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  • 2013/06/14 掲載

ASEAN市場解説:国別アンケートで見えてきた巨大消費者市場で採るべき2つの戦法

主要5か国2400名の消費者調査

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生産拠点としてだけでなく、成長する消費市場としても現在大きな注目を集めているASEAN(アセアン)。今や総GDP規模は中国に次ぐまでに拡大したと言われている。しかし、国ごとにその特徴を見た場合、政治体制や民族構成、宗教、言語、人口規模や経済水準に至るまで、さまざまな点で数多くの違いがある。こうしたASEAN諸国での事業展開を考えた時、日本企業はどのような戦い方をすればいいのだろうか。野村総合研究所では、タイ、マレーシア、インドネシア、ベトナム、ミャンマーの主要5か国において、4か月にわたって2400名の消費者に調査を実施。その結果とともに巨大消費者市場攻略の糸口について野村総合研究所の新美佑氏と倉林貴之氏が解説した。

国ごとの差異が大きいASEAN市場をどう攻めるのか

 ASEAN加盟国10か国のうち、マレーシア/タイ/インドネシア/ベトナム/ミャンマーの5か国において消費者アンケートを実施した野村総合研究所(以下、NRI)によれば、この5か国にシンガポールとフィリピンを加えたASEAN 7か国の名目GDPの合計は、2011年実績で2兆1390億ドル、2020年には5兆2300億ドルの規模になると予想されるという。これは新興国の中で、2011年実績の名目GDPが7兆2980億ドルの中国に次ぐ市場規模だ。


 一方でASEAN諸国は、人口や一人当たりのGDPだけでなく、民族構成や宗教、政治体制、言語などの文化的側面でも多くの違いがある。コンサルティング事業本部 消費サービス・ヘルスケアコンサルティング部 主任コンサルタントの新美佑氏はこれを“モザイク市場”と表現する。「こうした数々の違いが、各国の食文化やファッションにおいても大きな差異となって表れている」と指摘する。

 現在日本は、上記5か国において輸入総額/輸出総額ともに中国に並ぶ位置付けを占めており、NRIがB to Cビジネスを展開する日系企業に今後展開を検討する国を聞いた別の調査でも、7割近い企業がASEANに注目していると回答しているという。

 しかし一方で、既にASEANに進出している日系企業とのディスカッションなどを通じて聞いたところでは、欧米や韓国企業の攻勢が強く、市場でプレゼンスを確立するのは容易ではないという声や、国ごとの個別性が非常に高く、特定の国でのやり方が必ずしもすぐに横展開できるわけではないという悩みが聞かれるという。

「日系企業も消費市場としてのASEANに大きなポテンシャルを感じてはいるが、ここで成功することは決して簡単なことではない。」(新美氏)


5か国別に見た消費者意識の違いと行動の特徴

 今回NRIが実施した消費者アンケートは、2012年8月から12月にかけて、5か国の主要都市における満17~59歳の収入レベルが上位50%に含まれる男女消費者4153名を対象に行われたもの。実際のアンケート結果は、マレーシアのクアラルンプール、タイのバンコク、インドネシアのジャカルタ、ベトナムのホーチミン、ミャンマーのヤンゴンという5つの各国一級都市の2398名を母体とした分析結果となっている。

 主な質問項目は、消費意識、その背景となる社会的/文化的特性、実際の消費行動という大きく3つのカテゴリから構成されており、たとえば消費意識については、消費の価値観として人の噂や評判などを重視するのか、物を買う時にどれぐらい情報収集をするのかなどを聞き、消費行動については、いわゆるマーケティングの4P(Product/Price/Place/Promotion)の観点から設問を設けている。

 それでは順番に見ていこう。

1.マレーシア:先進的な消費行動、モダンチャネル化進展

 マレーシアでは、商品の保有から利用する購入チャネルまで、5か国の中ではかなり先進的な消費行動が取られているという。

 まず商品保有/サービス利用(=Product)については、たとえば自動車世帯保有率が93.4%と5か国の中でも突出しており、液晶テレビの世帯保有率も68.7%で、ブラウン管テレビの26.8%を既に逆転している。

「この項目については5か国中、頭一つ抜けた商品普及ステージに入っているといえる。」(新美氏)

 次に価格感度(=Price)については、日本ブランドに対するプレミアム志向が非常に強いという。食品などの最寄品、冷蔵庫などの買い回り品、衣類/ファッションなどの専門品のすべてのカテゴリで、自国の商品と比べて2~3割以上、高い価格を払ってもいいと考えている人の割合は、欧米商品や韓国商品よりも日本商品に対する支持が最も高くなっている。

 また商品を購入するチャネル(=Place)については、テスコなどのハイパーマーケットが71.8%と最も高く、既にモダンチャネル化が進行しているようだ。

 商品購入時に参考にする情報源(=Promotion)については、他の4か国では認知や意思決定の過程でテレビが非常に重要なポジションを占めているが、マレーシアではたとえば食品について、新聞/雑誌の情報を購入の決め手とする人が37.2%と最も高くなっている。

「マレーシアでは他の4か国に比べて、“人より先に新しい商品やサービスを利用したり、新しい店にいく方”だと回答した人の割合が26.0%と最も高くなっている。こうした高いイノベーター度が、商品普及や購入チャネルの選び方にも影響しているのではないか。」(新美氏)

 また日本ブランドに対する高いプレミアム志向は、国策として、日本の集団主義と勤労倫理に学ぶことを提唱する“ルックイースト政策”が20年以上も続いてきたことが強く影響していると考えられる。

2.タイ:慎重な消費、食の宅配サービス活用率が突出

 タイの特徴は、貯蓄志向が高く、慎重な消費意識があるということだ。商品購入は実店舗での情報を重視する傾向が強い。

 商品保有/サービス利用については、食の宅配サービスの利用率が53.6%と突出して高く、次点のマレーシアの約19%を大きく引き離している。

「タイでは家庭で自炊する文化が少ない。特にバンコクでは共働き率が高く、食費も安いため、女性が家で料理をする慣習が他国に比べて低くなっている。」(新美氏)

 価格感度については、海外ブランドに対するプレミアム支払い意向は低い。この背景にある消費意識として、高い貯蓄志向と商品購入時に価格と品質のバランスを非常に重視することが挙げられる。具体的には、月の支出金額のうち、預金の占める割合が21.2%、価格が品質と見合っているかどうかを検討する人の割合も82.9%と共に高い水準を占めている。

「タイには相続税がなく、子や孫のために貯蓄をする文化が形成されている。高額な車や携帯電話を持っている若い人は親からの支援で買っており、住宅に関してもそういう傾向がある。」(新美氏)

 購入チャネルについては、現在コンビニの普及が急速に進んでいることが特徴で、購入時に参考にする情報源については、たとえば食品については実店舗が84.2%、ショールームが72.0%と、実店舗を非常に重視する傾向が見て取れる。

【次ページ】スマートフォン活用に焦点を当てると見えてくるもの
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