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- 2024/05/29 掲載
まるで幻想の日本の脱炭素戦略、G7「2030年代石炭火力廃止合意」でさらに孤立
連載:「エネルギーの疑問にお答えします。」
脱石炭火力の合意で見せる日本の後ろ向きな姿勢
G7気候・エネルギー・環境相会合における最終的な脱石炭火力に関する文面は、次のようになっている。「既存の排出削減の対策されていない石炭火力を2030年代前半、あるいは気温上昇を1.5度に抑えられるのに必要なスケジュールで段階的に廃止する」
まず、環境省のサイトでは、会合があって文書をまとめた、とだけ記載されている。経産省のサイトでは、上を含む12枚もの写真が並ぶ3つの大きなテーマで議論が行われたと簡単に示しているが、閣僚声明の内容説明はなく、英語の原文をリンクだけしている(環境省もリンク)。サイトの中に「石炭火力発電」という日本語は、まったく見当たらない。
仕方がないので、閣僚声明を読んでみる。コミュニケ(communique)とは声明のことなのだなと、改めて確認した上で、この文書は実に重要な共同声明であることが理解できた。
冒頭では、世界的な3つの危機(気候変動、生物多様性の損失、汚染)を再確認した上で、今年を行動のための正念場の年と定義し、1番目に気候変動対応に言及している。
G7の取るべき具体的な取り組みがいくつか並んでいるが、(a)2030年間までの世界の再エネ3倍増、(b)世界のエネルギー効率の2倍増、そして、(c)石炭火力発電の廃止の加速、の3つが最初に来る。
再エネ3倍、効率化2倍は、昨年暮れのCOP28や国際エネルギー機関(IEA)の報告でも強調されている脱炭素の最重要ツールであり、脱石炭火力も同列の扱いとなっている。温暖化防止に対して、G7がそろって行動を起こそうという、全体的には力強い宣言といって良い。
「対策された」は魔法の言葉か、日本が頼るむなしい言い訳
しかし、経産省や環境省は、「対策されていない」の説明も含めて、一切、石炭火力に触れていない(Webサイト上の報告では)。一方で、日本の経産相が話したことにだけ、経産省はコメントしている。「多様な道筋の下でネット・ゼロという共通目標の達成、世界全体での脱炭素化、秩序あるエネルギー移行の実現等の重要性」を齋藤大臣が言及した、となっている。これを読み解くと(やや意地悪かもしれないが)、
- 多様な道筋→再エネ以外(原発、アンモニア・水素混焼含む火力発電など)の強調
- 世界全体での脱炭素化→「再エネ3倍増」は個別の国の目標ではなく世界全体で
- 秩序あるエネルギー移行→一気に再エネではなく、移行期にアンモニア混焼火力等
と、見事に、日本がこれまで主張してきたことが並んでいる。この大臣の言及を読めば、石炭火力の廃止は“飲めない要求”に映る。
もともと、対策されていない石炭火力という表現は3年前のCOP26で初めて使われた。当時、早期の脱石炭火力は厳しいとする国は日本だけでなく、unabatedという表現が生み出された。しかし、その後、最後の仲間だった米国まで石炭火力廃止のグループに“寝返って”、ついに日本はひとりぼっちになったのである。それでも自己主張する姿を、朝日新聞は社説で「孤立深める日本の独善」と厳しく批判した。 【次ページ】有効性にも欠け、現実的でもない、日本の対策
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