• 2009/09/29 掲載

【セミナーレポート】先物&オプション取引システムのRIA化がもたらした利用者増加とサポート負荷の低減

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Web2.0を支える技術として脚光を浴びたAjax、アドビのAir/Flex、マイクロソフトのSilverlightなどのテクノロジーを活用して開発された操作性・表現力に富んだアプリケーションをRIA(Rich Internet Application)と呼ぶ。いま、そのRIAが業務アプリケーションの世界を変えようとしている。RIA開発を得意とするクラスメソッド主催によるセミナー「RIA事例セミナー 劇的ビフォーアフター」では、RIAの具体事例として、ひまわり証券の先物&オプション取引システムが紹介された。そのビフォーとアフターについてレポートする。

RIAの市場認知度はまだ30%
業務アプリへの不満は40%

【ITアーキテクト】

クラスメソッド
営業部 マーケティンググループ
伊原稔氏


 セミナー第一部のセッション「RIA構築の基本とメリット」では、クラスメソッド 営業部 マーケティンググループ 伊原稔氏により、RIAの基本的なトピックが説明された。

 冒頭では、RIAコンソーシアムのデータを紹介。RIAを「知っている」または「聞いたことがある」という一般ユーザーは、まだ30%にすぎず、システム関係者の65%という数値に比較すると、市場での認知度はまだまだ低い実態が紹介された。

 一方で、現在の業務アプリケーションに対し、約40%のユーザーは何らかの不満を感じ、そのほとんどが操作性に対する不満であるというデータも提示。RIAが実現する「表現力・操作性・機能性に優れたシステム」への要望は年々高まっていると指摘して、業務アプリケーションにおけるRIAの可能性を強調した。

 続けて、RIA関連技術についても説明。アドビのAirとFlash/Flex、マイクロソフトのSilverlightとWPF、Ajaxなどを比較し、業務システム開発の視点から、その長所・短所を示し、あくまで主観と断った上で次のように語った。

「現在はアドビのAir/Flex、マイクロソフトのSilverlightが主要な2大テクノロジーと言えるでしょう。実現できることに大きな差はありませんが、標準コンポーネントの数や開発ノウハウの蓄積という点で、Air/Flexに若干のアドバンテージがあるという印象です。実際に、Air/Flexによる開発案件が多いのですが、最近はSilverlightやAjaxを使った開発依頼も増えています」(伊原氏)

 最後に、クラスメソッドの業務について紹介。70件以上のRIA開発実績、RIAシステム開発のコンサルティング、トレーニングなど、RIAに関わる幅広いサービスを提供していることが示されて、セッションを終了した。


従来型Webアプリケーションの課題と限界

【ITアーキテクト】

ひまわり証券
本部企画チーム
濱中郁和氏


 約10分の休憩を挟んだ第二部では、ひまわり証券 本部企画チーム 濱中郁和氏による講演「RIA化によるユーザビリティ向上とその後について」が行われた。

 ひまわり証券は、FX(外国為替証拠金)取引やCFD(差金決済)取引、日経225先物取引をいちはやく個人投資家向けにサービス提供した日本におけるデリバティブ取引のパイオニアである。

 同社が先物&オプション取引のプラットフォームとして2003年12月にサービス開始したのが「Hitsデリバティブ」というWebアプリケーションである。銘柄選択・データ入力・確認・実行といった各操作で画面が遷移する、当時としてはごくオーソドックスなWebアプリケーションであったが、ユーザーからはさまざまな意見が寄せられたと濱中氏は言う。

「注文画面で注文を出しづらい、売りと買いを間違いやすい、画面遷移が煩わしい、入力ミスがあったときの訂正方法がわかりづらいなど、さまざまな意見が寄せられました。また、オプション取引では、銘柄を売る際に必要となる証拠金を知るためのシミュレーション画面があるのですが、その仮想注文の入力が煩雑でわかりづらいとか、損益分岐点が視覚的にわかるようしてほしいといったご要望もいただいていました」(濱中氏)

 こうしたユーザーの意見に加え、ユーザー数増大にともなうシステム拡張への対応にも迫られていた同社は、システムの刷新を決断。インタフェースからデータベースにいたるまで、すべてを自社で構築・運用することにした。


旧システムの課題をすべて克服した
Flex2.0によるシステム開発に成功

 自社開発を決定した同社は、2005年末から開発環境を検討。Windowsアプリケーション、Javaアプレット、FlashPlayer 9(Flex 2.0)の3つを比較検討した結果、最終的にFlashPlayer 9(Flex 2.0)を採用するにいたる。その検討過程について、濱中氏は次のように説明する。

「Windowsアプリケーションの場合、クライアントPCがWindows 2000以降に限定される点、および.NET Frameworkのインストール等の環境設定に手間がかかり、サポートが大変になる点が問題でした。Javaアプレットは、Javaのランタイムバージョンによって動作しないケースがあり、ランタイムのインストールに手間がかかるため候補から外れました。これに対し、FlashPlayer 9(Flex 2.0)はクロスOS/クロスブラウザであること、FlashPlayerのインストールが簡単でサポートの負担が小さい点を評価して、採用することにしました。ただし、当時のFlexは開発途中のα版であったため、正式リリースまでに大幅な仕様変更があったりバグが存在したりと、かなり苦労もしました」(濱中氏)

 また、インタフェースのデザインはExcelで作成し、細かい動作等もExcelに書き込むことで、認識にズレが生じないように工夫したという。

 約1年の開発期間を経て、2006年11月、国内初となるFlex2.0による先物&オプション取引システムをリリース。売りと買いのミスを色分けして防止したり、画面遷移をなくし、同じ画面で注文まで実行できる操作性を実現したりと、従来のシステムの課題をすべて解決した。シミュレーション画面では、損益分岐点を3Dグラフで表示し、「損益分岐点が視覚的にわかるようにしてほしい」というユーザーの要望にこたえることにも成功した。

 これ以外にも、次のようなメリットがあったと濱中氏は説明した。

「RIA導入によりサーバ負荷をクライアントPCにある程度分散できるようになり、トランザクションが増えても余裕を持って対応できるようになりました。さらに、Flex 2.0の開発ノウハウを自社に蓄積できたため、その後のカスタマイズが容易になったのも大きな収穫でした」(濱中氏)

 新しい取引システムの効果を確認後、同社はチャートの開発にも着手。2008年2月には、国内初となるFlex 2.0によるチャートアプリケーションの提供を開始した。チャート上の板画面から発注できたり、リアルタイム更新されるチャート上にトレンドラインを引けたりと、ユーザーの要望を反映したシンプルで使いやすいチャートアプリケーションは、ユーザーからの評価も高く、それまで多く寄せられていた「チャートが起動できない」といった問い合わせは100%なくなったという。


利用者は3倍に増加
サポート負担も大幅に軽減

 セッション最後には、RIAの導入効果が数値として示された。先物・オプション取引システムが刷新された2006年11月のシステム利用者数を100としたとき、2009年9月現在、その数値は約3倍の300に増えているという。もちろん、RIA導入の効果だけではないだろうが、RIAの影響がかなり大きいことは想像できよう。また、RIA導入後はシステムへの問い合わせが減り、サポートの負担も大きく軽減されたという。

 セッション終了後の質疑応答では、取引システムのハードウェア仕様、Flexシステムの速度・パフォーマンスなど、かなり具体的で踏み込んだ質問が出ていたことから、RIA導入を具体的に検討している参加者が多かったようである。

 一般ユーザーへの認知度はまだ低いRIAだが、業務アプリケーションの操作性・ユーザビリティ向上への要求が高まっている中、今後、その価値に気付くユーザーが増えるのは間違いないだろう。RIAの効果が明確になってきた今、業務アプリケーションのRIA化が、予想以上のスピードで進展することを予感させたセミナーであった。

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