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  • 2021/02/16 掲載

野中 郁次郎氏に聞く経営戦略、なぜトヨタは今になって社員手帳を作ったのか

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「未来に向かってみんなでより良くしていく」、その目的を共有するリーダーとしての働き方ができれば、コロナ禍の危機に直面している中でも「こういう世界に向かっていこう」という動き方ができる──。経営層と従業員が一丸となって、企業が立ち向かっていく方向性を明確にする「戦略」について一橋大学 名誉教授 野中 郁次郎氏と、人工知能研究者であり企業経営や一橋大学での講師も担う松田 雄馬氏が語った。エーザイやトヨタ自動車などの事例とはどんなものなのか。

取材、執筆:星 暁雄、構成:編集部 山田 竜司、写真:大参 久人

取材、執筆:星 暁雄、構成:編集部 山田 竜司、写真:大参 久人

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野中 郁次郎 氏
一橋大学名誉教授、カリフォルニア大学バークレー校特別名誉教授、日本学士院会員。知識経営の提唱者。2002年に紫綬褒章受章。2017年、カリフォルニア大学バークレー校ハース・ビジネススクールから同大学最高賞の生涯功績賞を史上5人目として授与された。



人間をもっと理解してスクラムを組む

──今までの対話で、コロナ禍の時代にこそ「人間とは何か」を真剣に考えた経営戦略論が必要であること、そこでは共感が重要であり、一度生まれた共感は距離を越えることが見えてきました。その中でデジタルの出番はどういうところでしょうか。

松田 雄馬氏(以下、松田氏)野中先生の著書「ワイズカンパニー」と対峙しながら話したいと思います。

 これからのビジネスマン、エンジニアも含めて今必要なのは2つ、AI(人工知能)と脳科学です。AIというとどうしてもデジタルに寄ってしまう。それに対して「ワイズカンパニー」でも脳科学における知識実践に大きなページ数を割いていますね。人間について理解しよう、人間の脳について理解しようとすることが、組織作りの土台でもあり、また技術を使って「何をするか」への答を見つけることでもあると思うのです。

 そして先生が本で書かれていることとして、「われわれが実際の実践知を見たのは、ほとんどの場合、日本においてである」。日本企業は、スクラム(注1)を組んで、無から有を作り出すことをやってきおり、それが得意であると。

注1:ジェフ・サザーランドが提唱したソフトウェア開発プロセス。チームで目的を共有する、全員が立って発言する会議を行うなど、具体的な行動規範を備える。ここではスクラムの考え方を取り入れた経営戦略を指す。

 JAL、エーザイ、ウォルマート、いろいろな事例がありますが、注目したいのは「バーチャルな場の創出」です。賢人たちがネットワークの中で議論して問題解決に動く。これはコロナ禍の時代にも応用できる考え方です。

 DX(デジタルトランスフォーメーション)の本来の狙いが“good life”であったというにもつながってきます。より良い生き方を考えると、自分だけが得をしても、より良い生き方にならない。

 未来に向かってみんなでより良くしていく、その目的を共有するワイズリーダーとしての働き方ができれば、コロナ禍の危機に直面している中でも、やるべきことはこれだ、一緒に作っていこう、こういう世界に向かっていこうという動き方ができるはずなんです。

野中 郁次郎氏:(以下、野中氏)そうですね。まさにそうだと思います。

松田氏:コロナ禍で三密を避ける状況は、ある意味で(人間中心のより良い生き方の)敵なんですけど、そういう逆境の中でこそ、立ち向かっていく方向性を明確にできるんじゃないかなと思うんです。

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松田 雄馬 氏
1982年生まれ、大阪出身。博士(工学)。京都大学大学院修了。NEC中央研究所員としてのMITメディアラボ・ハチソン香港・東京大学との共同研究を経て、東北大学とのブレインウェア(脳型コンピュータ)に関する共同研究プロジェクトにおける基礎研究・社会実装で博士号取得。独立して合同会社アイキュベータを設立、現在、共同代表。一橋大学大学院非常勤講師。AI/IoTを中心に研究開発と情報発信を行う。

プロットとスクリプトで戦略を「物語る」

野中氏:「未来に向かってみんなでより良くしていく、その目的を共有する」のは、まさに「物語り」なんですけど、我々もコロナ禍で戦略論を試されているのです。

 戦略論の本質は「生きる」ことにある。ある意味で経済学ベースの戦略論を倒さなきゃいかん(笑)のです。マイケル・ポーターの分析的モデルでは、まず市場の行動分析をして、パフォーマンスを見て、インディケーター(指標)を作って、ファイブフォース分析(注2)まで緻密にやって、どこまでも分析です。そこには、人間の生き方は出てこない。

注2:マイケル・ポーターが提唱した分析フレームワーク。業界・市場の競争要因を5種類に分類・整理する。

 いかに市場メカニズムにあった数値化された戦略を描くかしか見ていないのです。行動経済学的に人間の非合理性の中にさらに合理性を見つけるというんだから、疲れちゃいますよね(笑)。我々の持っている人間の生き方それ自身が戦略なんだと。それを明示化するために物語の本質を問わないといけない。

 1つは筋書き、プロットです。わくわくする筋書き、アドベンチャー(冒険)劇のようなものですね。「がーっと行こうぜ、苦労するぜ、でも乗り越えようぜ」みたいな。

 もうひとつはスクリプト(台本)で、コンテクスト(文脈)ごとに「じゃあこういう状況ではどういう行動を取ったら良いか」という判断のよりどころになるような行動規範です。これがプロットに対するスクリプトですね。これはまさに「肚に落ちる」、行動につながるようなレトリックで表現しなきゃいけない。

 今、非常に不確実な状況の下で、わくわくする生き方を語ると同時に、じゃあ具体的にどういうコンテクストでどうするかという個別具体のアクション、それが実践されないとSECIモデルが回らないですよね。それはなんだというと、「スクリプト」です。

【次ページ】資本主義という戦略、プロテスタントの倫理というスクリプト

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