• 2024/12/23 掲載

トランプ再登場は「脱炭素」にとってどこまでリスクか?2025年に迎える瀬戸際

連載:「エネルギーの疑問にお答えします。」

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多くの分野で2024年の総括が報告される中、喫緊で最大の課題の1つである温暖化防止は、いくつものリスクを抱えたまま年を越そうとしている。記録的な高温に見舞われた2024年、将来の数的な目標である「気温上昇1.5℃以内」がほぼ確実に破られる見通しである。一方、再生可能エネルギーの電力が飛躍的に拡大した欧州では、風が吹かず太陽も出ない「暗い凪(なぎ)」が年末にかけて長期的に発生し、電力市場が一時的に高騰した。そして、温暖化自体を否定するトランプ政権が年明けに再登場する。2025年、世界の脱炭素化はどうなるのか。本連載の最終回として、これから迫り来るリスクと対応策について解説する。
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図1:2024年の年間の平均気温の予測

初めてプラス1.5℃越えを記録する可能性が濃厚な2024年

 図1は、主要な研究機関などによる2024年の世界の年間平均気温の予測を示している。この予測は、気候に関する科学や政策の最新動向を扱う英国のWebサイト、Carbon Briefがまとめたものである。

 温暖化防止の重要な目標である、産業革命前からの地球の気温上昇1.5℃(グラフ中央の点線)について、5つの研究機関のうち3つがこの目標を越えると予測している(中心の丸の位置)。また、平均値(1番右の黒)でも95%の確率でこの目標を突破すると見られている。

 高い確率で目標数値内に収まるとするのは、プラス1.44℃を予測するNOAA(青丸)のみである。Berkeley Earth(茶丸)は、昨年すでに1.5℃を越えており、今年の予測はプラス1.66℃に達している。後述するが、トランプ次期米国大統領が、そのNOAAの解体を明言していることは、皮肉であり、何か象徴的でもある。

 いずれにせよ、「今世紀末での気温上昇の上限」が数十年も早く崩れ去ったことは衝撃的である。ただし、それでも「まだ間に合う」とする団体や機関も少なくない。各国が年明けの2月までに提出を求められている新しいCO2削減目標(NDC)に、この危機感をどこまで反映できるかが重要な焦点となる。

トランプ再登場による脱炭素実現の2つのリスク

 平然と温暖化自体を否定する者が米国大統領に復帰することは、脱炭素にとっての脅威だろう。それは、2つの点で具体的なリスクとなる。

 まず、米国が世界第2位の温室効果ガスの排出大国であるという点である。世界最大の排出国は中国で、世界全体の3割を占めているが、米国はそれに次ぐおよそ15%の排出量を占めており、日本の3%をはるかに超えている。その国のトップがパリ協定からの脱退や前述したNOAAの解体を主張しているのであれば、温暖化防止に対するネガティブな影響は避けられないだろう。

 もう1つは、近年の米国が脱炭素の先進国であるという点である。米国では再生可能エネルギーの導入が飛躍的に拡大し、2035年には電力のカーボンニュートラル化を目指している。つまり、単なる政策の後退ではなく、脱炭素にとってプラスからマイナスへの転換になる可能性がある。

 バイデン政権が推進している米国のエネルギー転換の最大の切り札は、IRA(インフレ抑制法、Inflation Reduction Act)である。「インフレを抑える」とあるが、実際には投資に対する減税政策で、その中心は再生可能エネルギーなどの脱炭素事業である。この支援は、10年間で総額50兆円という巨額に達する。多くが補助金ではなく、減税措置であるため、太陽光発電関連や蓄電池、EVなど広範囲の事業への投資が爆発的に伸びている。

 図2は、IRAが成立した2022年の夏以降、米国国内の脱炭素関連投資がどのように増加しているかを示している。2023年は2022年実績の2.4倍となり、2024年は年の前半だけで前年に匹敵する投資額を記録している。この施策に対して、トランプ次期大統領は選挙戦で廃止を主張するなど過激な言動を行ってきた。

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図2:アイルランド共和軍(IRA)を契機とした米国国内における脱炭素関連投資の増加
(出典:GX 実行推進担当大臣資料、「わが国のグリーントランスフォーメーションの加速に向けて」2024年10月31日)

 今、世界は次期大統領が実際にIRAをどうするかに注目している。 【次ページ】トランプの政策とIRAの行方
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