- 2024/03/25 掲載
焦点:ユーロ圏国債、日銀利上げでも日本勢の本格撤退は杞憂か
[アムステルダム 22日 ロイター] - 日銀のマイナス金利解除を受け、日本の投資家はついに自国に資金を戻しても見返りが得られるようになりつつある。これにより日本勢の保有が多いユーロ圏国債から資金が本格的に流出し、同市場を動揺させる恐れがあるとみられていた。しかし、欧州中央銀行(ECB)が今後利下げに動くのに伴って、実際には日本勢のユーロ圏国債需要が押し上げられてもおかしくない。
日本の投資家は国内の超低金利下で海外の債券に資金を振り向け、米国債市場では国別で最大の保有者となっている。ユーロ圏国債における存在感も大きく、BofAが昨年試算したところでは、フランスとベルギー、オランダなどの国債発行残高の約1%を保有していた。特にフランス国債は人気なので現在の保有比率はもっと高そうだ。
こうした中で日銀が決めた17年ぶりの利上げは、表面的にはユーロ圏国債にとってマイナスと受け取れる。折しもユーロ圏諸国の資金調達ニーズは大きく、ECBは保有国債の縮小に舵を切ろうとしているからだ。
しかしここで留意すべき要素がある。アナリストに話を聞くと、日銀が利上げの検討さえ開始していなかった時期に、もうこの問題を巡る最悪局面は終わっているという。
BofAの見積もりに基づくと、日本の投資家は05年から積み上げたフランス、ドイツ、イタリア、オランダの国債保有高の半分を22年4月以降半分に減らしている。日興アセットマネジメントのグローバル債券責任者アンドレ・セベリノ氏は「(日銀の利上げで)日本の投資家の行動が世界の債券にどんなダメージを及ぼすか心配されている。(しかし)そのダメージの多くは既に発生済みだ」と指摘した。
<ヘッジコスト>
22年には日本の投資家が外債を購入する際のヘッジコストが跳ね上がった。つまり日銀がマイナス金利を維持したのに対して、他の主要中銀が利上げに乗り出したため、ヘッジをかけた外国債の価格がずっと割高になった。
ただこのヘッジコストは、日銀と他の中銀の政策金利差に左右されるため、今後多少割高感が薄れるのは間違いない。日銀が利上げした一方、ECBは6月から利下げを開始する見通しで、ユーロ圏の景気が米国より弱いことを踏まえると、利下げ幅も米連邦準備理事会(FRB)より大きくなる可能性があるとみられるからだ。
現在はECBの主要政策金利が4%で、日銀は0─0.1%。年末までにはそれぞれ3%前後と0.25%になると予想される。
日興アセットマネジメントのセベリノ氏は、総合的にはこの先、日本からユーロ圏を含めた外国の債券への投資環境は横ばいか改善が見込まれると述べた。
<資金環流の行方>
ノルデアのデータからは、ユーロ圏国債市場は22年にまとまった資金流出が起きた後、昨年は流出、流入とも小幅にとどまったことが分かる。一方日本の投資家は昨年、金利差が開いてヘッジコストが増大したにもかかわらず、1220億ユーロ相当の米国債を購入しており、これはヘッジなしの投資だったことがうかがえる。
米国債はその高い利回りと市場の厚みにより、ヘッジをかけない投資家にとって引き続き最も人気になるはずだ、とシティはみているが、フランス国債も欧米経済の格差拡大を背景に米国債に対する相対的な妙味が増してくるのは間違いない。
みずほのマルチ資産ストラテジスト、エブリン・ゴメスリヒティ氏は、昨年は日本の顧客の間でECBがインフレを抑制できるかどうか確信がなかったが、現在の市場はECBが主要中銀で真っ先に利下げを始めると予想していると説明。「だから恐らく、日本の投資家にとって(欧州国債の買い)検討に新たなゴーサインが出ることになる」と述べた。
ゴメスリヒティ氏によると、ヘッジをかけずに投資する傾向が強い年金基金や、市場動向次第で投資行動を変える銀行からの資金流入が期待される。
日本国債の利回りがこれからどこまで上昇し、どの程度の資金環流につながるかも今後問題になってくる。
野村證券の松沢中チーフストラテジストは、足元で1.8%の日本の30年国債利回りが2%に達すれば、生保勢はALMの観点から国外市場に資金をとどめておく必要がなくなると分析した上で、年内に利回りがこの水準をつけるとみている。
松沢氏の話では、想定される資金環流の半分は既に起きていて、今後の動きは緩やかに進む見通し。ただ一部の欧州諸国が不安視しているという感触もあるという。
同氏は「フランス財務省は当社に日本勢の資金フローを問い合わせ続けており、懸念を持っているのは間違いない」と語り、特にフランス国債入札に関する質問を受けていると明かした。
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