• 2024/03/06 掲載

焦点:トランプ氏に勢い、リスクかチャンスか 金融市場は頭の体操

ロイター

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Noriyuki Hirata

[東京 6日 ロイター] - 米大統領選挙の予備選が集中する「スーパーチューズデー」で、共和党候補としてトランプ前大統領が圧倒的な強さをみせつけた。日本の株式市場では予想通りの結果との受け止めが多いが、相場が高値圏にあるだけに市場関係者は11月の本選挙に向けて同氏の言動に一段と神経質になっている。

トランプ氏の再選を視野に、市場では「頭の体操は始まっている」と国内運用会社のファンドマネージャーは指摘する。

米政治情報サイトのリアル・クリア・ポリティクスによると、各種世論調査の平均ではトランプ氏支持が47.5%と、現職のバイデン大統領の45.5%を上回っており、予断を許さない。

2月のロイター企業調査では、トランプ氏が返り咲いた場合「リスクだと感じる」とする企業が49%を占めた。

<シナリオさまざま、トリプル安予想も>

野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、政権期間中の米金融市場はドル安、株安、債券安の「トリプル安」になると予想する。

前回のようには、ウォール街、産業界に追い風の減税政策は実施されず、逆風になり得る保護主義的な貿易政策の悪影響が強まるとの見立てだ。

一方、ニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジストは「米国株高への連れ高はあるかもしれないが、トランプ氏はドル安を志向しており円高リスクがくすぶる。日本株は割り引いて考える必要がありそうだ」とし、グローバル金融市場が必ずしも同じ反応になるとは限らないと指摘している。

前政権ではインフレ的な事象が多かった。保護貿易主義的な政策では輸入物価、移民の制限では人手不足による賃金の上昇が見込まれる上、トランプ氏のドル安の考えから「米連邦準備理事会(FRB)に金融緩和を要求し、インフレが抑えられない場合に利上げできないリスクがあるかもしれない」と野村証券の吉本元シニアエコノミストはみる。

野村総研の木内氏の試算によると、輸入品への10%の関税上乗せにより、輸入品価格上昇が国内製品に完全に転嫁されると仮定すれば国内需要デフレータを1.2%上昇させる。

物価の安定的な低下基調に水を差し、個人消費には逆風となる。中国からの輸入品に一律60%超の関税を課す考えも報じられており、中国が報復に動けば貿易戦争が加速しかねない。

トランプ氏は、政治からの独立性が建前となっているFRBの政策にも注文をつけてきた経緯がある。木内氏は「FRBが政治からの独立を強く意識しすぎることで、金融政策も経済・金融も、その振幅が拡大されかねない」と話している。

<自動車業界は時間稼ぎに、企業活動への介入懸念も>

日本企業にとってはマイナス要素ばかりではない、との読みもある。りそなアセットマネジメントの黒瀬浩一チーフ・エコノミストは、中国への圧力が強まるようなら「中国から逃避する資金は日本に流れてくる」との見方を示している。

産業面では、自動車メーカーの戦略を巡り思惑が出ている。トランプ氏は脱炭素に懐疑的な姿勢を示す。電気自動車(EV)シフトの流れが逆回転し、ガソリン車やハイブリッド車に強い日本車メーカーにとってポジティブとの見方がある。「EV戦略で遅れたことがポジティブに働くという皮肉なメリットがありそうだ」(東海東京インテリジェンス・ラボの杉浦誠司シニアアナリスト)との声が聞かれる。

同時に、世界的な脱炭素の潮流は継続すると見込まれており、杉浦氏は「EV分野でのキャッチアップのための時間稼ぎにつながる」と話している。

一方、警戒される点もある。トランプ前政権は、米国・メキシコ・カナダの3カ国の北米自由貿易協定(NAFTA)を見直し、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)を取りまとめており、さらに枠組みを変更するリスクが懸念されている。

2月のロイター調査では「メキシコへの投資時期を遅らせる(大統領選の結果をみて決める)」(輸送用機器)との声もあった。

前政権では、関税引き上げ、輸入割当といった輸入制限措置発動の権限を大統領に付与する通商拡大法232条に基づいて、鉄鋼・アルミにそれぞれ25%、10%の関税を賦課した。自動車とその部品についても調査を進めた経緯があり、前政権では実現しなかった自動車への関税が蒸し返されるおそれもある。

個別の企業活動に介入する懸念もある。直近では、日本製鉄のUSスチール買収に異議を唱え、日本のビジネス界を驚かせた。

買収対象が米国を象徴するような企業だったことや「労働組合向けのパフォーマンス」(いちよしアセットマネジメントの秋野充成取締役)との見方がある一方、線引きは判然とせず、米企業を買収する際の不透明要因としてくすぶりそうだ。米国のメリットを説明できるかが重要になるとの見方がある。

もっとも、11月の本選までにはまだ距離がある。「言動が不透明なのがトランプ氏でもあり、現実の投資行動に移すには次元の異なるリスクがある」と、ニッセイ基礎研の井出氏は話している。

(平田紀之 編集:橋本浩)

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