- 2023/09/09 掲載
アングル:EV整備士の不足、世界中で深刻化か 高コストも足かせ
[ロンドン/デトロイト/ミラノ 6日 ロイター] - 電気自動車(EV)業界は、整備士不足という深刻な問題を抱えている。資格を持つ整備士や独立系整備工場が世界的に足りず、このままでは修理代や故障保証コストが上昇し、自動車の温室効果ガス排出削減の期限内の達成をも脅かしかねない。
業界関係者によると、独立系整備工場はフランチャイズディーラーよりも料金がはるかに安く、EVを手頃に利用できるようにするために欠かせない見通しだ。
400ボルト、800ボルトといった高電圧EVを修理するための訓練や設備のコスト負担に難色を示す整備工場のオーナーは多い。EVの走行台数がまだ比較的少ないだけに、なおさらだ。
不注意だったり訓練を受けていなかったりする整備士が高電圧EVを扱えば、感電で即死する恐れもある。EVの火災は消火が難しく、発火にも慎重な対処が欠かせない。
ミラノで個人経営の修理工場を営むロベルト・ペトリッリ(60)さんは、3万ユーロ(3万2600ドル)かけてEV用設備を導入することにためらいを感じている。イタリアはEVの販売台数がまだ少なく、充電設備網も小規模だからだ。「定年まであと7年。そこまでするほどのことはないと思っている」と話す。
自動車整備業界は新型コロナウイルスのパンデミック後に人手不足に陥った。英国に拠点を置く自動車産業協会(IMI)は整備士訓練コースを設け、現在は中国全土にEVコースを設置しようといている。今後、インドと欧州全域への展開も目指す。
IMIは、2030年に化石燃料車の販売が禁止される英国では、32年までにEV整備士が2万5000人不足すると予測している。
中国に次ぐ世界第2位の自動車市場である米国は、EV販売台数の伸びで欧州に遅れをとっている。それでも労働統計局はEVの修理やEV充電器の設置を行う技術者を含め、2031年までに年間約8万人の技術者が必要になると見込んでいる。
オーストラリアでも2030年までに9000人のEV技術者が不足する可能性があると、ビクトリア州自動車商工会議所は推計している。
専門家はミラノのペトリッリさんのような整備士がEVの扱いを避けて、整備代金が上昇し、掛かる時間も伸びることを懸念している。
英中古車保証会社ワランティワイズがロイターに提供したデータによると、すでに修理保証コストは高騰しており、テスラのモデル3の期間1年の保証コストは同価格帯の化石燃料モデル平均の3倍以上となっている。
ワランティワイズの幹部によると、同社はEVの修理を高コストのフランチャイズディーラーに任さざるを得ない。独立系整備会社よりも有資格整備士の人数が多いためだ。幹部は「人々は高い修理コストを払えるのだろうか」と懸念を口にした。
<未知への不安>
ロンドンの北西部ハイウィカムにあるヒルクライム・ガレージのマネジングディレクター、マーク・ダーヴィルさんは、EVとハイブリッド車の整備を受け入れており、これらの扱いが全体の約15%を占める。
同社が計画している訓練と設備への投資2万5000ポンド(約3万1400ドル)は、EVとハイブリッド車が整備全体の35%を占めると見込まれる2024年後半には回収できる見通しだ。EVの修理は選択肢が乏しく、既に遠くから顧客が来ている。「独立系整備工場の足かせになっているのは、未知への恐れだ」と言う。
IMIによると、英国の自動車技術者の推計20%が何らかのEVの訓練を受けている。しかし、定期整備以上の作業が可能な有資格者はわずか1%だ。
自動車メーカーは整備士育成に躍起だ。米テスラは整備士候補養成のコースを米国のコミュニティカレッジで開講。国内の独立系修理工場向けに訓練も提供している。
一方、EV訓練コースの機器を製造している独ルーカス・ヌエル社のダニエル・ブラウン氏は、無資格の技術者が高電圧のEVを修理するよう圧力を受けることを心配している。「誰かが怪我をするのは時間の問題だ」と言う。
シーメンス財団は、EV充電器の設置や整備を手掛ける米技術者を養成するため3000万ドルのプログラムを発表した。技術者養成という「途方もなく差し迫った」必要性に対処するためだ。
豪ニューサウスウェールズ州自動車ディーラー協会のコリン・ジェニングス氏は、小規模な修理工場にEV訓練のために補助金を出すことが必要で、そうでなければ多くの修理工場は化石燃料車の扱いを続けると訴えている。
オーストラリアは多くの場合、小さな町と町の間が遠く離れており、EVの整備は避けて通れない課題だ。ジェニングス氏は「そんな場所でテスラが故障したら、誰が修理してくれるのか」と、EV修理体制の重要性を指摘した。
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