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IT人材の流動性が高まっている。情報処理推進機構(IPA)がこのほど公表した「デジタル時代のスキル変革等に関する調査(2021年度)全体報告書」によると、IT企業の2割弱、ユーザー企業の1割弱のIT技術者が転職を経験していることがわかった。ユーザー企業のDX(デジタル変革)化の取り組みスピードがIT人材の流動化にも影響しているのだろう。ここでは、この報告書を読み解き、IT人材流動化の実態と企業の取り組みを整理する。
IT人材の「不足」は20年間解消されず「流動化」は増加傾向
IPAの調査によると、IT人材不足はこの20年間、一向に解消されていない。「大幅に不足」との回答は、ユーザー企業(事業会社)が人材の量で42.1%、質で42.6%と、IT企業(量30.2%、質27.5%)を大きく上回っている。
2011年度の「大幅に不足」は、ユーザー企業が量16.5%、質28.5%、IT企業が量9.1%、質25.9%だったので、ユーザー企業もIT企業もこの10年で量的な不足感が大きく増したことになる。特にDXの成果がない企業のIT人材不足が顕著だ。
調査にあたったIPA 社会基盤センターの人材プラットフォーム部は「IT企業の『大幅に不足』が2020年度に比べて増加傾向にある」と、ユーザー企業のDX化を支援するIT人材不足を問題視する。IDCジャパンのDX動向調査(2021年11月)でも、DX推進上の課題に国内企業の42%が「必要なテクノロジーを持った人材の不足」を挙げており、世界の22%超と大きな開きがある。
その一方で、IT人材の転職は増加傾向にある。特にIT企業からの離職が増えており、「ここ1年間でのIT人材の離職状況」は「大幅に増えた」と「やや増えた」の合計が30%弱にもなる。経済産業省が2018年9月に公表したDXレポートで、IT人材の7割がIT業界に在籍することをDX化の課題の1つとし、ユーザー企業への転職を促していたが、レポートが示唆した通りの結果となった。
DXレポートは、IT企業に請負ビジネスからの脱却と、IT人材の給与を今後5年間のうちに倍の年収1200万円にすることも提案した。それから3年半が経過し、伝統的なビジネスモデルに固執するIT企業からデジタルを駆使するビジネスの創出に取り組むユーザー企業に、IT人材がシフトしていくのは自然な流れに思える。
また、働き方の自由度が人材の流動を加速させたこともあるだろう。事実、DXを積極的に推進する有力なユーザー企業のCIOやデジタル推進責任者に、ITベンダーや大手IT企業の出身者が就くケースが目立ち始めている。
IT企業、ユーザー企業、スタートアップ間の人材移動の実態
IPAの調査によると、直近の2年間に転職した従業員は、IT企業が17%で、その半数がユーザー企業に転職している。興味深いのは、ユーザー企業からの転職の3分の1弱がIT企業やスタートアップへ移っていることだ。もちろん、IT企業から同業やスタートアップへの転職も増加傾向にある。
転職に対する意識も変化している。「より良い条件の仕事を求めて、積極的に行いたい」との回答が、2021年は2020年の倍近くに増えている。特に自ら先端技術スキルの習得を考える「自発転換」と呼ぶIT人材の転職が、直近2年で4割超にも達する。
一方、企業からの指示で先端技術スキルを習得していく「受動転換」は17.8%と、自発転換に比べて少ない。先端領域に転換したい「転換志向」や転換したくない「固定志向」はさらに低い10%超だ。したがって、企業にとっては自発転換への対策が最優先課題になるだろう。
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