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新幹線、空港など、日本の公共交通機関における清掃クオリティに注目が集まっている。実はそのブームの始まりは高速道路のサービスエリア(以下、SA)、パーキングエリア(以下、PA)のトイレだった。 当時、関東・甲信地区における有料道路の維持修繕業務を担う中日本ハイウェイ・メンテナンス中央(以下、メンテ中央)代表取締役社長だった黒田 孝次氏は、トイレから始める経営改革と業務改善を展開し、ビジネス改革を成功させた。黒田氏が行った「カイゼン」の中身とは。
ディズニーに触発された「きれいなトイレ」
関東・甲信地区における有料道路の維持修繕業務を担うメンテ中央。同社の事業内容は主に、緊急作業(交通事故復旧・清掃・災害復旧)、雪氷作業(除雪)、植栽作業、交通規制作業、清掃作業の5つだ。
現在日本高速道路インターナショナル代表取締役社長を務める黒田氏は、親会社のNEXCO中日本(当時は中日本高速道路)の情報システム部長を経て、2007年にメンテ中央の代表取締役社長に就任した。
就任し、さっそく管区を視察しに回った。しかし、そこで目にしたのは決してきれいとはいえないSA・PAのトイレだった。
「新米社長で何も知らないから、怒りに怒りました。メンテナンス会社でありながら一体何をやっているのかと。詳しく聞いてみるといろいろ理由がありました」(黒田氏)
組織構造に問題があった。メンテ中央はいわば管理会社で、社員は数十名しか存在しない。清掃業務など人手のかかる業務は複数の協力会社に委託し、よくも悪くも丸投げ状態だった。またSA・PAはメンテナンスに関してテナント担当区域と、同社担当区域が明確に分かれており、同社には手が出せない部分が存在した。
同氏は経営戦略の中心に清掃、特にトイレ清掃を置くことにした。手をかけることで一番利益向上が見込める分野だと見込んだからだ。
トイレがきれいな空間になる→好感度がアップする→顧客が増えてSA・PAにお金を落としてくれる→親会社の財布が潤う→メンテ中央にも予算が回る、というざっくりとした皮算用だったが、同氏にはトイレのきれいさと高速道路に対する評価は相関関係があるという確信があった。
また、就任と前後して視察した管区内甲府事業所の美しいトイレや、東京ディズニーリゾートで働くカストーディアルキャスト(清掃スタッフ)のエンターテイナーぶりにも触発された。「民営化されて何が変わった? トイレがきれいになったといわれたい」「隠す清掃から魅せる清掃への一大転換」を目標に掲げ、業務変革に着手した。
「KSN」戦略とは?
まずは清掃の現場を知ることから始めようと、メンテ中央の社員自らがトイレ清掃を経験した。さらに、協力会社の清掃スタッフを「研修」と称して一堂に集め、その声を直接聞いた。そこで判明したのは、いわれのない世間からの偏見、施設に関して苦情を受けても自らどうすることもできない無力感、そして『3K』を地で行くきつい労働だった。
黒田氏は、管区内の清掃スタッフの前で2つのことを宣言した。1つは、「65歳で定年退職したら自分もこの仕事に志願する」こと。当時黒田氏は55歳だったが65歳になってもできると思える仕事にするため、現状の清掃業務に大きくメスを入れることにした。そしてもう1つは、「トイレや施設のハードウェア関連の苦情にただちに対応する」ことだ。NEXCO中日本─メンテ中央─協力会社という組織の三重構造は変えられないものの、黒田氏は「金はないが知恵はある」を合言葉に、きれい(K)・清潔(S)・臭わない(N)トイレを目指すKSN戦略に着手した。
KSN戦略1. 問題解決にITを活用する
まず対応したのは苦情だ。苦情に迅速に対応するために、緊急報告支援システム「ERSS」を導入した。
これは保守点検を担当するグループ会社 中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京(以下、中日本エンジニアリング東京)が開発したもの。現場スタッフが気づいた現地状況を写真にとってこのシステムにアップすれば、メンテ中央、中日本エンジニアリング東京でただちに問題を共有でき、点検修理状況もシステム上で把握できる。
これによって、「不具合発見」→「写真撮影」→「GPSによる場所の特定」→「ERSS発信」→「中日本エンジニアリング東京による確認」→「中日本エンジニアリング東京による点検修理」→「保全・サービスセンターの確認・支払い」の流れの即日対応を目指した。これまで紙書類のやりとりで修理完了までに数か月要していたのに比べ、業務が劇的に改善された。
【次ページ】中日本から全国展開されるKSN戦略
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