメラを切り替えながら配信される番組には、総勢70人のチームが携わっているとザラの担当者は話す。平均すると1回の配信で約80万人の視聴者を集めているという。
「ザラの配信アプローチは、中国でのブランド認知度を格段に高めた」とエディテッドのアナリスト、クリスタ・コリガン氏は指摘した。
同社の調査データによれば、ザラで今年1-3月にほとんどのサイズが売り切れた商品数は、前年同時期に比べ50%多かったという。
また、中国国内で2019年に570店あったザラの実店舗数は今年1月31日時点では192店へと減少しているにもかかわらず、ライブ配信により顧客にリーチし続けることができているという。
<親しみやすくカジュアルで楽しい>
英国、米国、そして今後発表される欧州諸国でのライブ配信についてザラは、ブランドの美学を確実に管理することができるよう、外部のソーシャルメディアプラットフォームではなく自社アプリとウェブサイト上での実施を選択した。
バルセロナを拠点としたファッション小売コンサルタント会社TFRを経営するアルフォンソ・セグラ氏は、自社サイトやアプリでの配信によって登録ユーザーの関心度を高め、データベースを最大限に生かすことが可能だと指摘する。
ザラは、ライブ配信では女性向けの限定コレクションを取り上げる予定で、名前は明かさなかったがファッション業界で「非常に有名な」人物2人が司会を務めるとしている。
「親しみやすくカジュアルで楽しい」経験を目指したライブ配信は、抖音の番組より短い45分から1時間程度で予定されているが、これまでと同様、視聴者はリアルタイムで質問やコメント、絵文字を送り、反応を共有することが可能だ。
「中国で成功した手法が欧州西部や英国国内でも通用するとは限らない」とJPモルガンのアナリスト、ジョージーナ・ヨナハン氏は言う。ただ、インディテックスのライブコマースへの投資は、先陣を切って新たな戦略に乗り出す同社の勢いや可能性を裏付ける一例だとも付け加えた。
「ザラは10年前には、オンラインビジネスの分野で遅れている企業だと多くの人に指摘されていた。だが今や、英国でいち早く新たな事業を試している」
ティックトックによれば、英オンライン衣料小売りASOSや、仏化粧品大手ロレアル、独スポーツ用品大手プーマが英国内でここ数カ月の間にECサービス「TikTokショップ」に参入した。中国電子商取引大手アリババの通販サイト「アリエクスプレス」は3月、オリビア・アトウッド氏らインフルエンサーを起用した「イット・ガールズ」という生配信番組を英国で開始した。
ASOSはTikTokショップの開設後30分以内に最初の注文を受けたとし、同媒体経由で商品を購入する人の57%が新規顧客だと明かした。
マドリードを拠点とするカルメン・ミューリーさんは2016年にアリエクスプレス上で中国初となる配信番組の司会を務め、現在は自身の会社パラゴン・ソーシャル・コマースを通じてライブショッピングのノウハウを提供している。
「ここヨーロッパでは、強く押し売りされることは嫌煙されている。もちろん、ライブコマースの最終的な目標は商品を売ることだが、消費者は商品を買わないといけないと思わされたくないのだ」とミューリーさんは分析する。
「消費者が通常は店舗で見つけられない商品を提供するのはいいアイデアだ。イベントには特別感がなくてはならない。それがなければ、顧客にとって参加する理由はあるだろうか」
インディテックスは新規事業への投資規模については明言を避けたが、約110億ユーロ(約1兆8612億円)の手元資金を抱える同社では、成功が保証されていなくても新たな販路を試す体力やセーフティーネットが備わっているといえるだろう。
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