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エヌビディアの“価値”を決定づけた、ファン氏の「英断」
こうした成功の一方で、ファン氏は「英断」と言える決断をしています。
それが、モバイル用チップからの撤退です。2010年、グーグルがAndroidシステムでスマートフォンのモデム専用の半導体チップを必要とした際、エヌビディアは協力パートナーとなり、開発も成功、株価も上昇します。ですが、そこにはクアルコムという強力なライバルがおり、ファン氏はこの市場からの撤退を決断します。ファン氏はこう語っています。
「エヌビディアは市場を取りに行く会社ではなく、市場を作る会社だ」
(『週刊東洋経済』2024.8/10-17 p45)
エヌビディアの使命は、「普通のコンピューターが解決できない問題を解決できるようにすることであり、独創的な技術での貢献を追究すること」だと、ファン氏は断言しています。スマートフォン市場からの撤退を決めたファン氏は、一貫してこだわり続けてきたGPUにさらに注力するようになります。
「天才エンジニア」が語る、エヌビディアが覇者になれた理由
パソコンなどに搭載されるCPU(中央演算装置)が、演算面で四則計算を行い、関連するデータを一時保存、作業に時間がかかるのに対し、GPUは画像データの処理に特化しており、AIの効率的なトレーニングに効果を発揮します。エヌビディアは次々と画期的なハードを開発する一方、ソフトウェア開発環境「CUDA」の提供も続けます。
2012年、コンピューターによる画像認識精度を競う大会で、カナダのトロント大学の研究者が開発したAIが圧勝しますが、優勝者がエヌビディアのGPUとソフトウェアでAIをトレーニングしていたことからも、同社の提供するハードとソフトの優秀さが評価されています。
その後、2022年末に
OpenAIが「ChatGPT」を一般公開、生成AIブームが到来します。世界中の大手IT企業が生成AIの開発に取り組んでいますが、膨大な計算を行ううえでエヌビディアのGPUは欠くことのできない製品となっています。
「天才エンジニア」として知られアップルやテスラで独自の半導体開発に取り組み、現在はスタートアップ企業テンストレントのCEOを務めるジム・ケラー氏は、エヌビディアが時価総額世界一になれた理由は、ファン氏の「エヌビディアは市場を取りに行く会社ではなく、市場を作る会社だ」という考え方にあると指摘しています。こう話しています。
「『顧客は自分が何を欲しいのかを知らない』と言ったのはスティーブ・ジョブズだったが、ジェンスンがCUDAを導入したのはまさしく、顧客がそれを欲しがったからじゃない。GPUを使ったHPC(高速コンピューター)は伸びると彼自身が顧客より先に確信し、そのために何が必要かを見極めたからだ」
(『東洋経済オンライン』2024.3.4)
早くからGPUの未来を確信していたファン氏は、数々の苦難を乗り越えながら「CUDA」を提供し、2017年に「V100」、2020年に「A100」、2022年に「H100」、2024年に「B100」と次々と製品の性能を向上させ続け、2025年には「Blackwell」の投入も発表しています。
これほどの勢いで新製品を開発し続ければ、今でも圧倒的なシェアを誇るエヌビディアの王座が揺らぐことは当分ないのではないかというのが多くの見方です。
卒業式スピーチで語った「説得力ありすぎ」の深い言葉
とはいえ、どんな業界でも王者であり続けるのは簡単ではありません。
ジム・ケリー氏は、ファン氏が持つリーダーとしての素晴らしさを認めつつも、AIの用途は幅広く、無数のユーザーがいる以上、「そのすべてがエヌビディアやインテルが提供する半導体に満足しているわけではない」(『東洋経済オンライン』2024.3.4)と指摘しています。
たとえば、新製品が出るたびに上昇する価格について、ファン氏は「買えば買うほど(開発時間やコストを)節約できる」(『週刊東洋経済』2024.8/10-17 p42)とは言うものの、より安価な代替品を求める声があるのも事実です。
当然のように、AMDやインテルといったライバル企業は開発に懸命に取り組んでいますし、エヌビディアの大口顧客であるメタは「МTIA」を、マイクロソフトは「Azure Maia」というAI専用半導体の開発をしています。
果たしてエヌビディアの独走がいつまで続くのかは大いに関心のあるところですが、そのことも十分に承知のうえで、ファン氏は台湾大学の卒業式スピーチの最後をこう締めくくっています。
「走れ、決して歩くな!獲物を追っていたとしても、獲物にならないために逃げていたとしてもだ」
半導体市場の覇権を長く握っていたインテルを抜き去り、今や市場の中心に君臨するエヌビディアですが、かつて
ビル・ゲイツ氏が言っていたように「ライバルはガレージにいる」かもしれないのがITの世界です。急成長する市場で誰が覇者となるか、決して目を離すことができません。
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