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米国は
中国に次ぐ再エネ大国だ。その脱炭素化をけん引するのが、2022年夏にバイデン政権が制定したインフレ抑制法(IRA:Inflation Reduction Act)だ。70兆円規模に及ぶこの法律の威力はすさまじく、米国では再エネの導入が急加速している。順調に見える米国の脱炭素戦略だが、実は2025年の初めにその動きを阻まれる可能性がある。それはなぜか。
70兆円規模のIRAと「気候変動対策」の効果
IRAの根幹は、主に減税政策である。ここでいう減税とは、基本的に投資(設備の建設、機器の購入など)にかかる税金を大幅に下げることを意味する。
IRAの対象となる歳出(ここでは減税分)は総額およそ5,000億ドル、現在のレート(1ドル=145円)で換算すると72兆5,000億円という巨額に及ぶ。
全体のおよそ8割(58兆円)が「気候変動対策」への減税である。残り2割が医療保険改革関連だ。気候変動対策のうち、脱炭素に関するものが圧倒的で、IRAが米国のカーボンニュートラルへの政策であることは明らかである。
米国のエネルギー政策の主たる官庁であるDOE(米国エネルギー省)のWebサイトには、IRAに関して巨額の資金を割り当てているとの記載がある(トップ画像)。
減税項目のメインである「クリーンエネルギーの導入」では、太陽光パネルや風力発電タービン、蓄電池を製造する設備の投資や鉄鋼やセメント工場でのCO2削減設備導入などが対象となる。また、家庭での太陽光発電設備の導入や省エネ機器の購入にも税額控除などがある。
ちなみに法律の名称“インフレ抑制”は、国の歳入(歳出は、気候変動対策などの減税)を増やすこと(増税など)で財政赤字を減らして、インフレからの脱却を達成することから名付けられている。
日本では、再エネ拡大に補助金を使われることが多いため、減税の効果がなかなかピンと来ないかもしれない。しかし、この法律の威力はすさまじく、後述するが、米国では再エネの導入が急加速している。インフレ抑制法が持続する10年間で、再エネ電力は急拡大すると予測されており、非常に高い目標値の達成も夢物語ではなくなっている。
野心的だが可能な目標となった米国の脱炭素戦略
米国が目指す脱炭素化は、2030年に2005年比でマイナス50-52%、2050年にネットゼロというものである。次図のように2030年に向けて(緑の点線)カーブは大きく下がっており、目標達成は簡単ではないことが分かる。
脱炭素のツールの主役は電力の再エネ化であり、EVなどによる電化とセットになって効果を発揮する。つまり、この緑の点線を実現する重要な後押しがこのIRAと考えることができる。
次の図を見てもらおう。米国は2035年に電力の脱炭素化を目指している。
お分かりのように、電源で最も割合が大きいのは太陽光+風力発電のいわゆるVRE(可変的再エネ)である。1番右の棒グラフでは、EVで交通、ヒートポンプで熱の脱炭素を進める「電化」が進み、電力需要が増加するケースも示されている。
2035年での電力の脱炭素化は、再エネ先進国の
ドイツと同等の目標であり、十分野心的である。ドイツは2023年の再エネ電力の割合が6割近くまでになったものの、風力発電の導入目標に届かず、先行きは必ずしも明るいとはいえない。
一方米国は、IRAの効果はまだ薄れていない。中国に次ぐ再エネ大国へのレールは敷かれつつあると言って良い。
IRAによる効果として、蓄電池の例を挙げておこう。
脱炭素実現の重要な要素であり、IRAの対象の蓄電池の総量は、2021年から倍々ゲームで、2024年も昨年の倍という大きな伸びを見込んでいるのだ。
【次ページ】米国の脱炭素化を阻む「最大の敵」とは
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