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先ごろオープンストリームの主催により開催された「Biz/Browser Re:Style Day 2013」。そのキーノートセッションに登壇した元ダイヤモンド社の岩佐 豊氏は、「今後10年、生き残る会社の条件」をテーマに講演を行った。同氏は「10年、20年の単位で日本を取り巻く経営の前提がどう変化していくのか、それを知ることこそ企業が生き残れる条件だ」と断言する。そして社会が勝ち組と負け組に2極分化する中で、勝ち組に入るための3つの条件を示した。
先進国は2回の繁栄期を経て、やがて老大国へと推移していく
岩佐氏は以前、元マイクロソフトの社長だった成毛眞氏と対談したときに、30秒で意見が一致したことがあるという。「それは“ITが強者の武器である”ということ。弱い企業がITで強くなることはありません。強い会社がより強くなるのがIT。極端に言うとインターネットは独裁者を最後につくる仕組みです」。
では強い会社とは何か。これから10年経っても生き残れる会社の条件とは何であろうか? 岩佐氏は「10年単位、20年単位で日本を取り巻く経営の前提がどのように変化していくのか、それを知ることこそ企業が生き残れる条件だ」と断言する。日本を取り巻く状況は、海外から俯瞰するとよく分かる。巨額資金を運用する投資家のモノの見かたは重要だ。彼らは、いつ、どこで、何に、どのくらい資金を運用すればよいのか、明確な尺度を持っているからだ。「彼らは、投資国の“経済温度”を常に見極めて株式を運用しています。当然、温度が低いときは株式を投資することはありません」。
では株から見た経済の沸点はいつ頃だったのだろうか? 日本は典型的な先進工業国だ。しかし先進工業国の辿る道のりはどの国も似ており、最後には老大国へと推移していく。岩佐氏は「日本経済は1970年から1989年ぐらいまで温度が上がり、第1回目の繁栄期が20年ほど続きました。その後“失われた10年”の不況期に入りましたが、また2000年ぐらいから温度が上がり始めています。2015年ぐらいまでが第2回目の経済的な繁栄期になると思います。異論はあるかもしれませんが、いまは温度が比較的高い時代だと思います。ですから海外投資家は、あと1年ぐらいは株を買い越して、その後2015年の少し手前までに株を売り払うでしょう」と予測する。
同様に、経営の観点から日本経済の流れを見ると“資本の成長”が参考になるという。日本が先進工業国の仲間入りをする前は、いわゆる“商業資本の時代”であった。この時代は資本の回収が早い。「例えればコロンブスの船のようなもの。資金を集めて船を帆出し、2~3年かけて大陸から胡椒を持ち帰って山分けして売れば収益を得られた時代です」。
つまり商業資本の時代は、3年ぐらいの短いスパンで収益を回収することが可能だった。いまも開発途上国のほとんどは商業資本の時代から抜けきれない。低賃金で商品をつくり、低コストで輸出し、資本を貯めていく。その商業資本を工業資本に転化し、先進工業国に仲間入りできれば、1回目の繁栄期がやってくる。日本はこの時期にエレクトロニクスと自動車分野で品質という世界標準をつくり、一気に世界屈指の繁栄期を謳歌することができた。
その後、日本は不況に陥ったが、やがて2回目の繁栄期が訪れた。今度は工業資本ではなく、いまのような金融資本が大きく伸びる時代になった。「その2つの資本の成長期が終わると、やがてどの先進国も何の刺激のない老大国に移行していきます。残念ながら先進国の繁栄期は2回で終わります。したがって数年後の日本経済の将来は、たぶん苦しい時代に入っていくものと思われます」。
経営の主役交代と、激減する中流層。2極分化の時代に突入
どうやら先進工業国が老大国に移っていくことは避けられそうにもないようだ。では2回の繁栄期を終えたとき、経営に何が起きるのだろうか? 岩佐氏は「一番分かりやすいことは、繁栄期に主役が交代するということです。たとえば米国の小売業は、百貨店からディスカウンタへと大きく主役が移り変わりました。それは日本も同様です。失われた10年で百貨店はバタバタつぶれ、いまはユニクロや、しまむらといったディスカウンタが台頭しています」と説明する。主役が代わることは、すなわち経営と経済の前提が変わるということだ。そして2回の繁栄期を経て、企業経営や社会を根幹から揺さぶる最も重要な出来事は「所得の中流層が減る時代になったこと。これは劇的な変化で、もうすでに起きていることです」。
岩佐氏は、この出来事を裏付けるために、米国の経済成長率と平均所得の関係を引き合いにした。経済成長率よりも平均所得の伸びが高い年が続いたのは第1回目の繁栄期だ。第2回目の繁栄期は、たとえ企業収益が上がっても、個人の平均所得は物価上昇率並しか伸びなかった。この現象は何を意味するのか? それは中流層が下流層へ落ちるということだ。「日本では1970年から1980年代にかけて中流層という一番よい顧客が増えました。現在300兆円の個人消費がありますが、中流層が減っており、消費も伸び悩んでいます。神様が冷たいのは、全員が伸び悩むのではないという点です。裕福層は1.5倍に増えると言われており、アベノミクスでも裕福層がさらに儲ける時代になっています」。
一番よい中流層が減る現象は、すなわち「2極分化」の時代が訪れているということだ。実際に、ここ2~3年の間に年収が200万円未満の層が増えてしまっている。そこで主役を交代したディスカウンタは、こういったマーケットを狙っている。かつての繁栄期であれば、企業はターゲット層を考えなくても売上を伸ばせた。しかし、これからは違う。中流層が消失し、上流層と下流層が増えていく。そのどちらかの層をターゲットにするかで戦略も変わってくる。たとえば金融系の企業はいち早く上流層を取り込んでいるという。
「これからの時代は狙う層を決めて、そのマーケットに対応した企業につくり直すことが急務です。上流層は我ままです。しかし、すべてに対応する代わりに一回の利益を厚くとれるビジネスになります。増えていく下流層を狙う場合は機能と価格が勝負。1回の利益率は下がりますが、回転率で小まめに稼ぐ、製造から販売まで一貫することで利益を確保するなど、いろいろな方法があると思います」
一方、減っていく中流層のマーケットで勝ち抜くならば、他とは徹底的に違う経営で戦う必要がある。岩佐氏は「人と同じことをやらず、“業界の変わり者”というところまで会社を持っていかないと勝てないでしょう。きれいな表現ではありませんが、“みんな駄目でも自分だけは勝つ”という経営をしないと生き残れません。最悪なのは、このマーケットを漠然と狙ったまま、以前と同じ経営を続けることです」と手厳しい。
ただし、どのターゲットを狙うのが良いという正解はない。狙う顧客に対して企業をつくり直すことが重要だ。中流層が減って落ち込んだ企業は、総合商社、総合建設業、総合電機など、いずれも「総合」と名のつくもの。中流層が厚く、ターゲットが広いときは総合でも成り立つが、いまのように間口が狭くなると途端に負けパターンに陥ってしまうのだ。「たとえば総合電機メーカーの東芝や三菱電機は、総合という冠を早々に外しました。これからの10年は、深掘り、特化、専門、オンリーワン、隙間を狙う、というキーワードが重要になります。しかし辛いのは、中流層の減少が今後もずっと続くこと。再び中流層が増える時代はもう来ないという前提で、日本は老大国に退化していくと思います」。
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