- 2023/05/23 掲載
アングル:ドルLIBOR代替金利、銀行財務への悪影響に懸念も
SOFRへの移行は何年も前から周知の事実で、銀行はほぼ準備を完了している。ただ、移行は米中堅行から預金が大量流出したタイミングに重なることになった。
SOFRを巡る主な懸念は、信用リスクを反映しないため金融危機やリセッションが起こって米連邦準備理事会(FRB)が利下げに向かう際、一緒に低下する傾向があることだ。政策金利のフェデラルファンド(FF)金利は、SOFRを含む無リスク金利全般の指標だ。
SOFRは、レポ市場で使われる安全な米国債を担保にした翌日物の借り入れ金利。今では米国の融資の約95%がSOFRを基準金利としている。
これに対してLIBORは無担保の銀行間取引金利であるため、信用リスクを反映。金融市場でストレスが生じた際には上昇する傾向がある。
アナリストは、SOFRが低下すれば、銀行の資金調達コストが増加している正にそのタイミングで融資のリターンが圧縮されかねないと言う。危機時には通常、投資家が銀行発行の債券に要求する利回りが上がり、銀行の資金調達コストが増加する。
そうなると銀行のバランスシートが悪化し、最悪のタイミングで実体経済への貸し出しが抑制されかねない。
スタンフォード・グラジュエート・スクール・オブ・ビジネスのファイナンス学教授、ダレル・ダフィー氏は、「危機時にはSOFRが低下し、借り手は非常に低い金利で借りることができるため、銀行はSOFRを基準金利とするリボルビングクレジット(企業が一定の与信限度額内で自由に借り入れられる制度)債権が増える」と説明。「危機の最中に企業がリボルビングクレジットを使って低金利で借り入れられるなら、銀行は調達コストが上昇する中でその融資のための資金を調達せざるを得なくなる」と述べた。
複数の地銀は2019年、米当局に書簡を送り、SOFRへの移行は融資実行に悪影響を及ぼしかねないと警鐘を鳴らした。SOFRが低下すれば借り手は与信枠から資金を引き出してそれを抱え込むことになるとの懸念だった。
ダフィー氏によると、リボルビングクレジットは銀行の企業向け融資の59%を占める。
FRBが昨年利上げを開始して以降、銀行の調達金利は上昇している。しかし銀行は、今でも最もコストの低い資金調達手段である預金の金利をゆっくりとしか引き上げてこなかった。
ニューヨーク連銀の最近の調査によると、顧客がより高い金利を求めて預金を引き揚げる中、銀行はよりコストの高い資金調達によってそれを補い、利上げ開始以来でそうした調達は8000億ドルに上っている。
<実質的な政策金利>
地銀の破綻が相次いでもSOFR金利は安定して推移し、現在も5.05%とFF金利の5%に近い水準を維持している。
リスク管理会社チャタム・ファイナンシャルのマネジングディレクター、ロブ・マングレリ氏は「SOFRはリセッションになってもFRBの政策金利外には動かないだろう。実質的な政策金利であり、FRBはSOFRを一定のレンジ内に維持する手段を持っているということだ」と説明した。
FRBが銀行に対し、融資の基準金利にSOFRを使うよう義務付けているわけではないとダフィー氏は言う。信用リスクを反映する代替金利として、Axi、AMERIBOR、BSBYの3種類がある。ただ、これらは広く利用されておらず流動性が低い。
アナリストによると、今のところ信用リスクを反映する金利とSOFRの極端なかい離は起こっていない。過去数カ月間に銀行セクターが混乱に見舞われたことで、SOFRが他の金利に比べて低下してもおかしくなかったが、実際には両者のスプレッドは縮小している。
フィッチ・レーティングス(ロンドン)の金融機関調査責任者、モンスール・フセイン氏は「結局のところ、銀行は新たな金利への移行準備をしっかり行ってきた。移行はほぼ終わっており、SOFRの金利は政策金利と一緒に上昇してきた」と語った。
(Gertrude Chavez-Dreyfuss記者)
関連コンテンツ
関連コンテンツ
PR
PR
PR