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中国は他の追随を許さない世界最大の再エネ大国である。しかしその一方で、世界の二酸化炭素排出量の1/3を占める最大の温暖化ガスの排出国でもある。地球のカーボンニュートラル化は中国を抜きにして語ることはできないだろう。中国経済の先行きに漂う不透明感も含め、各種のデータを交えながら、中国と脱炭素の複雑な行方を解説する。
中国が中心の世界経済とエネルギー
各種のエネルギーのデータなどをまとめ、地球温暖化防止のロードマップを提案し続けている国際エネルギー機関(IEA)が、10月に発表した最重要な年次報告「World Energy Outlook 2023」は、まさに、中国をセンターに据えた報告書となっている。
リポート冒頭の総括では、各マスコミなどが取り上げた、「化石燃料が2030年にピーク」の項目に続いて、「中国の経済とエネルギーの動向」が単独で登場する。
トップ画像のグラフは、2012年から2022年の10年間で世界の各指標(左から、GDP、エネルギー需要、エネルギー部門の二酸化炭素排出量、再エネの導入容量)の拡大量のうち、中国が占める割合を示している。世界全体で増加したGDPの1/3、エネルギー需要の半分以上が中国である。いかに中国が、世界の経済成長とエネルギー消費をボリューム面で押し上げていたかを示している。
一方で、1番右の棒グラフが示すように、世界の再エネの導入容量のうち50%弱は中国である。中国が実は「再エネ大国」として急拡大してきたことが分かる。
再エネの世界のリーダーとしての中国
世界的なエネルギーなどの調査・コンサルティング会社であるウッド・マッケンジーが、11月末に発表した報告書によると、2023年の中国の再エネ発電(太陽光と風力発電)の導入容量は、空前の230GWと予測されている。
230GWというのは、エネルギー高騰対応やロシアの天然ガスからの脱却を目指す欧州(75GW)や巨額の減税で再エネブームが続く米国(40GW)を足し合わせた数字の2倍にもなる。
また、上のグラフの赤い折れ線からわかるように、中国の再エネ年間導入容量はこの数年間勢いを増しており、累積導入量を含めてまさに圧倒的である。ちなみに、日本のこのところの導入量は年間数GWに過ぎず、比べようもない。
ウッド・マッケンジーは、この報告書を「中国は、いかにして世界の再生可能エネルギーのリーダーになったか」と題している。
背景の1つには、経済成長と再エネビジネスの二兎(にと)を追う中国政府の方針があり、必ずしも地球温暖化の防止の目的だけとはいない。
たとえば、世界の太陽光パネルの生産は、すでにほぼ中国製に収れんされている。政府の支援も非常に手厚い。中国でも再エネ(太陽光プラス風力発電:VRE可変的再エネ)の急拡大によって、出力抑制(系統の容量オーバーで発電を抑えること)の問題が起き、2020年の段階で10%を越えている。
この問題の解決のために、2025年に向けて送電線の強化のため65兆円という巨額の投資が政府によって約束されているという。投資による効果で2022年の抑制率は2%にまで低下すると報告書はまとめている。
世界最大の二酸化炭素排出大国の側面
一方で、中国には地球温暖化の原因で大きな責任を負っている。
最初のIEAのグラフを見直してもらいたい。この10年間の世界のエネルギー部門における二酸化炭素の増加量のうち、実に85%が中国である。
右の円グラフは、世界の二酸化炭素排出量を国別に割合として示している。おわかりのように、ダントツの1位が中国で、世界の排出量の1/3を占めている。日本は5位で3.2%だが、人口比を考えると1人当たりでは、日本の排出量が中国を上回ることは忘れてはいけない。
中国は、莫大(ばくだい)な温暖化ガスを出しながら、最高速で再エネを増やすという、複雑かつ、ある意味で“微妙な役割”を果たしていることになる。後述するが、この微妙さは中国経済の盛衰と相まって今後の温暖化の進行に対しても大きな影響を及ぼすことになる。
12月初旬に二酸化炭素の排出に関するあるデータが公表された。
イギリスのエクセター大学グローバルシステム研究所が、2023年の化石燃料由来の二酸化炭素排出量が過去最高になると、毎年行われる「グローバル・カーボン・バジェット」で発表したのである。それによると、2023年の二酸化炭素排出量は昨年比プラス1.1%の368億トンで、平均値は419.3ppmと産業革命前の水準を51%上回る。このままの排出量レベルでは、およそ7年間で温暖化対策の上限値プラス1.5℃を超える確率が50%になると推定されている。
排出量増大の主たる原因は、コロナからの経済復帰を果たしつつある中国と新興著しいインドにある。増加率は、中国がプラス4.4%、インドがプラス8.2%、一方EUがマイナス7.4%、米国がマイナス3.0%、その他の地域がマイナス0.4%と減少傾向に反している。
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