- 会員限定
- 2017/06/21 掲載
「インバウンドマーケティング」の基本、従来型アウトバウンド手法と何が違うのか
インバウンドマーケティングとはどんな手法か
今、広告主の都合やタイミングで押し付けるアウトバウンドなアプローチではなく、人々のジャマにならない新たなマーケティング手法が注目されている。それが、インバウンドマーケティングだ。インバウンドマーケティングとは、eBookやブログ、ホワイトペーパー、ニュースリリース、動画といったWebのコンテンツを使い、検索エンジンの結果に上位表示されるようにしたり、SNSでシェアされるようにしたりすることで見込客に商品(サービス)に対する興味を持ってもらうマーケティング手法だ。
なぜ今、こうしたマーケティング手法が重要なのか。理由は非常にシンプルで、従来のアウトバウンド手法が機能しなくなっているからだ。
従来のアウトバウンド手法とは、かんたんに言えば、新聞にせよテレビにせよ、見込客をこちらから「追いかける」ものだ。新聞を開けば折込広告のチラシ、テレビを見ていればCMが流れる。街中にはさまざまな広告があふれ、街を歩いていればチラシやティッシュが配られる。家や職場にも勧誘の電話がかかってくる。
これはオフラインだけの話ではない。デジタルの世界でも、無料でユーザーを集め、PV数を元に広告枠を販売する「広告モデル」をとっているWebサービスは多い。
従来型のアウトバウンド手法から脱却すべき理由
インバウンドマーケティング統合管理ツール「HubSpot」を提供するHubSpot Japanのインバウンドマーケティングスペシャリスト藤田 咲 氏は、こうした状況下での顧客心理を次のように分析する。「広告の対象となる消費者の立場で考えてみると、仕事中に営業電話を受けたらどう思うだろうか。しかも、興味のない商品、サービスの売り込みをされたら? Webメディアで記事を読もうとクリックしたら、いきなり関係のない広告が全面表示されたら? 自分の時間、しようとしている何らかの行為をジャマされたら、好ましくは思わないだろう」
ここで問題なのは、企業側が好きな場所、好きなタイミングで、好きなようにマーケティング広告を行っていることだ。ユーザー側の都合は考慮すべき要件になっていない。こうした従来型のアウトバウンドな手法がなぜ機能しなくなったかは明白で、実際にWebサービスの広告をブロックするツールも現れている。
また、PC、スマホ、タブレットといったスマートデバイスの普及によって、昨今の消費者の購買行動にも変化がある。何かをしたい、変えたいと思ったとき、商品(サービス)購入時の口コミ情報の収集であったり、アイデア形成のヒントを探したり、ネット上の情報に自分でアクセスできる。広告を待って商品購入を検討するといったケースが少なくなっているのだ。
こうした人々の行動に合わせて、人々の生活をジャマしない形で広告マーケティングをしなければならないのである。
コンテンツマーケティングとの違いとは
インバウンドマーケティングが注目されているのにはもう1つ理由がある。それは「確度の高いユーザーの取り込み(育成)で、効率的かつ効果的に成果が得られるため」である。従来のアウトバウンド手法では、広告予算が潤沢な企業は大きな広告枠を購入できるので、大きなパイに向けて大々的な広告を打つことで顧客を獲得する。しかし、これは広告予算が少ない企業にはできないアプローチだ。
対するインバウンドマーケティングは、中小規模の企業でも十分に効果を得ることができるのだ。なぜそれが可能なのか。インバウンドマーケティングを実現するためには、ブログをはじめとする「コンテンツ」が重要な要素だ。この段階ではいわゆるコンテンツマーケティングと同様、いかに訪問客を増やすか、オーガニック検索で上位に表示されるかなどが鍵となる。
コンテンツマーケティングと違うのは、インバウンドマーケティングはコンテンツを見つけて自社サイトに来てもらうことだけが目的ではないことだ。つまりコンテンツで集客したユーザーを、実際に特定の商品(サービス)の顧客に育てるのだ。ユーザーを惹きつけて育成し、最終的に顧客になってもらう。ここまでのプロセス(サイクル)が、インバウンドマーケティングだ。このサイクルを回すのに、従来のような大規模な予算は必要ないため、中小規模の企業でも実践できるというわけである。
インバウンドマーケティングの実践手順
では、その具体的なプロセス(手順)を見ていこう。HubSpotが用いるインバウンドマーケティングは、図のとおり「訪問客を惹きつける」「訪問客を見込客へ転換する」「見込客を顧客化する」という3つのファネルに分かれる。トップファネルは訪問者を受け付ける段階。ブログなどのコンテンツマーケティングを使って、ブランド認知度を高めながら、Webサイトに自然な形でトラフィックを持ってくる。
ここで重要なのは、実際にターゲットとする人がどういうキーワードでサーチするかを考えることだ。なぜなら、オーガニックな検索で見つけてもらう必要があるからだ。そのためには、ブログやコンテンツ作成もそうだが、誰のどんなタイミングに向けたコンテンツなのかということが重要になる。
そこで、インバウンドマーケティングの導入後、まずペルソナの設定を行う。誰に向けてコンテンツを発信していくのか、性別や年齢といった基本情報はもちろん、どういう仕事に就いているのか、仕事上での目標は何か、悩みは何か、課題は何か、といったところも細かく設定し、サイコグラフィックスと呼ばれる消費者の心理的側面まで掘り下げていく。
ペルソナの設定ができたら、次に、そのペルソナに合わせてバイヤーズジャーニー(カスタマージャーニー)を組み立てていく。いち消費者が何かを購入、あるいはサービスを契約するまでに歩む道を旅に見立てるのだ。HubSpotでは、大きく「認知」「検討」「決定」の3つのステージに分けている。
認知は、まだピントがあっていない状態。自分に何が必要なのかわかっていない。たとえば、痩せたいと思っているが、具体的に何をしたらいいかわからないという状態。次は検討ステージ、具体的に自分の問題が何かを明らかにし、それを解決するためにどういったソリューションがあるのか、というところを考え始める段階だ。
先ほどの例でいえば、ダイエットのためにジムに行こうと思った人は、24時間オープンのジム、逆にエステに行こうと思う人は「渋谷 エステ」と具体的なリサーチをし始める。そして、決定のステージでは、購入の意思は生じているのでジムやエステの名前で具体的に調べ始める。
藤田氏は「多くの企業が検討、決定ステージにいるユーザーに対してキーワード対策は行っているが、認知ステージにいる人を取りこぼすケースが多い」と説明する。
つまり、HubSpotではまだ認知ステージにいるユーザーに対し、その人が必要とするテーマでコンテンツを提供することでお客様を惹きつける。もちろん、確度が低い場合もあるが、これから購入を検討するかもしれない(顧客になるかもしれない)人たちに早い段階でアプローチをしていくことが可能になる。
ペルソナとカスタマージャーニーを設定しているので、どういうコンテンツをどういうタイミングで提供すればいいのか、どのチャンネルで提供すればいいかは明らかになっている。重要なのは、消費者には情報収集能力があり、主導権を握っているのは消費者だということ。消費者に主導権を与えて、コンテンツを作り、発信していくことで消費者の選択を促していく。これがインバウンドのアプローチだ。
【次ページ】トラフィックを見込客に転換する手順
関連コンテンツ
PR
PR
PR