- 2006/04/24 掲載
「CIOは業務を変革する意志を持て」出光興産 執行役員 情報システム部長 日比省吾氏
情報リーダーインタビュー
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出光興産株式会社
執行役員 情報システム部長(当時)
日比省吾
東京工業大学理工学部制御工学科卒。1969年(昭和44年)出光興産入社。2003年(平成15年)4月から執行役員情報システム部長(当時)。 愛知県出身。59歳。
エネルギー業界では、事業部門の合併・分社の動きが激しい。これまでライバルであった大企業の事業部門同士が共同で新会社を設立することも珍しくはない。こうした事業の統合では、情報システム部門が重要な役割を担うことになる。出光興産において、合併・分社化プロジェクトをはじめ基幹業務システム再構築、POS処理センター統合などの大型プロジェクトを統括するのが、情報システム部長の日比省吾氏である。こうした複数の大型プロジェクトを成功させる秘訣とは何か。そして、これからの情報リーダーに求められる資質とは何かを聞いた。
企業合併プロジェクトでは 何もかも取り入れようと しないことが重要
─企業合併・分社化プロジェクトについてお聞かせください。
【日比】 日比●最近の合併・分社化のプロジェクトとしては、三井化学が65%、出光興産が35%を出資して今年4月に設立したプライムポリマーがあります。また、現在、出光ガスアンドライフと三菱商事のLPガス部門、三菱液化ガスとの事業統合を進めています。
─企業文化や業務の違いをすり合わせるのが大変ではないでしょうか
【日比】 おっしゃる通り、企業文化が違うため、仕事の進め方もまったく違います。しかし、合併・分社では期限が決まっていますから、それに間に合わせなければなりません。両方の事業部門の言い分を全部取り入れることは不可能です。両部門の業務やシステムを公平に比較してどちらかの仕組みに合わせ、もう一方には最初のうち我慢してもらうことになります。まずは最低限の機能を備えたシステムでスタートし、あとから必要なものを追加していくという進め方です。
メンバー全員が全体の 進捗状況を 把握できる場を作る。
─複数のプロジェクトをうまく進めるためのポイントは何でしょう。
【日比】 複数のプロジェクトを走らせる場合、プロジェクトによって進行中のフェーズは異なります。あるものは基本設計の段階なのに、別のものは詳細な仕様の策定に入っているかもしれません。しかし、完全に独立しているプロジェクトというものはありませんから、1つの遅れによって全体が遅れてしまうということもありえます。そこで、全体的な状況をメンバー全員が認識するための場を作っておく必要が出てくるわけです。社内システム部門同士での技術的なすり合わせを行わなければなりませんし、利用部門とシステム部門のコミュニケーションも必要になります。プロジェクト間で共通に使うべき技術があれば、その検討も別のプロジェクトとして行うべきです。そうしないと特定のプロジェクトにだけ都合のよいものになってしまうこともありえます。社外の企業と組むのであれば、そちらとの調整も重要です。
─会議はかなり増えてしまいますね。
【日比】 毎日会議ばかりしているかのように思われてしまいますが(笑)、コミュニケーションを図らなければプロジェクトは失敗します。どんなプロジェクトでも必ず遅れが出るものですが、その際に「何とかします」と精神論を唱えても意味がありません。何が原因で遅れて、どうやってそれを取り戻すのか、皆の前で報告してはじめてお互いに納得できるのです。 もちろん会議はできる限り要領よく行います。プロジェクトごとにスケジュールのフォーマットが異なっていると全体の流れがわかりませんから、共通フォーマットを作るようにします。発表時間は各プロジェクト5分間と決め、時間があれば質疑応答を行うというようにしないと、ダラダラと長引いてしまいますね。プロジェクト内の打ち合わせにはテレビ会議も使いますが、全体調整を行う時は実際に集まって、参加者の表情を見る必要があると思います。 また、プロジェクトを走らせる際には、(プロジェクトがない)平時とは組織体制を変えないと管理がうまくいきません。例えば、弊社の情報システム部門では千葉のシステム総合研究所で技術のとりまとめを行っています。この部署の位置づけを上げる、現場のシステム開発部隊と対等に話のできる人材を配置する、そういった工夫をしないと開発部隊が言うことを聞かないでしょう。
プロジェクトチームの 上位に意思決定機関を 設置して調整を図る
─プロジェクトにおいて、人材のミスマッチに悩まされることはありますか。
【日比】 プロジェクトに参加するメンバーは一人一人に必ず個性があります。自己主張の強い人ばかりだとケンカになるし、はっきり言わない人が多いと物事が決まりません。こういうことは必ず起こります。激しく自己主張する人が一人いる場合、ほかのメンバーが黙ってしまうことも往々にしてあります。物事は決定するけど、メンバー内に不満が溜まっていく。誰かが悪いわけではないのですが、こういう状態を放っておくと不満が爆発してしまいます。 それを避けるため、意思決定の仕組みを二重構造にしておきます。プロジェクトに直接参加はしないが決定権を持つ人を集めた機関を作っておき、彼らが皆の意見を聞いた上で判断するという仕組みです。また、プロジェクト内における対人関係がうまく行かない場合、当事者間ではどうしようもありませんから、上位機関で人員の入れ替えを指示するようにします。
情報システム部門、 そしてCIOには社内業務を 変革する意志が求められる
─グローバル化について、情報システム部門としてはどう対応すべきだと考えていますか。
【日比】 多くの場合、情報システム部門の仕事の場は日本国内に限られています。 しかし、世の中全体の動きも理解しておく必要があります。 新聞やテレビでは、インドのITや中国のアウトソーシングがすごいと言われていますが、いったいどこがどうすごいのか。それを自分の目で見てくることが重要です。我々の情報システム部でも、1人の部員を東南アジアに長期派遣しています。実際の仕事は海外のシステム構築支援ですが、それ以外にも外国をいろいろ見てこいと言っています。その国の食べ物をちゃんと食べて、街で何が売られているのかを見る、もちろんそれでもほんの一部ですが。
─これからのCIOはどういう人間であるべきでしょう。
【日比】 情報システムと聞くと、まずイメージされるのがコンピュータをベースとした技術でしょう。しかし、企業内の情報システム部門では、全員が技術だけをやっていても意味がありません。企業内の情報システム部門は業務をどう変革するかを提案することに意義があります。そして、利用部門のニーズに対して、きちんとカウンターを出す。そういう変革の気持ちを持つことが重要でしょう。
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