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航空機のCO2排出は輸送手段の中で最も高く(同じ重さ、同じ距離の輸送で比較した場合)、国際航空分野だけで世界全体のCO2排出量の1.8%を占める。そのため、欧州では「飛び恥」という言葉まで生まれ、航空機利用の批判が高まっている。解決策として、持続可能な航空燃料(SAF)がCO2削減の有望な手段だが、コストや供給量の問題がある。一方、海運分野では重油からアンモニアや水素への転換が進められており、川崎重工、日本郵船などの日本企業も積極的に取り組む。空と海の脱炭素に向けた動きを追ってみたい。
“罪悪感”を生む長距離のフライト、「飛び恥」の新語も
下のグラフは、世界各国別のCO2の排出量と国際航空分野での排出量の比較である。中長距離の航空機が主となる「国際航空」分野のCO2排出量はおよそ6.2億トンに及び、世界全体の1.8%を占めていることが分かる。
実は、航空機によるCO2排出率(同じ重さ、同じ距離の運搬での比較)は、道路や鉄道などの他のツールに比べて格段に高い。具体的に航空機は、道路輸送の5倍以上、鉄道の12倍以上である。
手段別のCO2排出(単位:gCO2/ton-km、出典:OECD)
欧州などでは、「航空機が脱炭素に反する」との考え方がじわじわと広がり、特に中長距離フライトの利用は「罪悪感さえ覚える」との声もある。
やや旧聞だが、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリ氏は、2019年に開かれた国連の気候変動会議に、大西洋をヨットでわたって出席した。一種のパフォーマンスともいえるが、CO2排出の大きい航空機を嫌ったのは明らかである。
スウェーデンでは、その後、環境破壊につながるとして航空機利用を避ける運動が起き、「フライトシェイム(Flight shame)」という言葉まで生まれた。日本ではこれを訳して「飛び恥」と名付けたメディアも現れている。
代替航空燃料「SAF」と電気・水素の可能性
航空機への批判に対する策は何があるのだろうか。
物資の輸送となると、鉄道や船舶への転換などがまず頭に浮かぶ。たとえば、アップル社は、スマートウォッチの主力Apple Watch Series 9を脱炭素化した際、輸送を航空機から船舶や列車などに大幅に切り替えたと発表している。
たしかに欧州内で電車で移動することは、実用的な意味でも十分可能性がある。しかし、日本のような島国では、長距離の旅客移動を船舶に切り替えることは、効率の観点から現実的ではない。もちろん欧米でも大陸を越える長距離の移動は同様の課題がある。
そこで注目を集めているのが、「持続可能な航空燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuel)」である。
SAFは現状の機体で、ジェット燃料の替わりに使うことができる。国連の専門機関であるICAOに登録されているSAFの原料は、写真にある廃食油やサトウキビなど21種ある。従来のジェット燃料と比較して、およそ60%~80%のCO2削減効果があるとされる。国内でも、SAF利用に向けての実証などが進んでいる。つい先日も、伊藤忠商事や日本航空など7社がSAF利用促進プロジェクトの開始を発表したばかりである。
短期的に見て最も有望なのは廃食油であるが、SAFへの利用が比較的簡単なため中国や日本などの間ですでに取り合いが起きている。とはいえ、SAFのコストは通常のジェット燃料の数倍以上でこちらもネックとなっている。また現在のSAFの利用量は全ジェット燃料の0.1%程度にすぎない。原料不足の解消は簡単ではなく、SAF以外の代替策は必須である。
よく挙げられる電動飛行機は、搭載する蓄電池の重さが絶対的な課題となる。これは後述する船舶や長距離トラックでも同様である。脱炭素に向けての交通や運送では、短距離と中長距離の間には“高い壁”が存在することを忘れてはならない。
もう1つ考えられているのが水素であるが、こちらは水素の軽さが問題になるという。搭載する燃料(水素)タンクはどうしても大きくならざるを得ず、航空機の形状自体からの検討が必要となる。実用化にはまだまだ時間がかかりそうだ。
続いて、海運について見てみよう。
【次ページ】海運の脱炭素、注目すべき「次世代船舶」とは
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