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汎用コンピュータ全盛の時代からIT業界に身を置く川口亨氏が、その豊富な経験を評価されてA10ネットワークスの日本法人代表に就任してからおよそ2年半が経過した。DDoS対策ソリューション「Thunder TPS」をはじめとするセキュリティソリューションが好調な中、5月には「Harmony Controller」の提供を開始するなど、矢継ぎ早に新ソリューションを市場に投入するA10ネットワークス。川口氏は、日本のネットワーク市場をどう見ており、同社をどのような方向に導こうとしているのか。「Harmony Controller」の概要と提供の狙いも含めて、話を聞いた。
日本のセキュリティビジネスの大きな波はこれから
──日本のネットワーク市場やセキュリティ市場の現状をどのように感じておられますか。
川口氏: ネットワーク市場全体としては、あるブームが去っても、すぐに次のブームが起こりながら、全体として右肩上がりに成長しています。セキュリティ関連市場は活況で、パートナーさまの関心も強く感じます。
その中でA10の既存顧客に対しては、今までの基盤の上に、彼らの求める価値を提供できるポートフォリオが提案できれば、間違いなくビジネスに繋がっています。特にセキュリティとマルチクラウドのソリューションには興味を抱かれているようです。
──企業のセキュリティへの関心は高まっていると思われますか?
川口氏: 日本企業でもCIOやCISOといった役職が増えてきていますが、その権限は欧米に比べるとまだまだだと思います。また、これからの経営者はセキュリティ事故に関して、何が起きたのか、なぜ起きたのか、今後は防げるのかの3つに答えられないと務まらないというのが米国ではすでに常識ですが、多くの日本の経営者はそこまでに至っていません。
このような現状なので、日本のエンタープライズ向けセキュリティ市場の本格的な立ち上がりは、まだこれからだと考えています。それまでに力を整えて、波が来たら一気に乗りたい。そのため、世の中の動静をしっかり観察していますが、ベンダー目線で見ると間違えるので、あくまでお客さまやパートナーさまの視点で見るようにしています。
──こうした中でも「Thunder TPS」をはじめとしたA10のセキュリティソリューションが受け入れられた理由は何だったのでしょうか。
川口氏: A10はこれまでADCとCGN(Carrier Grade NAT)を中心に製品を展開してきましたが、大規模DDoS防御のThunder TPSやSSL暗号通信を可視化するThunder SSLi、ADC/CGNとファイアウォールが一体となったハイパフォーマンスセキュリティプラットフォームThunder CFWなどのセキュリティソリューションを新たに市場に投入し、特にThunder TPSは提供開始から2年を待たずに市場3位にまで成長しています。Thunder TPSの成長には大きく2つの理由があります。1つは、A10がDDoS対策ソリューションを提供するにあたって、どういうものなら使ってもらえるかをお客さまに徹底的にヒアリングし、米国本社にニーズを伝えたことです。その結果、Thunder TPSは大手通信事業者を中心に導入していただき売上額としても期待以上の成果を上げることができました。今後もさらに広げていく努力を続けていきます。
もう1つは、大規模DDoS攻撃を引き起こした「Mirai」に代表される具体的な攻撃が増えてきていると同時に、防御に必要なネットワーク帯域が大きくなったことです。A10の製品は小さな筐体で大容量なのが特長ですので、コストパフォーマンスの高いソリューションを提供できることが市場での評価につながっているのではないかと思います。
「A10 Japanラボ」を拡充した狙い
──7月の本社移転に伴って「A10 Japanラボ」を拡充した狙いは何でしょうか。
川口氏: 「A10 Japanラボ」は、主に三つの観点から拡充整備いたしました。
先ずは日本国内において、日本のエンジニアが直接製品検証や品質保証の作業に関わることを実現しています。米国本社内に日本のための品質保証チームを設けても十分ではありません、国内に実際の作業に関わるエンジニアの組織化とその作業環境の実現整備が必要です。
2点目は、お客さまやビジネスパートナーさまにPOC(概念検証)を含めたテストを行うことができる環境を提供することです。弊社のエンジニアが直接携わってテストできる環境を用意することで、お客さまやパートナーさまの安心感に繋げます。もちろんお客様の環境を実際に再現することも可能です。
3点目は、このA10 Japanラボを、ガラス張りで、中の様子をすべて見ることができるようにしたことです。こうすることにより、お客様は導入を予定されている機器の稼働している様子などを直接ご覧いただけます。また、実機を使った検証設備をご覧になり、国内における弊社のサポートに対する実際の取り組みをご理解いただくことによって、弊社のサポートに対する信頼にもつながると考えています。
実は、弊社のエンジニアにとっても外から見られることによる緊張感の醸成に役立っています。
こうした狙いを念頭に2017年の7月に行った今回の移転に伴い、そのスペースを1.5倍に拡張しました。A10 Security Lab.やパートナー様との連携ソリューションをご紹介するデモ環境などにも今後拡充する予定です。
A10 Japanラボは技術的にも営業的にも極めて大切な資産であると同時に、我々A10ネットワークスのハートのような存在であると位置付けており、お客様や来訪者の皆様に是非直接ご覧いただければと願っています。
A10の考えるクラウド事業とは?
──クラウドについてもお聞かせください。インフラをクラウドでシンプルにできると言われながら、既存インフラも捨てられないため、かえって複雑化していて、IT部門は苦労しているようです。
川口氏: その通りです、オンプレミスも含めたマルチクラウドへの対応が必要です。そこで弊社は昨年、伝統的なオンプレミスやソフトウェア及び仮想ネットワーク環境、そしてマルチクラウド環境の橋渡しを実現するべく、Appcito(アプシート)社という企業を買収しました。後ほど詳細はお話ししますが、併せて、弊社の新たな製品戦略の柱になる「Harmony Controller」のベースになるテクノロジーをさらに充実させることが目的です。
リー・チェンは、買収は会社を大きくする手段ではなく、必要なテクノロジーを有機的に統合して早期に夢を実現する手段と考えています。Appcitoはそのポリシーに則った買収です。こうしたリー・チェンのポリシーには、マーケットにも投資家にも、さらには社員にもある種の安心感を持って受け取られています。
──日本のクラウド市場をどう捉えていますか。
川口氏: 日本でのクラウドの利用規模はまだまだ小さく、米国や欧州、さらには先進的なアジア諸国に比べれば従来のモデルに縛られている、と見積もられていますが、一部の市場はそうかもしれないし、あるいはようやく進行が進んできた、という段階かも知れません、ただ、それはユーザーが大きく喧伝をしないので、その実態が調査会社等を通しても見えないだけで、感覚的な想像やイメージよりは遥かに進んでいると考えています。
従って、利用が本格化してきた際に、ゆとりを持って受け止められる備えを心掛けています。実際のお客様との会話の中ではこうした備えへの期待は思いのほか大きく、継続した投資は惜しみなく行っていきます。
イベントや講演の中でもクラウドの話を積極的に行っていますし、Office 365といった特定のアプリケーションの利用を快適にするソリューションも提供しています。9月に開催した年次イベント「A10 Forum 2017」でも、Office365の快適利用をテーマにしたセッションや展示を設けていましたが、特にお客様からの関心が高かったと感じています。
DevOpsと高品質なサービス提供を支える「Harmony Controller」
──このような状況の中「Harmony Controller」の提供を開始しました。どういうソリューションなのでしょうか?
川口氏: アジャイル開発やDevOpsへの取り組みが増え、開発環境もクラウドにシフトしています。その中で、開発手法の変遷、ビルド構築回数の増大、変化するサービス需要への対応、可視化や分析機能の強化といった新たな課題が出てきています。
「Harmony Controller」を一言で説明すると、オンプレミスとマルチクラウドの環境で、アプリケーション配信とそれに加えてセキュリティ機能、分析機能を一元管理できるコントローラープラットフォームです。IDがあればすぐに利用できるSaaS型と、プロバイダー向けに「Harmony Controller」自体を提供するセルフマネージド型の2つの提供形態があります。
「Harmony Controller」は、クラウド上に運用されている「Lightning ADC」というインスタンスを集中管理しています。「Lightning ADC」は、ADC(Application Delivery Controller)、WAF(Web Application Firewall)およびDDoS防御機能をクラウド上で統合的に提供するものです。
AWSはもちろんAzureやGCP他のクラウドもサポートしているし、オンプレミスでも動作します。VMWareもDockerコンテナもサポートしています。
DevOps型の開発をする企業には必須機能であるBLUE-GREENデプロイメントをサポートしています。またアプリケーションの提供状況をマルチクラウドで可視化することができ、エンドツーエンドでサービス・エクスペリエンスの把握ができます。
まとめると、DevOps系デプロイメントに関しては、自動化、BLUE-GREEN、API連携で対応し、高品質サービス提供については、アプリケーション可視化機能でユーザーエクスペリエンスをコントロールして、厳しいビジネス環境に対応することができます。クラウド移行後、オンプレミスも含めたマルチクラウド環境で、一元的にアプリケーションサービスを運用できる新しい環境──「Harmony Controller」とは、そういうソリューションです。
──最後に、A10ネットワークスとしての今後のビジョンを教えてください。
川口氏: 2015年からの4年間、そして2020年までには売り上げを倍増するべく準備、実行しています。実際に2015年から2016年までの間、2014年実績対比で期待以上の成果を上げています。新製品への期待、お客様やビジネスパートナー様の温かいご支援、そして社員の優れた経験・知見・能力と併せ、高く掲げた目標は必ず実現できると確信しています。
一方、これからはマルチクラウドとセキュリティでビジネスの拡大を進めて行く方針ですが、これまでADCとCGNが我々のビジネス基盤を実現してきたことを忘れてはなりません。これらに対する投資も惜しみなく継続していきます。
夢としては、これまでA10ネットワークスを支えていただいた皆様の声を大切にし、「Harmony Controller」を中心に、マルチクラウド環境下におけるセキュアなアプリケーションサービスを成功裡に導いていく会社であることを標榜しながら、Win(A10のお客様とビジネスパートナー様)、Win(お客様の先のお客様)、Win(A10ネットワークス)、の三つのWinを目指して、新しいステージへと一歩一歩前進していきたいと考えています
──本日はありがとうございました。
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